土壌汚染について見聞きしたことがある方もいるだろう。環境問題のひとつとして土壌汚染が取り上げられることもあるが、なぜ問題となっているのだろうか。今回は土壌汚染の意義や原因、私たちにできる対策について解説していく。

土壌汚染とは

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土壌は水や空気と同様に生物にとって必要不可欠なものだ。その土壌に人工的あるいは自然由来により、有害物質が染み込み蓄積してしまうことを土壌汚染という。

土壌汚染は目に見えないことから気づきにくく、大気中に比べて有害物質が移動しにくいことから、長期間にわたって汚染された状態が続くおそれがある。

土壌汚染の原因物質として挙げられるのが、以下の物質だ。

・重金属:鉛、水銀、砒素、六価クロム、カドミウムなど

・揮発性有機化合物:ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなど

重金属の多くは拡散せず地中にとどまりやすい。一方、揮発性有機化合物は地中深くに浸透して地下水に溶け出し水を汚染するだけでなく、その揮発性により大気汚染も引き起こす場合がある。

土壌汚染の原因

土壌汚染には人工的なものと自然由来によるものがあると説明した。具体的には、どのようなことが原因で土壌汚染へと発展してしまうのだろうか。それぞれの土壌汚染の原因を説明する。

人間の活動によるもの

ひとつは人工的な原因による土壌汚染だ。例えば、工場や事業場から有害物質が漏れ出たり、排水に有害物質が含まれたりといったことだ。

ほかにも、適切な処理が行われずに有害物質が埋め立てられたり、工場などからの排気ガスや飛灰に含まれた有害物質が地表に落ちたりして土壌汚染が起こることもある。

2020年度の日本国内の土壌汚染調査では、調査結果が報告された263件のうち114件と、約半数に汚染があったことが報告されている。

有害物質を使用、あるいは過去に使用していた工場や事業場では、特に土壌汚染が起こる可能性が高いといえる。

参考:「令和2年度土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果」(環境省)

自然由来のもの

前述のように、土壌汚染は重金属によるものと揮発性有機化合物によるものがある。揮発性有機化合物は基本的に人工のものであるが、重金属は土壌にもともと存在する成分だ。

そのため、重金属の濃度が高い鉱山地帯を中心に、自然由来の土壌汚染が発生することがある。

鉱山地帯でない市街地においても土壌汚染が報告されることは珍しくない。海成堆積物と呼ばれる、過去に海底にあった土壌を由来として土壌汚染が引き起こされることもあるためだ。

海成堆積物には硫化鉱物が含まれていることから、雨や大気との接触で硫酸が生成され、硫酸により土が酸化することで重金属が溶け出やすくなる。つまり、大昔に海が広がっていた場所では自然由来の土壌汚染が発生しやすいのだ。

土壌汚染が人間や生態系に与える影響

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土壌汚染はどのような影響から問題視されているのだろうか。土壌汚染が人に与える影響と、環境や生態系に与える影響について解説する。

人間への影響

土壌汚染は、健康被害を生じさせるおそれがある。土壌汚染された土が直接皮膚に触れたり、汚染された土で育てられた農畜産物を口にしたりすることで、有害物質が体内に入ってくるためだ。

また、土壌汚染の影響は土だけに限らない。土から地下水に溶け出したり、土から大気に漏れ出たりすることによって、汚染された水や大気、汚染された川や海の魚介類を人が口にすることで影響を受ける可能性がある。

最近の事例では、豊洲市場の整備前の土地において土壌汚染が確認された。整備前は広大な更地となっていたが、過去にガスの製造工場が建っていたことが原因だ。

これにより、ガスの製造工程で発生するベンゼン、鉛、水銀、ヒ素などの物質により土壌や地下水が汚染されていることが確認された。

豊洲市場では生鮮食品を扱うことから、食の安全や安心のために専門家会議が設置された。汚染への対策をはじめ、地下水管理システムなどの総合的な土壌汚染対策が講じられ、処理技術により汚染除去が可能という評価が出たことで市場の整備が進められた。

環境や生態系への影響

土壌汚染は、人体に直接影響を与える可能性があるだけでなく、生活環境や生態系にも影響を与えかねない。例えば、悪臭や地下水の油膜などによる生活環境への影響だ。

人の生活環境だけでなく、農作物の生育にも影響を及ぼす。さらに、汚染が影響する範囲については生態系への影響も懸念されている。

【対策】土壌汚染対策法が定められている

健康被害や生活環境、生態系などへの影響を考えると、土壌汚染は大きな問題だ。国は社会的な影響を考慮し、国民を保護するために、平成14年5月に「土壌汚染対策法」が成立し、翌年の2月から施行された。

土壌汚染対策法は、新たな土壌汚染の防止、土壌汚染の適時適切な把握、土壌汚染による健康被害の防止の3つの軸により構成される法律だ。

法律では、25の物質を特定有害物質として指定し、調査制度を設けている。調査が義務付けられるのは、以下の3つの場合だ。

1.有害物質を扱う施設の使用を廃止したとき

2.一定規模以上の土地の形質を変更する際、土壌汚染のおそれがあると都道府県知事が認めたとき

3.土壌汚染により健康被害が生ずるおそれがあると都道府県知事が認めたとき

指定調査機関の調査で基準を超えた土壌汚染が認められるときは、土壌汚染区域の指定や適切な管理などの措置が取られる。

土壌汚染への措置は状況によりさまざまだ。例えば、以下の措置が挙げられる。

・原位置封じ込め

・熱処理

・化学処理などによる汚染の除去

・土壌入換え

・地表面の盛土や舗装 など

このように、すでに汚染された土壌について状況に応じた定めがあるが、汚染された土壌の移動も注意して行われなければならない。搬出等に関する規制のほか、指定調査機関の信頼性の確保、土壌汚染対策における助成についても土壌汚染対策法では定められている。

身近にできる土壌汚染対策

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土壌汚染は、健康被害や生態系の影響など深刻な問題にもなり得るため、私たちが関心をもつことが大切だ。

また、土壌汚染の人工的な原因として工場や事業場などの事業活動を取り上げたが、原因はそれだけではない。私たちの生活が土壌汚染に影響を与える場合もある。

土壌汚染を防ぐにはどのようなことを心がけていけば良いか、個々人でも取り組める対策を紹介する。

生活排水をできるだけ減らす

土壌汚染対策のためには、土壌汚染につながる可能性がある生活排水を意識的に減らすことが大切だ。食べ残しや飲み残し、あるいは油や調理くずなどを排水として流してはいないだろうか。

まずは、食べ残しや飲み残しをしないよう作り過ぎないこと、お皿が汚れてしまった場合はキッチンペーパーなどでひと拭きしてから水で流すことなどを心がけよう。台所の流し場には水切りネットを設置して、余った油は吸水剤などを利用して水に流さないことも大切だ。

調理くずなど活用できるものは再利用するのも良い。例えば、野菜の皮などは料理に再利用できるうえ、肥料にも活用可能だ。ゴミの削減にもなり一石二鳥だ。また洗剤の使い過ぎは汚染につながりかねないため、洗剤も適量を守って使い過ぎないことが大切である。

できる限り公共交通機関を利用する

環境汚染につながる化学物質は、工場だけでなく、身近な自動車などの乗り物からも排出されている。自動車から排出される化学物質は、大気中から雨に溶け込み土壌に浸透する。排出ガスを減らすためには、自動車に頼り過ぎないことも大切だ。

移動には電車やバスなどの公共交通機関を積極的に活用しよう。移動距離が短い場合は、徒歩や自転車など排出ガスを出さない移動手段を検討するのもおすすめだ。

まとめ

土壌が有害物質に汚染されてしまうことを土壌汚染という。工場から有害物質が漏れ出ることで引き起こされることもあるが、自然由来のものもある。

生活排水も汚染の原因になるため、個々人でも土壌汚染に関する課題に目を向け、意識して汚染を広げない生活を心がけることが大切だ。