環境問題について見聞きする中で、「絶滅危惧種」について耳にしたこともあるだろう。絶滅危惧種には具体的にどのような生物が該当するのだろうか。この記事では、絶滅危惧種の定義やその原因、解決に向けた取り組みについて紹介していく。

絶滅危惧種とは

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絶滅危惧種とは、近年急速に個体数が減少した種や個体数の少ない種、限られた場所にしか生息しない種などをいう。日本においては、環境省がレッドリストとして公表している。

ここでは、日本での絶滅危惧種がどのように定義されているのか、SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )との関わりについて見ていこう。

環境省第4次レッドリスト

環境省第4次レッドリストでは、絶滅のおそれがある種について、次の9つのカテゴリーで分けられている。

・絶滅(EX):日本で絶滅したと考えられる種

・野生絶滅(EW):飼育下または自然分布域外で野生化した状態でのみ存続する種

・絶滅危惧Ⅰ類 (CR+EN) :絶滅の危機に瀕する種

・絶滅危惧ⅠA類(CR):近い将来に野生で絶滅の危険が極めて高い種

・絶滅危惧ⅠB類(EN):近い将来に野生で絶滅の危険がある種

・絶滅危惧II類 (VU):絶滅危機が増大している種

・準絶滅危惧 (NT):絶滅危険度は小さいが条件変化で絶滅危機にある種

・情報不足(DD):評価不能

・絶滅のおそれのある地域個体群 (LP):孤立しており絶滅の危険性が高い個体群

上記の9つのカテゴリーのうち、絶滅危惧種とされるのが絶滅危惧Ⅰ類  (絶滅危惧ⅠA類、絶滅危惧ⅠB類)と絶滅危惧II類だ。しかし、多くの生物の生息地が失われ、残存する個体数が少ないこともあり、絶滅危惧種のデータ収集は難しい部分もある。

これらを踏まえ、絶滅危惧種は増加しているのが現状だ。第3次レッドリスト(2006~2007年度)から第4次レッドリスト(2012年度)に更新されて、絶滅危惧Ⅰ類と絶滅危惧Ⅱ類の総数は422種も増加した。

出典:日本の生きものたち 私たちにできること|環境省

絶滅危惧種に関連するSDGsの目標

地球レベルの生物の多様性や存続に関しては、2030年に向けた国際目標であるSDGsとも関連が深い。絶滅危惧種については、全17の目標のうち、目標14と目標15に関わりがある。

目標14「海の豊かさを守ろう」

SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」の7つの達成目標のうち、14-3、14-4、14-6と絶滅危惧種は関連がある。

14-3.科学的な協力を進めるなど、海の生態系に大きな影響があるとされる海洋酸性化の影響が最小限になるようにする。

14-4.水産資源を、少なくともその種の全体数を減少させずに漁ができる最大レベルまで早期回復させる。

14-6.2020年までに、必要以上の漁やとり過ぎを助長する補助金を禁止し、報告や規制のない漁業につながる補助金を新設させない。

いずれも、海の海洋資源や生態系に関する達成目標だ。

目標15「陸の豊かさも守ろう」

絶滅危惧種は、SDGs目標15「陸の豊かさを守ろう」の8つの達成目標のうち、15-5、15-7、15-8と関連がある。

15-5.自然生息地の劣化、生物多様性の損失を抑え、2020年までに絶滅危惧種の保護や絶滅防止の緊急の対策を講じる

15-7.保護対象の密猟や違法取引撲滅の緊急対策を講じ、違法な野生生物製品の需要・供給に対処する。

15-8.2020年までに外来種の侵入を防止し、外来種の陸域や海洋生態への影響を大幅に減少させる対策、優先種の駆除や根絶を行う。

いずれも、絶滅危惧種や固有種の保護などを目標としている。

動植物が絶滅危惧に陥る原因

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ここまで、絶滅危惧種とはどのような生物と定義づけられているか、SDGsとどのような関わりがあるか説明してきた。それでは、なぜ絶滅危惧種が近年増加しているのだろうか。動植物が絶滅危惧へと陥る原因を4つ取り上げる。

人間の活動(開発・捕獲・採集)

動植物が絶滅の危機に陥る原因のひとつが、開発活動や捕獲・採集などの、人間の活動による直接的なものだ。絶滅危惧種の減少原因として上位にあるのが開発や採集で、開発によるものは53%、採取や乱獲を原因としたものは18%にも上る。

出典:日本の生きものたち 私たちにできること|環境省

人間の活動により、日本では、ニホンカワウソ、ニホンウナギ、レブンアツモリソウなどが減少した。ニホンカワウソについては毛皮目的の捕獲や水質悪化、ニホンウナギは開発による環境の悪化、レブンアツモリソウは大量の盗難が大きな原因だ。銃に追い立てられたニホンオオカミやトキについては、すでに絶滅したとされている。

自然への働きかけの縮小

人の手が加わらなくなったことも生物が絶滅危惧に陥る要因となっている。かつて、田んぼや小川、雑木林など、人の手が加わることによって里地里山のバランスが保たれ、多様な生物の住処となってきた。

しかし、産業構造の変化や地方の過疎化により、里地里山の管理が放置され、そのバランスが崩れてきている。里地里山が荒廃することで、減少する生物も見られるようになった。

減少した生物として挙げられるのが、山野の草地に生息するキキョウ、対馬だけに生息するツシマウラボシシジミだ。

外来生物や化学物質による影響

外来種や化学物質による影響も、生態の絶滅危機に関連している。まず、外来種は人間によって持ち込まれたほかの地域に生息する動植物のことをいう。

例えば、ブラックバスだ。ブラックバスは日本各地の湖沼に放流されたが、食欲が旺盛であるため、固有種であるホンモロコなどが大きく減少してしまった。

過去に放流された外来種のほかには、ペットが野生化したケースもある。野生化したペットが固有種と繁殖して固有種が減少してしまったり、野生化した外来種が増えて農作物などを食い荒らしたりと、生態系だけでなく人にも影響が見られるようになってきた。

外来種は、天敵がいなくなることで繁殖しやすく、固有種に大きな影響を与えていることが問題となっている。外来種の影響により大きく減少し、絶滅の危機に瀕する生物のひとつとして挙げられるのがヤンバルクイナだ。

外来種のほかに、ダイオキシン類などの化学物質も生態のバランスや生存に影響を及ぼすことが大きな問題となっている  。

地球温暖化の影響

地球温暖化などの環境の変化も動植物の絶滅の危険性を増加させている。生息域の環境が変わることで生き物が住めなくなってしまったり、あるいはほかの生息域で生活していた生き物が進出したりすることが指摘されているためだ。

例えば、環境の変化によりライチョウの絶滅が危惧されている。ライチョウは高山に生息する鳥類だが、地球温暖化によりライチョウの生息域が狭まり、やがてなくなるのではと懸念されているためだ。

絶滅危惧種の保全に向けた取り組み

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主に日本における絶滅危惧種の問題について取り上げてきたが、生物の保全は日本だけが抱えている問題ではない。国際的にも深刻な問題となっており、世界中で対策が行われている。ここでは、絶滅危惧種の保全に関わる国内外の取り組みについて見ていこう。

ワシントン条約

ワシントン条約は、1973年に、アメリカのワシントンD.C.で採択された条約で、正式には「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」をいう。

ワシントン条約では、国際取引による種の絶滅防止と保全のため、国際取引を規制するために、野生生物を3つに区分してリストアップすることが定められた。

3つの区分(附属書Ⅰ、附属書Ⅱ、附属書Ⅲ)のうち、附属書Ⅰにリストアップされたものは、もっとも絶滅の危険性が高く、商業目的の国際取引が禁止されている。

生息域内保全

絶滅危惧種を絶滅の危機から守るために、保護増殖事業計画を策定し施策を展開している。回復に向けた取り組みとして実施されているのが、生息域内保全と生息域外保全だ。

生息域内保全は、自然の生息地で野生生物を保護する方法をいう。生息域の環境整備、減少原因の大幅な削減、保護区の設定などが、生息域内保全の例だ。

生息域外保全

野生生物が住処とする生息地を保全することも重要な取り組みではあるが、絶滅を防ぐにはそれだけでは難しい。そこで行われているのが、生息域外保全だ。

生息域外保全は、野生生物の生息域の外で直接保護する方法をいう。野生復帰や飼育下・栽培下での科学的データ収集などを目的に、保護センターや動物園で飼育し繁殖させ保護している。

まとめ

絶滅危惧種に指定される生物が絶滅の危機から脱するには、どのような取り組みが行われているかまずは関心を持つことが大切だ。