米カリフォルニア州メンロパークから、大ニュースが飛び込んできた。代替タンパク質源の生産を行うCalysta社がプロテイン製品「FeedKind」を世界展開するにあたり、石油大手BP社のベンチャーキャピタルであるBP Ventures から3000万ドルもの巨額投資を受けたのだ。世界的な食料安全保障に大きな前進をもたらすとされるCalystaの持続可能な単細胞由来のプロテイン。これは、メタンを餌とする特殊なバクテリアを用いた同社独自のガス発酵プロセスによって生産されているものだ。商品化に向け、このプロセスの実証実験は既に完了しているという。また、このプロセスで用いられるバクテリアは天然で発生するものであり、遺伝子組み換えはされていない。CalystaはBPの天然ガスをエネルギー源として、魚や家畜の飼料となるタンパク質を生産する。もしこれに再生可能なメタンガスを利用できれば、この技術の可能性はさらに広がる。
本記事では、FeedKindの生産に用いられる特許取得済みの発酵プロセス、天然ガスを提供するBPの役割、高まる養殖需要に持続可能な形で応えるFeedKindの役割、魚用飼料の生産に食品廃棄物を活用できる可能性などについて説明していく。
技術とプロセス
Calystaの発酵プロセスでは、耕作地を必要とせず水もほとんど使わない。人間の食物連鎖に影響を及ぼすことなく、少ない資源から多くの食料を生産できると同社は言う。そうして生産されたプロテインは現在、主に魚や家畜、ペット用飼料に含まれる従来の原材料に代わる新しい成分として使われている。
FeedKindの生産で用いられるバクテリアは、同社独自の発酵槽の中で培養されている。この時の炭素やエネルギー源となっているのが、メタンだ。こうして生み出される単細胞由来のプロテインは、抽出・乾燥された後、粒状に成形される。この天然発酵プロセスは、製パン用のイーストを作るプロセスに似ている。培養するバクテリアは、世界中にある健全な土に天然で存在するものだ。またFeedKindを摂取した魚や家畜の風味や食感に違いは感じない。
「Calystaは、まず水産養殖業での使用拡大を狙っています。この業界では、FeedKindは従来のタンパク質源への依存度を下げ、市場を成長させるカギになると考えられています」
同社の発酵プロセスは、水産養殖業だけでなく、農業での飼料の需要の高まりにも応える可能性を秘めており、さらに既存のものよりも環境負荷を抑えられるようだ。BPによると「世界の水産養殖市場は2025年までに最大25%拡大する」と予想されている。市場拡大が予想される中で、Calystaのプロセスは魚の乱獲対策になるだろう。現在使われている魚粉や大豆といったタンパク質濃縮物に代わって、FeedKindが持続可能な代替タンパク質源となるものと期待されている。
「2010年に70億人だった世界の人口は、2050年には98億人になると予想されています。2050年には開発途上国でも所得が増え、世界全体の食料需要は50%増加し、中でも動物性食品の需要は約70%も増加すると考えられています。FeedKindなら、森林を破壊しません。不毛になった土地や放棄地の回復を待ちながら、食料の需要増大に応えられます。持続可能な食料の未来の実現に貢献できるのです」
「多くのお客様の協力もあり、世界中で試用実験をおこなってきたので、FeedKindの有用性や安全性、栄養価は既に実証されています」とCalystaは言う。FeedKindの生産は、英国ティーズサイドにある同社の「Market Introduction Facility(MIF:市場投入設備)」ですでに始められており、世界各地の大手飼料企業とともに、市場開発にむけた取り組みを進めている。
Feedkindの紹介映像はこちら。
Calystaの思惑
食品生産のサプライチェーンが問題に直面しているのはなぜか。なぜFeedKindへのBPによる投資が「ゲームチェンジャー」となるのか。その理由を、Calysta社長兼CEOであるアラン・ショー博士がこう説明している。
「BPとの提携は、FeedKindにとって大きな前進です。世界で食料不足が懸念される中、その不安に応える当社のソリューションは必ず世界展開できる、という確信がこれまで以上に強まりました」
「将来のさらなるプロテインへの需要を満たすため、土地が不足していることや水が不足していることが大きな課題になるということは、多くの裏付けにより示されています。そのため、食品生産のサプライチェーンが抱える問題はますます見過ごせなくなってきています。FeedKindを使えば、少ない資源から多くを生み出すことができます。資源を賢く利用しながら家畜や魚、ペットの餌を生産できるのです」
「BPと緊密に提携しながら、この製品を世界にお届けする準備を進めていくことを楽しみにしています。生産工場を配備していく段階で、CalystaはBPの持つ優れた運営力や安全意識の高さから、良い影響を受けると思います」
天然ガスの可能性拡大に対するBPの関心
興味深いことに、BP Venturesは今回の投資について、食料安全保障やプロテインの側面についてはあまり語らず、主にガスや電力の供給について語っている。といっても、同社の投資対象は後者であるため何ら不思議ではない。両者の投資契約のもと、BPとCalystaはガスと電力の供給に関して戦略的提携をつながるだろう。これから予測される飼料需要の高まりを踏まえると、BPのガス供給事業の中で今回の取り組みの割合が増える可能性があるのだ。
BP Venturesのマネージングディレクターであるメーガン・シャープは「BP Venturesの仲間に迎えたCalystaの皆さんと協働しながら、当社のガス事業の新たなビジネスチャンスを探っていくことを心から楽しみにしています。Calystaの技術は、未来のための持続可能な商品を提供しながら、当社の中核事業を補完するものです」と語っている。
BPのプレスリリースでは「今回の投資は、持続可能な未来に向けてガスが重要な役割を果たすことができる新たな市場を創り出します。カリフォルニアに本社を置くスタートアップ企業CalystaとBPの間でガスと電力の供給に関する提携を結ぶ、という当社の戦略にもとづく取り組みでもあります」と発表された。
BPの戦略部門代表を務めるドミニク・エメリーは、「Calystaは将来有望な技術とスタートアップならではの行動力を持っています。提携により、こうした長所にBPの持つ世界的規模とガス市場における知見を掛け合わせられます。世界の人口増加に伴う食料安全保障や持続可能性の問題を改善する機会になるでしょう」
今回の提携を受けて、BP Venturesのシニアプリンシパルであるデイビッド・ヘイズがCalystaの取締役に就任する予定だ。
最後に
この技術が期待を集める理由はたくさんある。より持続可能な手法でタンパク質を作り世界的な需要増加に応える一助となることも理由の一つだ。だが天然ガスは化石燃料の一つに過ぎない。それでもこの技術には確かな可能性がある。それは、食品から食品を作り出す可能性だ。言い換えると、いのちの完全な循環。つまり、終わりが始まりにつながり、始まりが終わりにつながる状態が実現する可能性だ。
考えてみて欲しい。BPの天然ガスを使う代わりに、再生可能なメタンを使って同じ製品を作れないだろうか。食品廃棄物の嫌気性分解により発生したメタンをこの技術に応用し、最終的にFeedKindに作り変えることはできないだろうか。「食品から食品」を実現できないか。食品廃棄物から魚の餌を作り出すことも可能ではないだろうか。
実際、アルゼンチンでは牛の体に「屁パック」を装着して牛の出すメタンを回収していたが、これに今一度目を向けて欲しい。牛からメタンを回収し、FeedKindの生産に利用することはできないだろうか。
Calystaによると、FeedKindは食料安全保障問題の解決の一助となる。気候変動が進み、地球の人口が増加し、水などの資源が不足し、火災や洪水なども頻発する…。聖書の予言のような事態が進んでいくと、食料安全保障の問題は一層深刻化していく。
そのまえぶれは、すでに目の前で起きており、さらに言えば何年も前から起きていた。そんな中、食料安全保障問題における「ゲームチェンジャー」が現れた、ということは、未来が変わることを意味する。Calystaの技術によって、食品廃棄物などから発生した再生可能メタンを魚の餌に変えられる日が来たら、未来はさらに明るくなる。そうなれば、農産資源を一切使わずに、再生可能なメタンガスから作られたタンパク質源で育った魚や牛、鶏の肉を人間が口にする未来が訪れるかもしれない。もっと希望に満ちた未来を心に描き、考えを巡らせてみよう。
この記事は、Bioefuels Digestのヘレナ・タヴァレス・ケネディーが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。