第2回ジャパンSDGsアワードで、金融機関としてはじめての受賞となった滋賀銀行。同行は以前から積極的にCSRや環境経営に取り組み、その動きをSDGsにつなげている。金融機関としてどうSDGsに寄与するのか。同行の嶋﨑 良伸氏に伺った。

嶋﨑 良伸氏 株式会社滋賀銀行 総合企画部 広報室長兼CSR室長
広報室長を5年務め、2018年2月からCSR室長を兼任。2017年11月、地方銀行として初となる「しがぎんSDGs宣言」の起案にも携わる。SDGsで地域社会の未来をデザインする、との想いを胸に、課題解決型ビジネスの展開で、持続可能な社会の実現を目指す。

滋賀県に根づく環境意識と『三方よし』の精神

近江商人である西川貞二郎らが創業した八幡銀行と百卅三銀行の合併により1933年に設立された滋賀銀行。近江商人をルーツに持つ同行ではすべての活動のベースに『三方よし』の経営哲学があるという。

CSRにも早い段階から取り組み、環境・福祉・文化を3本柱としてCSR経営を行ってきた。

特に環境については、1998年に当時の頭取が「21世紀は環境と平和の世紀になる」と環境経営に乗り出したことがきっかけであり、その長年の取り組みが2017年の、地方銀行初となる『SDGs宣言』につながった。

同行が早くから環境経営に取り組んできた背景には、滋賀県の地理的特徴もある。滋賀銀行の本拠である滋賀県の面積の2分の1は森林であり、また6分の1は近畿地方1540万人へ生活水を供給する琵琶湖が占めている。自然環境は「日本人の財産であり、将来にわたって引き継いでいくべきもの」という県民意識がある。

高度成長期は排水が琵琶湖に流れており、特に液体洗剤はリンを含んでいたため赤潮が異常発生した。これを契機に粉石鹸(無リン洗剤)を使おうという市民運動が起こった。こうした歴史から、人々が環境意識を高く持つようになった。

また滋賀県では『三方よし』の精神、つまり商いは自分だけよければいいというのではなく、社会、世の中がよくならないといけないという考えの発祥の地であり、滋賀銀行の環境経営のベースにもつながっているのである。

本業でもCSRでも、全方位で環境経営に取り組む

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図 SDGsに基づいた商品・サービス展開

現在、滋賀銀行は『環境経営』の視点で環境金融、エコオフィスづくり、環境ボランティアに取り組んでいる。

環境金融の面では2005年にPLB格付を導入。省エネや省資源、ISOの取得状況によって金利を優遇しており、総延実行件数は470億円を超えた。

「これにより、お客様に環境への配慮が企業の持続性を生み出す大きな機会だと認識してもらうことができます。また、インセンティブを付加することで企業価値向上を後押しすることもできます」と嶋﨑氏はいう。

また『エコプラス定期』では、預金1回あたり7円を滋賀銀行が負担し、貯まった資金を環境保全活動に役立てている。拠出金累計額は約1700万円に上り、顧客とともに環境保全活動をサポートしている。

また、地方銀行としてはじめて、SDGsに貢献する新規事業に対する環境融資も開始。金融面からビジネス創出を後押しするねらいだ。

省資源・省エネを目指したエコオフィスの取り組みでは、栗東支店にてCO2の排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル店舗」を旗艦店として34%の省エネに成功したほか、太陽光パネル設置による太陽光発電や、自然光、自然風、雨水の利用やCO2センサー付き全熱交換器の設置などCO2排出を削減するエネルギー技術を活用したオフィスになっている。

また、行員らは環境ボランティアにも積極的に参加しており、こういった活動は地域との密な連携にもつながるという。

アウトサイドインでSDGs経営に取り組む

SDGsに関して嶋﨑氏は『パラダイムシフト』と捉えている。

「SDGsは誰一人取り残さないという理念に基づいています。ビジネス視点では持続的に社会的課題を解決するためのエンジンが必要で、それをビジネスにつなげマネタイズしていくことが必要です」

SDGs経営としてはプロダクトアウトではなく、「社会的課題起点(アウトサイドイン)」で事業を行っていく考えで、長期的にコンサルティングする商談会やスタートアップ支援などにも取り組んでいる。

また、地域新電力である「こなんウルトラパワー」とともに私募債型のグリーンボンド発行や農業分野でのGAP認証支援などの持続可能な農業支援を行っている。さらに、水環境の改善、JICAとの連携やSDGs私募債、LGBT支援など、矢継ぎ早に施策を展開している。

長期的視点でSDGs経営を『走りながら考える』

SDGsの活用について、これまでは17のゴールにリンクする活動を行うことでSDGsに紐づける、比較的短期的な視点での活用であったと嶋﨑氏は話す。「これからは長期的視点で、経営にどう落とし込むかが重要です。KPI、長期ビジョンの策定に取り組んでいきます」とSDGsを経営に統合させていく構えだ。

また、ESG投資を進化させたSDGs投資やSDGsリテラシー向上のための人材育成なども目標に掲げている。

嶋﨑氏は、『地域循環型社会』の構築が今後必要だと考えている。特に再生可能エネルギーは必須であり、将来を見越して今から再エネをはじめとした分散型電源を地域に備えていく必要があるという。

「まずは走り出すことが重要。SDGs宣言を発表し、行員を導くリーダーシップが大切です」と嶋﨑氏は語る。

「取り組みはまだはじまったばかりです。本質的にSDGs活動が根づき、地域の持続可能性を高めることが地方銀行の役割です。トライアンドエラーを繰り返し、走りながら考える。これからが重要だと思っています」

SDGs経営に向け、滋賀銀行の挑戦は新たなステージに入る。

 

この記事は、環境ビジネスオンライン 2019年04月08日号より、アマナデザインのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。