早くからバイオマスの活用に取り組み、『バイオマスタウン』として名の知られる岡山県真庭市。同市は、2019年6月、 環境省の推進する『地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業』に選定された。SDGs未来都市にも選定されている同市が目指す、日本の中山間地域の永続的な発展モデル『真庭ライフスタイル』とは…。

環境省版SDGsに共感

2015年4月、岡山県真庭市は、「多彩な真庭の豊かな生活『真庭ライフスタイル』」を掲げ、持続可能な社会へ向けた新たなスタートを切った。その半年後の2015年9月、国連サミットで『SDGs(持続可能な開発目標)』が採択された。

2015年から順調に稼働している『真庭バイオマス発電所』をはじめ、ごみを資源に変えるメタン発酵施設、バイオ液肥を無料配布する『バイオ液肥スタンド』、サイクリングロードの整備やバイオマスツアーなどの観光への取り組み、環境教育による人づくりなど…。多角的で先進的な取り組みが評価され、2018年には内閣府の『SDGs未来都市』に選定、中でも先導的な取り組みとして全国10事業の『自治体SDGsモデル事業』に選ばれている。


真庭でつくった循環型肥料のバイオ肥料が無料で手に入るスタンド

そんな真庭市が、環境省が募集した『環境で地方を元気にする地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業』に応募、2019年6月に選定された。

富永氏は「SDGs未来都市として取り組みを進める中で、環境省版のSDGsともいえる〈地域循環共生圏〉という考え方にも共感し、積極的に挑戦していこうと考えています。特に、環境的な視点で、これまで進めてきたことを検証し、さらに充実していきたい。特に、『里山里海の連携』、『バイオマスの多様な活用』の2つをメインのモデル事業として進めていきます」と話す。


真庭市役所 総合政策部 総合政策課
上級主事 難波 吉伸氏(左)主任 富永 翼氏(右)

環境目線で新たなブランディング

具体的に取り組むモデル事業のひとつは、里山・里海連携事業。
岡山県一の河川・旭川の源流に位置し、全国有数の里山の宝庫である真庭市。自治体SDGsモデル事業の一環として、2018年から里山・里海連携による米づくりを進めてきた。

アマモ再生に取組む瀬戸内海の漁業者と連携し、森のミネラルで育まれたカキの殻を土壌改良材として水田に還元、その水田でつくった米を『真庭里海米』として、ブランディングしている。

里海では、カキの身を取った後に出るカキ殻の有効活用が課題となっていた。一方でカルシウムやタンパク質、ミネラルを豊富に含むカキ殻は、土壌改良材としては最適。農作物の収量や品質アップにつながるだけでなく、酸性土壌を中和することで肥料成分を吸収しやすくし、根の張りを良くする効果があるといわれている。

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「カキ殻を原料にした土壌改良材を使うことで、米の根が倒れなくなったという声も聞いています」(富永氏)。

『真庭里海米』の本格的な販売開始は、今年の秋からとなる。今年は県内最大の作付面積である141ヘクタールほど大規模となり、地元の学校給食に提供することも検討中だ。

「学校給食として子どもたちに提供することで、山と海との連携、資源の循環など、〈地域循環共生圏〉の考え方について、学んでもらう機会をつくっていければと思います」(難波氏)。一方で、外に対しては、産地や品質だけでない『里海の環境保全』という新しい付加価値をつけ、販売していく。

真庭版地域循環共生圏モデル事業としては、里海米の展開と合わせ、より一層の里山里海の交流、スマート技術を活用したきめ細かな防除や施肥、土壌健全度分析などによる『環境保全型農業の見える化』なども推進していく。

他者と繋がり、共生しつつ自立する

〈地域循環共生圏〉で真庭市が取り組む、もうひとつのモデル事業は、バイオマスの多様な活用。間伐材、製材端材に加え、森林面積の4割を占める広葉樹林をバイオマス発電燃料として循環利用する。

真っ直ぐ伸びる杉や檜と違い、広葉樹は製材としては使いにくい。真庭市でも放置されることが多いが、広葉樹は40年ほどで切ると、そのまま芽が出て循環のリサイクルが働く。真庭市では、こうした広葉樹のバイオマス燃料への使用や、成長の早い早生樹を植えることで、木材としての使用も検討する。整備された広葉樹林は、鹿などの鳥獣被害の緩衝帯にもなり、有害獣を速やかに解体・運搬してジビエとして活用するジビエカーの導入とあわせ、ジビエによる地域活性化も図る。

「SDGs未来都市計画では、再エネ自給率100%の目標も掲げています」(富永氏)。

〈地域循環共生圏〉モデル事業では、広葉樹林の活用とともに、災害時にも地域に電力を供給できる『地域マイクログリッド』を導入し、再エネ自給率100%を目指す。

「広葉樹のバイオマス燃料への利用については、笠岡市が木質バイオマス発電所をつくっているので、そこにも持っていけないか検討しています。他者と繋がって共生し、自立していくのが〈地域循環共生圏〉だと思っています。バイオマス、地域資源、教育、ESG…。様々なものでつながって、ひとつひとつの地域が〈地域循環共生圏〉をつくり上げながら、隣の〈地域循環共生圏〉とつながっていくことが重要かと思っています」(難波氏)。

この記事は、環境ビジネスオンライン2019年11月25日号掲載より、アマナデザインのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。