南アフリカの海岸線から遠く離れた南大西洋のはるか沖。ダイバーのパスカル・ヴァン・エアプ(43歳)が水面に顔を出す。手に持っているのは、ロブスターを捕まえるためのカゴ。海に捨てられたもので、藻やさまざまな海洋生物が表面を覆っている。

ヴァン・エアプは、そのカゴを国際環境NGOグリーンピースの船舶「アークティック・サンライズ」号のデッキに引き上げた。同船舶は、ケープタウンの北西約1,600キロにあるヴェマ海山周辺の調査を行っている。

びっしりと覆う藻の下には、硬質プラスチックでできた緑色のカゴが隠れている。ロブスターを捕まえるためのもので、小さな白い容器が付いている。

「南アフリカの海岸から1,600キロも離れたこんな場所で、捨てられた漁具が見つかるなんて・・・。とんでもないことです」グリーンピースの海洋生物学者で海洋専門家のティロ・マークは船の上でそう語った。

打ち捨てられた漁具は「ゴースト・ギア」と呼ばれ、世界中の海で甚大なプラスチック汚染を引き起こしている。廃棄されてもなお、多くの海洋生物を捕らえ、じわじわと容赦なく死に至らしめている。

漁網や釣り糸、カゴ、エビ漁に使う仕掛け、刺し網などさまざまな漁具が、海に放置されたり、意図的に捨てられたりしている。そのペースは、1分間に平均1トンと推定されている。

グリーンピースが調査を行ったヴェマ海山も例外ではない。水中ドローンが捉えた画像には、海面から26メートル下に頂上があり、そこから4,600メートルの深さまで続く同海山のいたるところに、漁業用のロープや網が引っかかっている様子が映し出された。

三週間にわたる調査では、今回確認されたゴースト・ギアがいつから放置されているのか特定できなかったが、その状態からして、1年以上もの間そこにあったものとみられる。

More than 300 endangered sea turtles were killed in a single incident last year after swimming into a what was believed to be a discarded fishing net in southern Mexico

国連の推定によると、毎年64万トンの漁具が海に廃棄されている。グリーンピースの話では、その重さは2階建てバス5万台分に相当するという。

国連環境計画(UNEP)と国連食糧農業機関(FAO)の推定では、廃棄された漁具は、世界中の海にあるプラスチックごみの10%を占めるとされる。

しかし、グリーンピースの報告書では、「一部の海域では、プラスチックごみのほぼすべてが漁具で、海底や海山、海嶺にあるごみの85%を超えているケースもある」とし、太平洋ごみベルトもその一例だとしている。

海中のゾンビ

生分解されない素材でできた漁具は、廃棄され、静まりかえった海底に沈んだあとも、魚やエビ、カニなどの甲殻類を捕まえ、イルカなどの大型の哺乳類をわなにかけている。

「ゴースト・ギアは海中のゾンビのようなものです」とマークは言う。「誰も獲物を引き上げられないのに、漁をやめないのです」

英国を拠点とする動物擁護団体World Animal Protectionによると、このような汚染によって、年間10万を超えるクジラやイルカ、アシカ、カメが傷を負い、命を落としている。

昨年、メキシコ南部の海岸で絶滅の危機にあるウミガメ300匹以上が死んでいるのが見つかった。廃棄された漁網に引っかかったものとみられる。

「もともと海洋生物を捕まえて殺すために設置された道具なので、海中にある限り、その役目を果たそうとします。非常に大きな問題です」と、グリーンピースのアフリカキャンペーン担当ブケルワ・ニーマンド(29歳)は話す。

プラスチックは分解するまでに600年かかることもある。そして最終的に、有害なマイクロプラスチックになって、それを食べた魚が私たち人間の食卓に上る。

ヴェマ海山では、ナミビアに拠点を置く南東大西洋漁業機関(SEAFO)が、2007年に底釣りを禁止したが、SEAFOのような地域の管理団体の管轄下にあるのは、世界全体の海の1%にすぎない。

死の連鎖

国連によると、約64%の海が国の管轄外にある。

複数の環境団体が、海洋生物の保護を強化するための包括的なガバナンスの仕組みを作ろうと、政府間組織に働きかけている。

そうした団体は、漁業者に対しても、放置したままになっている漁具の回収や回収費用の負担を義務づける措置の厳格化を求めている。

一方で、自ら海の清掃活動に取り組んできたNPOもある。

「放置された漁具を撤去できたときはとても嬉しいです」 そう話すダイバーのヴァン・エアプは、オランダに本部を置く慈善団体Ghost Fishingを創設し、2012年から廃棄された漁具の回収活動を続けている。

「漁具を見つけるとワクワクします」と話す彼は、冷たい南大西洋での1時間の潜水から上がってきたところだ。オレンジ色のウェットスーツからはまだ水が滴り落ちている。

「捨てられた漁具はまだ漁を終えていません。死の連鎖が続いているのです」

 

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