マサチューセッツ州ケンブリッジのとある屋上。気温は0℃を下回っているが、マサチューセッツ州工科大学(MIT)の研究チームが開発した集熱器の中は220℃にもなる。この集熱器は、可動部品、コンプレッサー、真空ポンプなどを一切使用せず、太陽光と特殊エアロゲルだけで動く。MITでは、米エネルギー省のARPA-Eプログラムの助成を受け、4年の歳月をかけてこの装置を完成させた。

MIT heat collector aerogel

新しく開発されたエアロゲル断熱材は、かなり透明度が高い。この写真では、平行レーザービームを使ってエアロゲルを可視化している。
写真提供:MIT News

MIT Newsによると、エアロゲルはシリカの粒子から作られる多孔質の素材である。シリカはガラスの主原料で、豊富にあるので価格が安い。エアロゲルは、非常に効率的で軽い断熱材になるが、入ってくる可視光の多くがさえぎられるので、太陽熱集熱器としての使い道は限られていた。

MIT機械工学科のエブリン・ワン教授は「研究チームでは、4年の歳月をかけて、高い断熱性を維持したまま、可視光の95%を透過させるエアロゲルを完成させました」と語る。開発されたのは、ほとんど目に見えないほど透明なエアロゲルだ。

エアロゲルを作る際の触媒とシリカ原料の比率を最適化したこと。そして、その後にちょうどよい加減で乾燥したこと。これら2つの工夫が、このエアロゲルの開発成功のカギだった。乾燥後にできるのは、ほぼ空気でできている構造体だ。それにも関わらず、この構造体は元の混合物の強度が残っている。従来のエアロゲルよりもはるかに短時間で乾燥させることで、ゲルの粒子間の孔隙が通常よりも小さくなる。それにより、内部に散乱する光が大幅に抑えられているのだ。

大学院生のリン・チャオは、エアロゲル層の基本的な機能を「温室効果のようなもの」と説明する。「装置内部の温度を上げるために使う材料は、地球の大気が熱を遮るときと同じように動きます。これはその極端な例です」

新しいエアロゲル技術を用いた太陽熱集熱器は、太陽熱を使った温水器の代わりになる。価格も温熱器よりも安い。暖房器具としても使えるので、住宅や商業ビルの暖房コストの削減にもつながる。生成できる温度は200℃以上。そのため、工業や農業など様々な分野での活用も期待されている。

エアロゲルの原料コストは安い。ただ唯一コストがかかるのが乾燥の工程だ。この工程では「臨界点乾燥機」と呼ばれる特殊な装置を使い、エアロゲルのナノスケール構造を保ちながら、溶媒を抽出する。

ワン教授は、一般的な量産方式であるロール・ツー・ロール方式は、エアロゲルの乾燥工程には適さないと語る。「量産化のカギは、乾燥工程のコスト削減です」と彼女は言う。一部の用途では、ガラス表面と基板の間を真空にした従来型のシステムと比べ、エアロゲルのほうが経済的に実用可能な水準にある、という分析結果もすでに出ている。

研究室で生まれた革新的な技術すべてに言えることだが、このエアロゲルも量産化は何年も先になるかもしれない。しかし、無料で得られる太陽光からの熱を確実に利用できる点は、建築物の脱炭素化の重要な手助けになるだろう。建物の暖房は大量の化石燃料を消費しているのだから。

実質タダでCO2も排出しない太陽の熱を利用するエアロゲル。この技術に太陽電池パネルの登場以来の最大の期待が寄せられている。

著者について

スティーブ・ハンリーは、ロードアイランド州の自宅やさまざまな取材先から、テクノロジーと持続可能性の接点について執筆している。モットーは「人生は何回息をするかではなく、何回息をのむほどの感動を味わったかで決まる」。フォローはこちらのGoogle +Twitterにどうぞ。

 

この記事は、CleanTechnicaのスティーブ・ハンリーが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。