東急は世田谷線への再エネ電力導入を皮切りに、省エネの積み重ねと再エネ電力の購入により、鉄道事業を中心に電力使用のCO₂排出総量の削減を目指す。さらにRE100加盟を宣言し、低炭素社会実現をリードする。

2019年3月25日、東京急行電鉄世田谷線が再生可能エネルギー100%の電力による運行を開始した。CO₂排出量ゼロの再エネ電力による通年・全列車の運行は日本初の試みという。運行に使用する再エネ電力は東北電力グループが保有する水力・地熱発電所が発電する電力で、東急グループの新電力、東急パワーサプライが取り次いだ。再エネ電力による運行で、年間1,263t-CO₂、東京ドーム約0.5個分のCO₂排出量を削減できるという。

世田谷線は三軒茶屋から下高井戸まで約5km、10駅を結ぶ東京・世田谷区東部を縦断する地域密着路線。一日の平均輸送人員5万8,076人(2018年度)で、東京では数少ない路面電車として、地域住民に親しまれている。カラフルな車体が住宅街を縫うように走る姿は鉄道ファンの間でも人気が高く、愛好者団体もあるという。

通年・全列車の運行を再エネ電力化

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世田谷線再生可能エネルギー100%による運行を電気記念日の3月25日に開始
写真提供/東急

東急は中期経営計画(2018~2020年度)で『Make the Sustainable Growth』をスローガンとし、サステナブルな「街づくり」、「企業づくり」、「人づくり」を基本方針とする。その重要テーマの一つとして「低炭素・循環型社会」を掲げ、具体化されたプロジェクトの一つが世田谷線の再エネ電力導入だ。

同社社長室サステナビリティ推進グループ企画担当課長補佐の鹿子島潔氏は「プロジェクトのポイントは、実施例が多いオフィスや工場等ではなく、鉄道という生活者に身近なインフラに再エネ電力を導入したことです。それも一部分ではなく通年・全列車の運行を再エネ電力化することで、通勤・通学のお客さまや地域住民など生活者の方々が普段の生活のなかで再エネ電力を意識し、その取り組みの社会的意義を認知していただき、再エネ電力の普及に貢献できればと実施しました」と狙いを話す。

一方、東北電力の再エネ電力を取り次いだ経緯について、東急パワーサプライの広報担当、柳本剛伸氏は「当社は東北電力さんから電力の卸供給を受けており、業務・資本提携の関係にもあります。そのため、業務運営などについて定期的に情報交換をする機会があり、その中で東北電力さんから再エネ電源の活用についてご紹介がありました。そこで当社が世田谷線の再エネ電力化についてご提案したところ、ご採用いただき、再エネ電力100%の運行が実現しました」と話す。

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再生可能エネルギー100%電力サービス(以下、再エネ電気)の提供体制
写真提供/東急

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エネルギー別CO₂排出量(2018年度)
写真提供/東急

東北電力では風力を中心に今後、再エネ電源について200万kWの開発を目指すことを発表。東急パワーサプライも東急グループの一員として、沿線生活における様々な環境問題への対応に再エネ電力を活用したいとしている。

使用電力の2/3を占める鉄道事業の省エネ対策

東急の主要事業は鉄道・バスなどの交通インフラ事業、オフィスビル、賃貸住宅等の不動産事業、CATV、電気ガス、百貨店、スーパー等の生活創造・リテール事業、ホテル・リゾート施設等のホスピタリティ事業からなる。

同社および連結子会社の使用エネルギー総量は原油換算11万5,057kl(2018年度)で、CO₂排出量に換算すると21万8,462t−CO₂となる。そのうちエネルギー別CO₂排出量をみると電力使用が77.8%を占める。さらに電力使用を事業別にみると鉄道事業における消費電力が全体の2/3を占めている。

そのため東急電鉄では従来より「低炭素・循環型社会」に向けた省エネ対策を積み上げてきた。まず、2012年2月からエコ運転プロジェクトを開始した。エコ運転とは惰行を活用して電力使用量を抑制する運転方法。各路線に精通した主任運転士が中心となって実施方法を精査・策定し、同年10月より東急線全線で取り組みを開始した。

2018年には田園都市線と大井町線にそれぞれ新型車両を導入した。沿線環境・社外の騒音を旧車両に比べ低減したほか、使用電力を旧車両に比べ50 %も削減した。全車両照明、全駅の構内照明のLED化も進めている。2018年3月には、東急線全営業車両にLED車内照明を導入。その他、駅務機器では省エネ券売機、省エネチャージ機の更新・導入も順次、進めている。

また、東横線渋谷駅では地下駅全体の換気・空調を行う際のエネルギー低減のために、地下駅での大規模自然換気システムを世界で初めて採用した。駅のホーム階から3層に渡る吹き抜けを設けるとともに、駅に直結する「渋谷ヒカリエ」にも屋外に通ずる吹き抜けを設置。熱い空気は対流によって「渋谷ヒカリエ」の吹き抜けから外へ排出され、替わりに外の冷たい空気が駅構内に導かれる仕組みだ。

日本初、鉄道事業を含む企業グループがRE100加盟

この9月、東急では長期経営構想を発表し、長期環境目標(CO₂排出量)を定めた。2030年に電力使用によるCO₂排出総量を30%削減し、2050年には電力使用によるCO₂排出総量を総量ゼロにする目標を掲げる(基準年は鉄道事業:2010年、不動産その他:2015年)。さらに10月には、鉄道事業を含む企業グループとしては日本で初めて「RE100」イニシアティブに加盟した。

今後の長期環境目標の進め方について、同社社長室サステナビリティ推進グループ企画担当課長、金澤克美氏は「長期環境目標にCO₂排出総量とあえて表記したのは、再エネ電力導入に拘っていないということです。まずは消費電力の絶対量を省エネによって削減する努力をすることが大切だと考えています。その結果、どうしても削減できなければ、その時には再エネ電力を購入する」と省エネを軸にすると表明。

また「RE100に加盟するにあたり、今後、鉄道の使用電力を安定的に100%調達することが可能かどうか議論になるところですが、経営層はそこをあえて宣言することが大事だと決断しました。低炭素社会実現に声を上げることで、省エネ機器開発やエネルギーサービスの充実などを促し、社会的に影響を与えていくことも、当社の使命と考えているからです」と長期目標を見定める。

この記事は、環境ビジネスオンライン 2020年04月13日号より、アマナデザインのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。