国内最大手の航空会社である全日本空輸(ANA)と、バイオジェット燃料の開発に取り組むLanzaTechにとって、明るい兆しが見え始めている。両社は、バイオジェット燃料の購入について合意し、納入目標を2021年に設定した。これは自社の環境影響をできるだけ抑え、「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けて取り組むANAにとって大きな一歩となる。

ANAにとってバイオ燃料の導入はこれが初めてではない。2019年1月、昭和シェル石油株式会社(当時)からバイオジェット燃料を7万ガロン(約265キロリットル)購入している。ANAによれば、このバイオジェット燃料は現在サンフランシスコ便で使用している燃料と混合され、約150トンのCO2排出量の削減につながるという。

米国を拠点とするLanzaTechはThe Digestの2019年「先進バイオエコノミー企業トップ50社」ランキングで1位に選ばれた。詳細はThe Digestの2019年マルチ・スライド・ガイドをご覧いただきたい。

LanzaTechは最先端の微生物によるガス発酵技術を用いてエタノールを製造している企業だ。さらに、バイオジェット燃料の製造につながる技術を米国エネルギー省(DOE)のパシフィック・ノースウェスト国立研究所(PNNL)と共同開発し、その商用化にも取り組んでいる。LanzaTechに出資している三井物産のプレスリリースによれば、「LanzaTechはすでにこのガス発酵技術を使用する商業プラントを中国で稼働させており、PNNLと共同でエタノールからバイオジェット燃料を生成する触媒技術も確立している。」これは実験室での研究が新燃料技術の商用化につながりうることを証明するものであり、DOEとPNNLにとって大きな成功だ。

LanzaTechのCEOジェニファー・ホームグレンは、「さらに、実証プラントの建設を実現するための資金として、フェーズ1ではDOEからの補助金を受けています」と語った。「フェーズ1は今年の後半に終了する予定です。とても順調に進んでいて、実証プラントを建設する用意は整っています」。ホームグレンによれば、LanzaTechは現在、実証プラントの建設資金の調達を進めており、その後すぐに、年間3000万ガロン(約11万キロリットル)規模の商業プラント3基の建設を予定している。

ホームグレンはこれらすべてを俯瞰的にも捉えており、他の人々とその展望を共有している。彼女は次のように語っている。「世界全体のカーボンフットプリントを減らすことが切実に求められている今、すべて順を追って進めていたのでは、必要なところまでたどり着けません。私自身、旅行は疲れるので、うんざりしていますが、かといって旅行するときの費用があまりにも高額になってしまって、この美しい地球の最果ての地にほとんど誰も行けなくなるとしたら、世の中は本当に悲しいものになってしまいます。今まさに大胆な行動が必要だということです。ですから、実証プラント1基と商業プラント3基を建設する資金を並行して調達することは、バイオジェット燃料市場の変革に役立つでしょう。今からおよそ4年後には少なくとも年間1億ガロン(約38万キロリットル)のバイオジェット燃料(LanzaJet)を製造することになるでしょう」

そしてこれは、バイオジェット燃料の製造の現状を考えればかなり驚くべきことだ。


米国ジョージア州ソバートンのLanzaTech Freedom Pinesバイオ精製所

その中で三井物産はどのような役回りなのだろうか?
同社が2014年にLanzaTechのリードインベスターだったこと、さらに2018年にはストラテジックインベスターだったことをご存知だろうか。三井物産はLanzaTechと共同で、LanzaTechの触媒技術を用いたバイオジェット燃料の製造事業の開発にも取り組んでいる。三井物産と覚書を交わしたANAは「今秋、産業排ガスを原料としてLanzaTechが製造したバイオジェット燃料を新造機のデリバリーフライトを実施する予定」とプレスリリースで伝えている。

三井物産によれば、現在、各社は協業を進めており、覚書の取り組みの一環として、三井物産とANAは2019年秋にLanzaTechが製造したバイオジェット燃料を使用し、米国—日本間で新造機のデリバリーフライトを共同実施するという。

なぜLanzaTechなのか? なぜバイオ燃料なのか?

ANAがLanzaTechを選んだのは、同社がThe Digestの2019年「先進バイオエコノミー企業トップ50社」ランキングで1位の会社だったからだろうか?

ANAは、今、航空業界ではサステナビリティが極めて重要だと意識している。同社はプレスリリースで次のように述べている。「国際的に存在感を高めていく中で、ANAは、サステナビリティで世界をリードする企業という世の中の評価を裏切らないよう努めています。サステナビリティが、現代のあらゆるビジネスにおいて極めて重要な課題として認識される中で、ANAは自社の価値観を守り、かけがえのない地球を守り続けます。ANAは常に常識に挑み、航空業界の基準を高めるべく努力するとともに、サービスや快適さ、サステナビリティの見本となれるよう努めてまいりました。環境リーディングエアラインを目指す取り組みの一環として、バイオジェット燃料導入に向けたLanzaTechとの協力を通して、自社航空機の使用燃料の質を改善するとともに、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献してまいります」

このようにサステナビリティに焦点をあて、環境リーディングエアラインを目指すANAの姿勢が、「最も燃費のよいバイオジェット燃料を探す広範な調査につながり、その結果、汎用性がありエネルギー密度の高いLanzaTech独自の製品が選ばれた」というわけだ。

ならばANAは、LanzaTechの燃料のどこが最も気に入ったのだろう? ANAによれば、「LanzaTechが開発したバイオジェット燃料には硫黄が含まれていない。また、商業航空に用いられるすべてのバイオジェット燃料に関する現行の国際基準に従い、少なくとも50%の従来ジェット燃料と混合して使用される。そうすることで、完全なサステナビリティへの移行が容易になる」という。

かたやLanzaTechにとっては、航空各社がSDGsについて着目することはとても喜ばしいはずだ。ホームグレンはThe Digestで次のように述べている。「企業活動そのもの、また製品をSDGsに適合させようと努める企業が世界中で増えています。これは重要な着眼点であり、当社の事業、ならびに『あらゆる人々にとってよりよい世界を築きたい』という当社の思いと、見事につながります。ANAのプレスリリースではRSB(持続可能なバイオマテリアル円卓会議)にも触れていますが、これももちろん正しい取り組みを進めていく上で極めて重要です」


米国ジョージア州ソバートンのLanzaTech Freedom Pinesバイオ精製所

各社のコメント

ANA

ANAの取締役 常務執行役員である三浦明彦は次のように話す。「ANAは常に、当社の価値観に従って歩んでまいりました。バイオジェット燃料に移行するという決断も、当社がいかに真剣に環境問題に取り組んでいるかを示すものです。この新型燃料を導入することによって、CO2排出量を削減し、航空業界が設定した持続可能な開発に向けた野心的な目標を達成することができるでしょう。ANAは、最も差し迫った問題に対する革新的なソリューションを追求します。そして、より良い世界を築くために、生態系への影響を低減する方法を探し続けます」

三井物産

「貨物空輸の需要が増加傾向にある中で、国際民間航空機関(ICAO)は、2020年以降業界のCO2排出量を頭打ちにするという目標を設定しました。事業活動をESG(環境・社会・ガバナンス)や国連の持続可能な開発目標(SDGs)に沿うものにする必要性が高まっていることを受けて、三井物産では、バイオジェット燃料の安定的・長期的な供給を通して、低炭素社会の構築に向けて取り組むとともに、地球温暖化や地球が今直面しているその他の課題の解決に貢献してまいります」

LanzaTech

ホームグレンはThe Digestで次のように話している。「LanzaTechは、『国際航空のためのカーボンオフセット及び削減スキーム(CORSIA)』のもとでの義務を果たすことに力を注ぐ航空会社が大量のバイオジェット燃料を利用できるようにするために、早急な規模拡大と商用化に向けて取り組んでいます。航空業界や環境団体などとの密接な協力がなければ、成功はできません。バイオジェット燃料の利用を通して低炭素の未来を構築すべく取り組んでいるANAと三井物産との協業を楽しみにしています。持続可能な開発目標や持続可能なバイオマテリアル円卓会議の指針に従うという両社の姿勢は、『あらゆる人々にとってよりよい世界を築きたい』という当社の方針と、とてもよく調和するものです」

結論まとめ

・ANAは環境リーディングエアラインになりたいと考えている。
・LanzaTechは炭素の問題を置き去りにしたくない、世の中をよくしたい、できるだけ早くバイオジェット燃料を世界で商用化したいと考えている。
・三井物産は国内および世界の他の市場にまたがるサプライチェーンにおいて、CO2排出量を削減したいと考えている。

実現は可能だろうか? もちろん可能だ。それに三社ともその実現に向けて正しい道を進んでいる。まさに明るい兆しが見え始めている。

 

この記事は、Bioefuels Digestのヘレナ・タヴァレス・ケネディーが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。