リサイクルやリユースといった不用品を再利用する活動だけでなく、アップサイクルに取り組む企業なども増えてきた。アップサイクルはリサイクルと何が違うのだろうか。

この記事では、アップサイクルの考え方とアップサイクルが注目されている業界、取り組みを行っている企業の事例を紹介する。

アップサイクルとは「廃棄物に新たな付加価値をもたせること」

アップサイクルとは 1.jpg

アップサイクルは、不要なものや廃棄物を再利用して、より価値のある製品を生み出すことを指す。新たな原料や製品を生み出す「リサイクル」、そのまま再利用する「リユース」をより発展させた考え方だ。

アップサイクルに似た言葉に「ダウンサイクル」がある。廃棄物を再利用する点は同じであるが、原料化するなどして、もとの製品よりも付加価値の低い製品または同程度の製品を生み出す点が異なる。

2030年に向けた国際的な目標として、SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )があるが、アップサイクルはSDGsの中でも目標12「つくる責任 つかう責任」と関連が深い。

持続可能な社会を構築していく上でも、アップサイクルの考え方や取り組みは重要といえる。

>>SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」の取り組み内容

アップサイクルが注目されている産業

アップサイクルとは 2.jpg

アップサイクルは、特にファッション産業や食品産業において注目されている。

ファッション産業

ファッション産業は、製造段階だけでも原材料の調達や紡績、染色、裁断・裁縫と複数の工程が存在している。製造にかかるエネルギーの多さ、そしてライフサイクルの短さから、環境負荷が大きい産業と指摘されてきた。

消費する資源の量で見ると、服1着を製造するだけでも、25.5kgの二酸化炭素、2,300Lもの水が消費されている。

参考:SUSTAINABLE FASHION|環境省

これだけの資源を使って服が製造されているにもかかわらず、服を手放すときは、可燃ごみや不燃ごみとして破棄されることが多い。可燃ごみ・不燃ごみとして処理されると、焼却や埋め立てに労力がかかるだけでなく、環境にも負荷がかかってしまう。

そこで注目されるようになったのがアップサイクルの取り組みだ。環境への負荷を抑制する手段として、その必要性が高まっている。

食品産業

日本では食品の廃棄が非常に多い。2018年度の食品廃棄物の発生量の推計は約2,531万トンにも上っている。廃棄された食品のうち、まだ食べられる食品の廃棄量は約600万トンである。食品産業では食品ロスの削減が重要な課題であることが認識された。

参考:我が国の食品廃棄物等及び食品ロスの発生量の推計値(平成30年度)の公表について|環境省

なお、農林水産省の公表した食品廃棄物の発生量や食品ロスの発生量は、農業や漁業などの一次産業は考慮されていない。一次産業における廃棄を含めると、さらに多くの食品ロスがあると推測されている。

深刻な課題として認識されてきた食品廃棄については、これまで飼料や肥料への利用など、ダウンサイクルが中心に行われてきた。このようなダウンサイクル的な取り組みは食品製造業の多くで実施されてきている。

一方で、小売や外食産業などにおいてはあまり取り組みが進んでいない。そこで、近年注目されはじめたのがアップサイクルフードだ。

廃棄されていた規格外の農産物を活用したジュースやジャムの製造、クレヨンなどの文房具の製造、化粧品や歯磨き粉への利用など、さまざまな取り組みが行われている。

アップサイクルに取り組む企業や地域の事例

アップサイクルとは 3.jpg

アップサイクルとはどのような考え方か、どのような産業で特に注目されているのかを紹介してきた。ここからは、企業や地域におけるアップサイクルの取り組み事例をいくつか取り上げる。

【ファッション】株式会社アダストリア

株式会社アダストリアは、2020年2月から、アップサイクリングブランドである「FROMSTOCK」をスタートした。

FROMSTOCKは、毎年大量に生産され捨てられていく服でできたブランドだ。「黒染め」を特徴としている。

同社がアップサイクリングブランドで取り組んでいる黒染めは、工程がシンプルで最もロスが少ないとされる色染めだ。洋服の素材や特性に応じて使い分けるなど、使用する染料にもこだわっている。

また、服自体にダメージがあっても、黒染めが独特の風合いへと変化させるため、服ごとの異なる表情も楽しむことが可能だ。ブランドとしての価値を築きつつ、きちんとした排水管理による環境への負荷の低減も抜かりがない。

【食品】オイシックス・ラ・大地株式会社

オイシックス・ラ・大地株式会社は、フードロス削減を目指したサービス「Upcycle by Oisix」を展開している。

加工の際に廃棄される予定であった、なすのヘタやブロッコリーの茎、バナナの皮などを活用したチップスやジャムを販売している。フードロスの削減だけでなく、新しい食の楽しみ方を広げるサービスとしての一面も持っている。

2024年時点で年間約500トンのフードロスを削減することを目標に掲げて、サービスを開始した、2021年7月から3ヵ月半で6.3トンものフードロスの削減を達成した。

【ヘルスケア】株式会社ファーメンステーション×カルビー株式会社

独自の発酵技術により未利用資源の再生と循環を目指すスタートアップ企業の株式会社ファーメンステーションは、カルビー株式会社の協力のもと、規格外のじゃがいもを使用したアップサイクルのウェットティッシュを商品化した。

契約農家との持続的な原料調達に力を入れるカルビー株式会社から供給された規格外のじゃがいもを活用したものだ。

同社の精製技術により、規格外のじゃがいもを、より価値のあるエタノールへアップサイクルさせ、天然由来成分99%の除菌ウェットティッシュを開発した。食品ロスの手法のひとつとして、カルビー株式会社の販促物などとして利用されている。

【建設】神奈川県横浜市

服や食品だけでなく、建物におけるアップサイクルもある。神奈川県横浜市の「横浜赤レンガ倉庫」もアップサイクルのひとつだ。

1911年、赤レンガ倉庫1号館より先に2号館が竣工となった。いずれも、保税倉庫として建設されたものだ。戦後は、湾岸倉庫として再稼働が行われた。

長らく倉庫として使用されてきた横浜赤レンガ倉庫であったが、1970年代になると倉庫としての役割が減り、解体も検討される。1989年には倉庫としての役目を終え、休眠状態になった。

しかし、使用されなくなった後も横浜赤レンガ倉庫はそのまま残されることになる。1983年に、みなとみらい21事業が始まったことで、赤レンガ倉庫を中心に歴史と景観を守る街づくりが進められていったためである。

1992年になると横浜市が国から横浜赤レンガ倉庫を取得し、市民が憩いにぎわう場として保全・活用する事業を進めた。約9年間の保存、活用工事を経て、2002年には文化・商業施設としてリニューアルし、現在では多くの人が訪れる場所となっている。

このように、古くなった建物をリノベーションや再活用することもアップサイクルのひとつだ。

まとめ

ファッション産業や食品産業を中心に、同等物への再利用ではなく、付加価値を付けた再利用であるアップサイクルが注目されている。地球環境について考えるなら、私たち一人ひとりがアップサイクルなどの取り組みに注目することが大切だ。