最近、ちまたで話題のバイオメタン。英国では100万世帯が、農場や生ごみから得られる「グリーンガス」を暖房や調理に使っているといい、バイオメタン工場が現在60ヵ所もあると英紙The Guardianが報じた。また、「グリーンガス認証計画」というグリーンガス提供組織によれば、グリーンガスの供給を受ける世帯の数は2017年から13倍に急増していて、2050年には1000万世帯にも達する可能性があると言っている。

嫌気性消化・生物資源協会(ADBA)は、生ごみの分解によって、英国のガス・電気需要の3分の1をまかない、新たに3万5000人の雇用を生み出すことができると予測している。

だが、この話は英国や欧州にとどまらず、牛に限った話でもなくなった。

そもそも、バイオメタンとは?

まず、バイオガスとバイオメタンの違いを明確にしよう。バイオガスはメタンと二酸化炭素を主成分としており、バイオメタンとは別物だ。バイオガスは有機物が嫌気条件下で分解される過程で発生する。一方、バイオメタンはバイオガスを精製してメタン濃度を90%以上にし、化石燃料の天然ガスに近い形にしたもので、広く天然ガス市場(運輸、電力など)に利用可能だ。

バイオメタンの原料は豊富にあり、生ごみを使う設備もあれば牛や鶏のふんを使う設備もある。また、農業廃棄物や埋立てごみを用いる設備もある。

バイオメタンは、輸送燃料に電力、プラスチック化成品の原料、メタノールやアンモニア、酢酸ホルムアルデヒドの原料、それに再生可能な水素の原料としてなど、多くの分野で利用できる。「奇跡の薬」というものがあるとしたら、バイオメタンはある意味それにあたるかもしれない。バイオガスをバイオメタンに変える過程では”発酵の残りかす”が生じるのだが、この扱いにくい繊維状の”かす”でさえもバイオ燃料の生産や革新的な繊維状建材の原料として役に立つ。つまり「無駄がなければ不足もない」ということだ。

バイオメタン市場

最近の市場調査報告によれば、「世界のバイオメタン市場は近ごろ大いに勢いを増し、いくつもの企業が新規に参入して競争が激化していて、各企業が競争で優位に立とうと生産技術を改良し生産能力を増強している」。米調査会社トランスペアレンシー・マーケットリサーチの報告書では、バイオメタンの世界市場は2017~2025年の間に年平均6.7%の成長率で拡大し、2016年の14億8540万ドル(約1589億4000万円)から2025年には26億2450万ドル(約2898億2000万円)に達すると予測している。

最近の動きの中で最も興味を惹かれるのは、一酸化炭素や合成ガス、水素といった化学分野の反応中間体を合成する用途でのバイオメタンの利用だろう。ベルギーのゲント大学のマーリン教授の研究グループは最近、二酸化炭素をメタンと反応させることにより、効率的に一酸化炭素に転換する”超乾式改質法”と呼ばれる手法を開発した。この一酸化炭素は、様々なものに応用可能な部品を合成するための原料として利用できる。

バイオメタンの現状

この分野の成長が大いに期待されているということはお分かりいただけたと思うが、現状はバイオメタンのニュースはあまりにも頻繁に発表されており、追いかけるのがやっとという状況だ。その中からいくつかのトピックスを紹介したい。

北米

カナダのモントリオール市は2019年5月6日 に、近々、灯油の使用を禁止すると発表した。この政策により5万世帯が影響を受け、エネジア社をはじめとする天然ガス供給会社がバイオメタンガスをまったく新しい視点で見るようになった。

・The Digest(2019年4月)によれば、クアンタム・フュエル・システムズ社は、クオンティテーティブ・バイオサイエンス社(QBI)と乳製品製造業のバイオガスプロジェクトにおけるガス輸送で協業する。QBIはカリフォルニア州エネルギー委員会から資金を得て、カリフォルニア州モデスト市にあるチーズ会社フィスカリーニと提携し、バイオ燃料生産設備を開発している。嫌気槽で得られるバイオメタンを精製・圧縮して車両用燃料にする設備だ。この事業ではさらに環境面でのさらなる工夫として、簡易な屋外培養槽(レースウェイポンド)で藻類を培養しており、これがバイオガス中の二酸化炭素をとりこみながら農場廃水を浄化する。この藻類は再生可能で、農場の牛の飼料にも活用できる。

・The Digest(2019年2月)によれば、カリフォルニア州に本社を置くアメティス社は、再生可能バイオメタンの消化槽クラスター(複数の酪農場で構成)の許認可・建設段階に入った。

・The Digest(2019年3月)によれば、ニューヨーク州では、米NGOエネルギー・ビジョンが州議会に申立てを提出し、「気候・コミュニティ保護法(CCPA)」において有機廃棄物由来のバイオメタンを再生可能エネルギー源とみなすべきだと主張した。

・燃料電池を製造する米ベンチャー企業ブルームエナジーも、最近、埋立地のバイオメタンを利用した50キロワットの発電実証試験を重要な成果だと四半期報告で大きく取り上げている。

欧州

・NUUが2019年4月29日に伝えたように、トルコではエピソーム・バイオテック社が、紙ごみをバイオガスやバイオ燃料、肥料などの役に立つ製品に転換する発酵技術の開発を進めている。同社では酵素を用いて、処理しづらいセルロース繊維をより小さな糖類に分解し、その糖類を微生物が発酵させ最終生成物を得ている。また、自社の技術を産業規模に拡大する計画があり、その実現に向けて提携先候補と交渉を進めている。技術の実用化を加速するために、2020年にはシリーズB(第2)段階の資金調達も目指しているようだ。

・ドイツのバイオガス設備製造業者ヴェルテック・バイオパワーは、英国ウェストヨークシャーのポンテフラクト近郊でバイオメタン工場の建設を開始した。依頼元は、アクア・コンサルタンツ社が展開するレインズ・ファーム・エネルギー(ガスを電力網に送るプロジェクト)で、Water Worldによれば、2019年後半にはこの工場が稼働する予定だ。・

イタリアのエニ社 はこのところ、いたるところで顔を見せる企業のひとつだ。The Digestによれば、2019年2月にはインドネシアの国営石油会社プルタミナと廃棄物の転換やバイオマスの価格設定のプロセス、廃棄物の燃料や水素への転換、下水汚泥の嫌気性消化によるバイオメタンの生産、バイオマス由来の先進型バイオ燃料、バイオマス由来の化成品などの分野で協力して機会を模索することを目的として覚書を交わした。

・さらに、エニ社はイタリアのヴェネチア都市圏の51行政区でごみの収集・リサイクル・処理など多様なサービスを手がけるヴェリタス社とも契約を締結した。この契約では、都市で回収される廃棄物をエネルギーに転換できることを確かめることを目的としており、バイオメタン、バイオ燃料、水素を生産する工場を作業グループが設計することとしている。特に重点が置かれるのは、水素を生産するためのプラスチックごみの処理設備と、バイオメタンを生産するための有機物処理設備の設計だ。加えて商業用車両の燃料として使われるバイオメタンをヴェリタス社に供給する設備の建設計画も進んでいる。今回の契約を通じて、ヴェネチアにあるエニ社のバイオリファイナリー(バイオ燃料で生産する工場)で生産される燃料「Eni Diesel+」が、まもなく多目的車両で使用されることが見込まれている。この燃料は増え続ける使用済み植物油を原料とするもので、2019年4月以降、市内すべての公共交通機関(船)で試験的に使用されている。

・The Digestによれば、エニ社はさらに2019年4月にもイタリア・バイオガス・コンソーシアム(CIB)と契約を結んでいる。これは運輸セクターでの使用を目的として、動物の排泄物や、農工業の副産物、さらにバイオメタンの原料用として栽培されている冬作物を用いた高性能バイオメタンの生産を拡大するためだ。同社は、約2億立方メートルのバイオメタンの生産を目指しており、CIBに参画する企業が農業や畜産で発生するメタンを集めて生産することとしている。

スコットランド自治政府とゼロ・ウェイスト・スコットランド は2019年4月24日、「食品廃棄物削減アクションプラン Food Waste Reduction Action Plan (FWRAP)」という新たな計画を発表した。家庭での発生が避けられない生ごみを確実にリサイクルするための取り組みだ。「この計画により、特に都市近郊で分解用設備(コンポスト)の需要が増えるだろう」と、プリビレッジ・ファイナンス社の事業開発部長クリス・ネグスは述べている。「農家や土地所有者、企業にとって、この分野に参入する絶好のチャンスです。スコットランド経済の脱炭素化に貢献しながら、ごみの環境負荷も減らすことができます」

スペイン政府は、自動車メーカーのセアトと協力してバイオメタン事業を進めている。ベルギーでは2018年12月、ブライト・バイオメタン社のシステムにより、初めてバイオメタンを生産した。これは同社にとってベルギーでの初の事業になるとともに、ベルギーでは初のバイオメタン工場となった。このバイオメタンシステムでは膜技術を使い、バイオガスを精製して1時間あたり91 Nm3のバイオメタンを生産する。これは350世帯が一年間に使用する天然ガスの量に匹敵する。アイルランドでは2018年に再生可能ガスを初めてガスネットワークに導入したとNUUは伝えた(2018年8月)。またフランスでは、廃水処理工程から原料を得てバイオメタンを製造・供給する工場を持つようになったなど、こうした動きは挙げればきりがない。

結論

すでにこれだけの企業や施設でバイオメタンを製造しているのに、まだピークにはほど遠いのが現実だ。バイオメタンという革新に向けた研究や投資の流れが途切れないことも興味深く、2019年5月7日には、英国ラフバラー大学の環境負荷の低い交通を推進するプロジェクト2件に対して20万ポンド(約2729万円)の助成金が与えられた。そのうちの一つが、藻類によるバイオメタン燃料の精製と炭素隔離に焦点をあてた研究だ。この研究では、天然ガス自動車の燃料になりうる高純度バイオメタンを生産すると同時に、残存するバイオマスとバイオガス(炭素)を藻類副産物とバイオ炭に隔離するという、革新的なプロセスを開発し、実用化を目指している。

これらすべての情報から、バイオメタンについて何が言えるだろうか。将来へのうねり? 見果てぬ夢? おとぎ話のような幻想? 一つだけ分かっていることは、今、バイオメタンの人気が沸騰中ということだ。

低炭素技術の実現が昨今のバイオメタン躍進の背景にあるとしても、それだけが理由だとは思えない。要するに、単純に分かりやすいのだ。廃棄物を使って、何か価値のあることをする。再生不可能な化石燃料由来の製品(燃料、プラスチック化成品、電力など)を、再生可能なものに置き換える。だからこそ、バイオメタンの将来は明るいのだ。

この記事は、Bioefuels Digestのヘレナ・タヴァレス・ケネディーが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。