クリス・ジョンソンがシャンバラの前身となる野外パーティーを仲間と一緒にはじめた頃、パーティーはこぢんまりとした、にわか作りの雑然としたもので、ジョンソンいわく「とにかく楽しい」イベントだった。それから17年が経ち、ジョンソンと大学時代からの友人4人は、パーティー開催のパイオニアであり続けている。いまやシャンバラは1万5000人の観客を集めてイングランド中部ノーサンプトンシャーの農村部で開催される4日間のイベントに成長し、環境面での実績から業界の模範となるフェスティバルになった。

「私たちは世の中に何らかの形で役立つために存在する、目的主導型の団体です。環境は、私たちの今後の見通しの中でとても重要な要素です。私たちには環境への責任がありますが、新たな実験をする機会にも恵まれています」とジョンソンは語る。

フェスティバルの電力は、植物油と太陽光発電設備を併用し、すべて再生可能エネルギーでまかなっている。使い捨てプラスチック容器は一掃され、2015年には肉も魚も一切提供しなくなった。「当初は大騒ぎになりました」と言うジョンソンはこう続ける。「でも、そうした需要はあるのです。今年は来場者の1%が自転車で、25%が長距離バスで訪れました。あまり多くないように思われるかもしれませんが、キャンピング・フェスティバルのカーボンフットプリントの8割は、会場までの移動によるものなのです」

ここ数年、フェスティバルのあり方についての話題の中心は、出演する女性ミュージシャンを増やすことや、出演者が白人ばかりにならないようにすることだった。でも今夏の話題は、もっぱら「サステナビリティ」だ。どうしたら、環境にやさしいフェスティバルにできるだろう?

その一例が、急激な広まったプラスチック削減の戦いだ。今年、イングランド南西部で開催されるグラストンベリーの野外フェスティバルでは、会場全体で使い捨ての飲料用プラスチック容器の販売を禁止した。共同主催者のエミリー・イービスは、「禁止することで、百万本の容器を使わずに済む」と推定する。この決定は「地球にやさしく歩もう」というフェスティバルの精神にも沿うものだ。プラスチック容器の代わりに20万人の来場者は、850の水道蛇口と、マイボトルの購入と水の補充ができる多数の給水スタンドを使うことができる。このために開催地ワージー・ファームに造られた貯水池の水が用いられる。

今年に入ってから、レディング、リーズ、ダウンロードをはじめ、60を超える主要フェスティバルが、2021年までにプラスチックを全廃すると約束した。この約束の背景にはストローやナイフ、フォーク、スプーン、飲料用容器が相変わらず元凶とされていることがあるが、この措置は、来場者に歓迎されている。一方、フェスティバルの環境影響を検査し影響の低減に関して業界に助言する非営利団体A Greener Festivalの共同創設者クラレ・オニールによれば、重要な課題は昔から変わらず「交通、テント、トイレ」の3つなのだと言う。

人々が公共交通機関やカーシェアリングを利用してフェスティバル会場に向かえば、カーボンフットプリントの削減効果は絶大だ。一方で「どうやって来場者にテントを持って帰ってもらえるか」という点も、環境配慮の観点から非常に頭の痛い問題になっている。

グリーン・マン・フェスティバルのオペレーションズ・ディレクターであるイアン・フィールダーは語る。「私たちは、フェスティバルへの持ち物についてよく考えるよう、来場者に積極的にお願いし、使い捨てテントを持ち込まないよう呼びかけています。使い捨てテントを禁止にしないのは、金銭的に手が出ないイベントにしたくないからですが、使い捨てテントはほとんどのフェスティバルにとって悩みの種で、びっくりするような量のごみが出ます」

グリーン・マンは、難民支援団体と協力し、放棄されたテントを転用しているが、多くのテントがリサイクル不能で燃えるごみになってしまうと訴える。

ホートンフェスティバルは、イングランド東部ノーフォークで開催される電子音楽の祭典だが、ここでは下水汚物の問題にも真剣に取り組んでいる。「今年は会場全体でコンポスト(堆肥)トイレを使います」と語るのは、共同創設者のトム・エルキントンだ。化学薬品を使う簡易トイレに比べ、コンポストトイレには環境面でさまざまな利点があることを詳しく教えてくれた上で、彼はこう話す。「サステナブルであること、エシカルであることは、私たちの社会的責任の根幹となっています。私たちの取り組みの多くは法律で定められたことではありません。しかし、今後は法律で定めるべきなのかもしれません」
ラティテュードやワイヤレスなどの大きなイベントを運営するFestival Republicの社長メルヴィン・ベンにとって未だに重要な課題がある。それは、会場でのディーゼル発電機の効率的な利用だ。廃植物油やバイオ燃料、ハイブリッド設備に変えることは環境的にも経済的にも理にかなう、と彼は考えている。

「私は、デ・モントフォート大学とPowerful Thinkingという団体と共同で、一つ一つの発電機の電気ロスについて慎重に調査・測定しました」とベンは言う。A Greener Festivalのモニタリング結果によれば、英国で毎年開催される7000件の野外イベントにおける発電機の平均発電効率は10~20%だったが、理想的な範囲は50~70%だ。ベンは、自分が手がけるフェスティバルをこの理想的な幅に入る初めてのイベントにしたいと思っている。

マンチェスターのジョドレルバンク天文台で開催される科学と音楽のフェスティバルブルードットでは、気候危機の公開討論会や、専門家や活動家による講演がめじろ押しだ。フェスティバル・ディレクターのベン・ロビンソンによれば「フェスティバルで何が起こるか」だけでなく「来場者がその後に何を持ち帰るか」にも重点を置いている。

ロビンソンは言う。「もちろん、毎年夏に、野外に小さな町ができることによって環境には影響が出ます。でもフェスティバルは、長期的な行動変化のきっかけになります。ただ楽しむだけではありません。人々は新しい考え方を快く受け入れてくれます。フェスティバルは、人々に「これまでとは違う生き方」を伝えています。プラスチックの使用を減らし、ごみを減らし、サステナブルな暮らしをすること。それによって、音楽をきっかけにした意識改革が起こります。会場で実践できるなら、来場者が家に帰った後も続けられるでしょう」

 

この記事は、The Guardianのノシーン・イクバルが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。