雪の降る冬の日は、動物の気配をほとんど感じない。落葉樹は葉を落とし、春夏に葉を茂らせていた低木も、寒々と枝を残すだけ。ときどき鳥の羽ばたきが聞こえ、えさを探す鹿を見かけるぐらいだ。雪景色は乾燥した砂漠のように、静かで不毛に見えるかもしれない。

でも、見かけにだまされてはいけない。なにもかもが止まって見える雪の世界だが、実は生命が息づいている。雪の下には、「サブニビウム(subnivium)」と呼ばれる活気に満ちた微気候の空間が広がっているのだ。そこでは植物が茂り、動物が動き回っている。

このミクロハビタット(小さな生息環境)は、その上をおおう雪に対する従来のイメージをくつがえすものだ。かつて、その白くフワフワしたものから思いつくことと言えば、地上の動物たちのえさを隠し、冬眠に追いやってしまうこと、そして雪解け水に姿を変え、動植物の命をつなぐことぐらいだった。しかし、雪の生態学という新たな研究分野が生まれ、雪の環境には独自の生態系があることが分かった。

それが、サブニビウムだ。ラテン語のsub(下)とnivis(雪)に由来する言葉で、降り積もった雪と地面のあいだにできる小さな空間を指す。内部の気候は驚くほど安定しており、通常の地表面よりはるかに暖かく、中に隠れる動植物を寒さから守る。

「暖かく安定した空間です」とウィスコンシン大学マディソン校の森林・野生生物生態学教授のジョナサン・パウリは言う。2013年に同僚のベン・ザッカーバーグと二人で、この言葉を生み出した。

サブニビウムはほんの束の間、少なくとも15センチ以上の積雪があるときにだけ、雪の下に作られる。冷たい雪とその下の土壌にはさまれ、中の気温は0度を少し上回る。雪上の寒さに耐えられない動物たちにとっても、比較的暖かく湿度のある環境だ。サブニビウムは上に広がる冬の外界とあまりに異なるため、微気候のひとつと考えられる。「ほんの15~20センチ上の世界とはまるで違います」とパウリは話す。

冬の世界では、動物が姿を消してしまったかのように見える。でも雪の下のサブニビウムは、生命にあふれている。菌類などの微生物やコケが息づき、Glacier lily(北米西部のカタクリ)のような花も咲く。そして、小型のげっ歯類やヤマアラシ、鳥など、驚くほど多くの動物がいる。生き物たちは快適な温かさのサブニビウムを掘り、凍った毛布にもぐって身を守る。

「冬は、静かな休眠期間のようです」とパウリは言う。「でも、実はいろんなことが起きています。植物は活発に光合成したり、発芽したりしています。小型哺乳類の中には、この環境で餌を探し、繁殖するものもいます。菌類も盛んに分解しています。野ネズミのような種も、たくさん餌を食べて動き回っています。目に見えないだけで、さまざまな活動が続いているのです」

雪の生態学は、まだ比較的新しい科学の分野だ。これまで研究されてこなかったのは、ひとつには薄い毛布の下で繰り広げられている生命活動に科学者が気付くまでに何年もかかったからだ。でも、それは見た目にだまされてきただけだ。今では、研究者たちの雪に対する見方も変わった。雪は、複雑な食物網を支え、ある種の生物を風と水蒸気に乗せて運び、野生動物を放射線や寒さから守る手段なのである。1990年代の初頭、雪が果たす重要な役割に気づいたさまざまな分野の科学者が共同で、雪の生態系は研究を続ける価値があると発表した。

このミクロハビタットは踏みつけると壊れてしまう。だから生態学者は、そっと歩かなければならない。できれば、歩かないのが一番だ。数年かけて、学者たちはサブニビウムを観察する方法を編み出した。たとえば、暖かい時期に地面にチューブを設置しておき、冬のあいだ気温の記録装置やカメラを中に忍び込ませるのだ。

アリの巣を横から見ると、土の中に掘られたトンネルの様子が分かる。それと同じように雪の下を撮影したデータを見ると、白い毛布の下は安全な隠れ家になっている。動物がちょこちょこと走り回り、そっと身を寄せ合い、植物が花を咲かせている。とりわけ菌類は活発に、サブニビウムの中で肥沃な春を迎える準備をしていることが分かった。菌類は野草をせっせと分解し、雪解け後の植物に必要な栄養素を作っている。

ただ、サブニビウムはとてもはかなく、大型動物が上を歩くと崩れてしまう。「すぐになくなってしまいます。浸食に弱いのです」とパウリは言う。サブニビウムを脅かすのは、スキーやスノーモービル、スノーブーツだけではない。「もっと大きな、地球環境の変化にも敏感です」とパウリは語る。しかし、壊れやすい冬の生態系に気候変動がどのような影響を与えるのか、科学者にも確かなことは分かっていない。

地球の気候システムを構成する要素のひとつに「雪氷圏」がある。氷や凍土、氷河などがこれに含まれ、雪もその一部だ。雪氷圏は、気候変動のもっとも見た目に分かりやすい指標のひとつになる。昔から冬に雪が降る寒冷な土地ほど、地球上のほかの場所より人為的な変化による影響を受けやすい。

季節的な降雪は、その地域だけでなく地球全体の気候にとっても重要だ。地球上の雪におおわれている面積は、年平均で4700万平方キロメートル近くになる。しかし気候変動のせいで、その寒さのバランスが崩れている。雪におおわれる土地は、温暖化とともに減る予想だ。雪解けは年々早くなり、一度解けた雪が凍ってしまうこともある。そうなると水の供給や動物の生息地への影響が出る。また気候科学者は、世界が温暖化すると、暖かい気流が生じ、それによって激しい降雪が増えるとも予測している。ただBBCのコリン・バラスが指摘しているように、必ずしも全体的な雪の量が増えるとは限らない。むしろ豪雪が増える一方で少しずつ雪の季節が短くなり、雪の日は減るのではないかと科学者は考えている。

「これから冬は、各地で様子が変わってくるだろう」とバラスは記している。

降雪が減るということは、サブニビウムが作られてその状態を保つために必要な条件が整いにくくなるということだ。これまでのパウリの研究から、サブニビウムの気温が不安定になりつつあることが分かっている。また皮肉にも、雪が深かったときほどの断熱効果がなくなり、かつてのサブニビウムより気温が低くなっている。その結果、冬の土壌は冷たくなり、雪を避難のよりどころとしている動物たちがより強く寒さのストレスを感じてしまう可能性がある

サブニビウムは今のところ、動植物にとってかけがえのない安らぎの場になっている。でも、このまま冬が短く暖かくなっていけば、この知られて間もないサブニビウムと、そこで動植物が授かっている恩恵が、永久に失われてしまうかもしれない。

本記事は、最初はPopular Science誌に掲載されたものです。

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Voles are just some of the winter residents of this exclusive ecosystem. (DepositPhoto/)

この記事は、Popular Scienceのエリン・ブレイクモアが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。