サーキュラー・エコノミーで世界の先端を走るオランダ。同国の環境大臣であるスティンチェ・ファン・フェルトホーフェン氏が2019年6月、G20で日本に来日。忙しい合間を縫って環境ビジネスの質問に答えてくれた。

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サーキュラー・エコノミーに関するインタビュー

Q.オランダ政府は2050年までにサーキュラー・エコノミーを実現するため、ステークホルダーとの連携を発表しました。これついて、目的や背景を教えてください。

世界の人口は増え続けています。2050年には100憶人に達し、その後もさらに増加するといわれていますが、これは喜ばしいことであると同時に、人類にとって大きな挑戦でもあります。

100年前に比べ、人類は34倍もの資源、27倍の鉱物、そして12倍の化石燃料を使用しており、その代償は大きなものとなるでしょう。仮に世界中の人々がオランダ人と同じように消費を続けたとすると、その資源をまかうためには地球が3つ必要になるという試算も出ており、資源を効率的にリユースするサーキュラー・エコノミーの実現が叫ばれています。

ヨーロッパは天然資源が乏しい地域であるがゆえに、限りある資源を持続可能な方法で調達し、生産した製品を使い続けていけるように工夫しなければなりません。国連機関であるInternational Resource Panelのレポートによると、世界のCO2排出量のうち50%がエネルギー資源の抽出と加工に関連しており、循環型経済の活性化は温暖化対策にも大きな役割を占めているといいます。

またエネルギー転換という観点でも、風力および太陽光発電に使用する材料の再利用は、気候変動問題を解決するためのカギとなる可能性を秘めています。

オランダ政府が掲げた「Nederland Circulair 2050」は、2050年までにサーキュラー・エコノミーを達成することを目標としたビジョンです。
本プログラムにおいて、私たちは関連するステークホルダーとの協力が重要だと考え、特に5つの部門に注力することで合意しました。

  • バイオマスと食品
  • プラスチック
  • 製造
  • 建築
  • 消費財

セクターの選定は、これらがEUにとって優先的な分野であると同時に、環境への影響・経済に対する重要性・変化の可能性を考慮した結果です。
「Nederland Circulair 2050」は、Grondstoffenakkoord(原材料に関する協定)において、400以上の企業・NGO・金融機関・公的機関によって承認されています。
2018年には前述の5部門について循環施策を実践するためのアジェンダを作成し、実現に向けた道筋を示しています。
2019年2月に公開した実施プログラムでは、モデルとなる国家プロジェクトが紹介されました。
一方、政府は財政面での政策を中心に、ルールづくりを進めたりスタートアップ企業を支援するなど、サーキュラー・エコノミーの拡大に貢献する役割を担っています。

Q.オランダ政府は循環型経済が2030年までに54,000人の雇用と73億ユーロの経済効果を生み出すと発表していますが、この数値を達成するためのロードマップを、具体例とともに説明してください。

2016年、オランダ内閣はサーキュラー・エコノミーに関する最初の文書を国会に提出し、その翌年、政府は企業団体・労働組合・地方自治体・NGOと協定を締結。それ以来、多くの個人事業主や地方自治体や研究機関がこの協定に参加を表明しています。

ここで重要なのは、実現するためには数量だけでなく品質と価値にも焦点を当てることであり、持続可能でない一次原材料への依存度を減らし、資源の浪費と環境汚染に終止符を打つことです。

2018年に「バイオマスと食品」「建設」「消費財」「製造」「プラスチック」の各分野の事業者とバリューチェーンに対し、移行へ向けて取り組むべき指標を設定。さらに翌年には以下の項目について、具体的なアクションを含む実施計画を国会へと送付しました。

拡大生産者責任
法整備と規制
財政および金融商品
イノベーションとデザイン
教育と知識
モニタリングと国際協力

我が国では企業間取引を活性化するためAcceleration Centerを創設し、生産者とクライアントをマッチングしたり、投資家を募る活動もおこなっています。2030年までに一次原材料を50%削減し、2050年には完全な循環型経済を構築する予定です。

オランダがサーキュラー・エコノミーに転換した場合の雇用創出と経済効果については、今後数年間をかけてセクターごとに定量化され、公表していきます。

オランダは二酸化炭素排出量を10%、産業用水を20%、そして輸入原材料への依存を25%、それぞれ減少させるという目標を掲げています。

この数値を達成するためには「新たに生まれる仕事にはどんなスキルが必要とされるのか」「今後衰退するリニア・エコノミー(消費された資源を再利用することなく廃棄する、直線的にモノが流れる経済)の中で仕事をしてきた人たちをどのように再教育していくのか」といった事柄について情報を集めると同時に、「サーキュラー・エコノミーで使われる原材料には、どのような規格が必要なのか」「従業員と消費者の健康と安全をどのように保証するか」という問いに対しても、継続的に調査していかなければなりません。

以下は我々がEnvironmental Planning Agencyに依頼した項目です。

現在抱える材料の在庫量とその流通フローの把握
知識ベースの強化
傾向を分析し、有効な施策の検討
PACE(循環経済推進プラットフォーム)とともに、進捗状況を監視するための国際基準の作成

Q.アムステルダムはすでに循環型経済の実現に向けて積極的に取り組んでおり、具体例では有名シェフが経営するレストランInstockでは、スーパーマーケットから出る食品ロスを材料に使用するなどの取り組みが挙げられますが、サーキュラー・エコノミーをコンセプトにした新事業は他にもありますか?

循環型経済に最も貢献する、最も革新的な製品やプロジェクトに贈られるサーキュラー・アワード2019を受賞したAupingという会社は、旅行情報サイトのLandal Green Parksと共同でマットレスの引き取りシステムを開発し、さらに100%リサイクル可能な方法でマットレスを製造することを保証しています。以前は焼却炉で処分していたことを考えると、このビジネスモデルはマットレスに新しい価値を与えたといえるでしょう。

もうひとつの例はロッテルダムに事業所を構えるRotterzwamで、この会社では近隣のバーやレストランから買い取ったコーヒーのかすでキノコを栽培しています。Rotterzwamは収穫したきのこをコーヒーかすを提供した飲食店に販売する形を取っており、この事例は小規模ながら、地元の生産物を循環させるという点で他の地域に拡大する可能性を秘めています。

よりハイテクな例として注目を集めているのは、ペットボトル・カーテンなどの布製品およびカーペットを再利用するための革新的な技術を開発したIoniqa Technologiesです。彼らはユニリーバおよび世界的PET樹脂メーカーと提携し、プラスチックを分子レベルまで分解して食品包装用資材に加工するという取り組みに着手しています。

Q.日本でサーキュラー・エコノミーを実現するためには、何が必要だと考えますか? また現在オランダが直面している課題があれば教えてください。

循環型経済への移行は、放っておけば勝手に進むようなものではなく、世界中の消費者・企業・労働組合・環境保護団体・金融機関・研究機関などが手を携え、ともに進めていかなければいけません。

日本はすでに有効な取り組みを実施しています。たとえば金属のリサイクル率は98%と非常に高く、また家電や電子機器の大部分を回収し(ヨーロッパでは30~40%程度)、それらの製品に使われている材料のうち74~89%を再利用しています。
回収した使用済み製品の材料や部品を、再び同種製品に利用する「クローズド・ループ・リサイクル」は、サーキュラー・エコノミーにとって必要不可欠なシステムだといえるでしょう。
日本で循環型経済を実際に機能させるためのカギは「包括性」と「協調性」です。消費者はリサイクル品を分別し、また対象家電製品を購入する際のリサイクル料金を負担する。一方メーカー側は回収した部品を再利用して、修理が簡単で長持ちする商品を作ることによって、それぞれが循環経済に貢献することができます。
他の国で上手くいった施策が日本で必ずしも実現可能ではないかもしれませんが、日本でサーキュラー・エコノミーを実施するために必要な方策を紹介します。

  • 循環型経済への移行を成功させるために不可欠な、リサイクル素材の国際市場を強化すること。
  • 品質の高い二次原材料の利用、およびそれらに対するさらなる需要を高めること。
  • この目標を達成するために、メーカー各社がサーキュラー・エコノミーの要件に適合する材料を使用し、十分なリサイクル能力を確立すること。
  • 商品やビジネスモデルにおいて循環型デザインを取り入れれば、そもそもの無駄を防ぎ、新しい市場を生み出すことにつながる。
  • サプライチェーンによる協力は、この改革を推し進め、生産および消費システムを再設計するために欠かせない。

日本とオランダはこれらの活動を自国の経済において実施すると同時に、国連・OECD(経済協力開発機構)・PACE(循環経済推進プラットフォーム)といった世界的な組織に向けて、積極的にメッセージを発信していくことが求められています。

この記事は、環境ビジネスオンライン 2019年09月17日号より、アマナデザインのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。