(Bloomberg) — 「バークレー人民共和国」とも呼ばれるカリフォルニア州バークレー市は、市民・環境に関すること全般でリーダーシップを誇っている。サンフランシスコの東に位置する自由主義的なこの小都市では、カーブサイドリサイクルという道路脇に出された資源ごみをリサイクル業者が回収する制度を米国で最初に導入した都市の一つだ。発泡スチロール容器の使用を禁止し、プラスチック製レジ袋の対策にもいち早く乗り出している。そのバークレーの市議会が、今年の初めにまた新たな環境施策を発表した。その対象となったのは、持ち帰り用のコーヒーカップだ。

同市議会によると、市内で捨てられる使い捨てカップの数は年間約4000万個。平均すると全市民が毎日ほぼ1個捨てていることになる。これに対し、市は持ち帰り用カップを使う客からは追加で25セントを支払うようコーヒーショップに義務づけると2019年1月に発表した。発表の場でバーグレー市議会議員の政令担当であるソフィー・ハーンは「待つという選択肢はもうありません」と述べた。

あふれかえるごみに頭を抱え、各国や地域では、持ち帰り用の使い捨てプラ容器やカップを禁止する動きが進んでいる。欧州では飲料用プラカップを2021年までに廃止すべきとしている。同じく、インドは2022年、台湾は2030年までの廃止を目指している。全面的な禁止措置を導入する前に、消費者の行動を早期に変えるための試みとして、バークレー市のように追加料金を課す対応はさらに広まる可能性が高い。

年間60億個ものカップを使用しているスターバックスのようなチェーン店にとって、これは死活問題と言ってもいい。他にも、米国の大手ドーナツチェーンであるダンキンは今では売上の70%近くをコーヒーによる収入が占めている。こうした状況は、マクドナルドなども含めたファストフード業界全体にとって差し迫った問題である。

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これらの企業の経営者たちは、このような日が来ることを何年も前から予期していた。プラスチックの蓋と内側にプラスチックが貼り付けられた二重構造の紙カップに代わる環境に優しいカップを作ろうと、各社で、あるいは共同で10年以上にわたり取り組みを続けてきた。

しかし、そのような取り組みはなかなかうまくいっていないのが現状だ。

「悩み続けています」とこぼすのは、ダンキン・ブランズ・グループ社の最高執行責任者スコット・マーフィー。同グループは、年間10億個ものコーヒーカップを使用している。発泡スチロールの使用廃止を掲げた2010年以来、マーフィーは、同チェーン店のカップの再設計に取り組んできた。そして今年、店舗での紙カップへの移行がやっと実現したが、今後も新素材や設計の研究は続いている。

「皆さんが思っているよりも少し複雑なんです」とマーフィーは言う。「カップは、お客様との一番近い接点で当社のブランドや伝統に関わる大きな要素です」

使い捨てカップは、どちらかというと現代の発明品だ。およそ100年前、公衆衛生の重要性を訴える人々が禁止しようと目指していたのは使い捨てカップではなく、公共の水飲み場のそばに置かれていたブリキ製やガラス製の共用カップだった。そのような中で、ローレンス・ルーレンという人が、ワックスで内側をコーティングした使い捨てカップの特許を取得し、肺炎や結核などの病気の予防に役立つイノベーションとして売り出した。

持ち帰り用コーヒーの文化が現れたのは、それからずっと後のことだ。マクドナルドが朝食のサービスを全米で開始したのが1970年代後半で、それから10年と少しした後、スターバックスが第50号店をオープンした。金融サービスであるBTIGのアナリストであるピーター・サーレの推定によると、ダンキンも合わせたこの3社によるコーヒーの売上高は年間200億ドル近くに上るという。

一方、ジョージア・パシフィックやインターナショナル・ペーパーなどの製紙企業は、使い捨てカップの市場とともに成長してきた。使い捨てカップの市場規模は、2016年には120億ドルに達し、2026年までに200億ドル近くになることが予想されている。

米国で使用される紙・プラスチック・発泡スチロール製コーヒーカップは年間約1200億個に上り、世界全体のおよそ5分の1を占めている。そのほとんど(99.75%)が最終的にごみとなるが、現実として紙カップでさえ分解に20年以上を要する。

プラスチック製レジ袋禁止の波は、カップごみ削減に向けた新たな取り組みに広がっている。食品や飲料容器の廃棄量は、ある場所におけるレジ袋廃棄量の20倍になることもあり、はるかに大きな問題となる。しかし、レジ袋を再資源化して布製バッグ(エコバッグ)にすることは比較的簡単だが、持ち帰り用カップはそう簡単ではない。バークレー市はエコバッグに入れておけるようなマイカップの使用を市民に推奨している。スターバックスとダンキンの2社は、マイカップを持参したお客を対象に値引きを実施している。

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再利用可能なカップが優れた解決策になることは、コーヒーショップも分かっている。ただ、今それを各店に導入すると、店舗運営上の”悪夢”になり得るとダンキンのマーフィーは言う。カップが汚れていないか、洗った方が良いのかなど、スタッフには分からない。SサイズやMサイズのコーヒーを大きなマグカップにどの位まで注げば良いかも分かりにくいためだ。

スターバックスは10年前に自社のコーヒーのうち最大25%をマイカップで提供すると宣言したが、その目標値は大きく下がっている。同社はマイカップを持参した利用客全員に値引きを実施しているにもかかわらず、持参する利用客はいまだに利用客全体の約5%に過ぎない。一方で昨年、使い捨てカップに5ペンスの料金を上乗せする暫定的な取り組みを英国で行ったところ、マイカップの利用は150%増加したという。

「これは長い旅です。この旅に終わりが来るとは思えません」
だからこそ、カップの改善に向け、各社は取り組みを続けている。

ダンキンは、同社特有の発泡スチロール製カップに代わるものを見出すのに9年かかった。初期の試作では新しい蓋を付ける必要があったがそもそも蓋自体のリサイクルが難しく、100%再生素材で作った試作品には歪みがあり底が傾いていた。また、キノコ繊維で作ったカップは、容易に分解できるが費用がかかりすぎるため量産化には向かなかった。

最終的にダンキンは、内側をプラスチックでラミネートした二重構造の紙カップに落ち着いた。これなら、カップの外側にスリーブをつけなくても熱く感じない十分な厚さがあり、既存の蓋もはめられる。このカップはエシカルに調達された紙が原料であり、発泡スチロールよりも速く生分解が進む。しかし利点といえばその程度で、生産費用はかさみ、リサイクルできる場所はごく限られている。

紙カップは、リサイクルが難しいことで悪名高い。リサイクル業者は、内側のプラスチックラミネート材が付着して機械が壊れることを懸念し、たいていはリサイクルせず紙コップをごみとして処理する。プラスチックのラミネート材を紙から剥がせる「バッチ式パルパー」と呼ばれる機械は、北米に3台しかない。

紙カップのリサイクル推進に取り組む英国のPaper Cup Recovery & Recycling Groupによると、リサイクルの改善に各都市が大規模に取り組めば、リサイクルされるカップの数をたった数年のうちに400個中1個からおよそ25個中1個に増やせる見込みがあるというが、この”前提”はまず実現しないであろう。消費者は普通、プラスチックの蓋が付いたままコーヒーカップを捨てるため、その後別々にしなければリサイクルできない1。ダンキンは各地方自治体と共同で、リサイクル可能なカップが実際にリサイクルされるようにするための取り組みを行っている。「これも長い旅です。終わりが来るとは思えません」とダンキンのマーフィーは言う。マクドナルドは最近、スターバックスなどのファストフード店と協働し、1000万ドル規模のコンテスト「NextGen Cup Challenge」への出資を行った。より持続可能な持ち帰り用カップの開発、推進、普及を目指す「壮大な挑戦」とされる同コンテスト。今年の2月には、12の受賞団体が発表され、分解もリサイクルも可能な厚紙製カップ、中に液体を入れられる植物由来のラミネート材の開発、再利用カップの利用促進に向けた構想などが受賞した。

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「足元の採算性も確保できて、なおかつ野心的な解決策を模索しています」とNextGen Cup Challengeの運営組織であるリサイクル特化型投資ファンドの広報担当役員のブリジット・クロークは言う。

より速く分解されるカップも解決策になり、欧州の禁止法令では12週間以内に分解される堆肥化可能なカップは例外とされている。しかし、そういったカップがすぐに利用できる状態にあり、費用対効果の面でも優れていたとしても、米国には分解に必要な産業用堆肥化施設が十分にない。堆肥化施設がなければ埋め立て地に送られることになるが、埋め立て地ではこうしたカップはまったく分解されないのだ2

スターバックスは2018年の年次会議で、使用済みコーヒーカップの再生材料で作られたカップの試験をひそかに行っていた。これこそが究極の目標とされている技術である。だが実際には、パフォーマンスアート的な行為という側面が大きかった。まず、トラック何台分ものカップを回収し、ウィスコンシン州にあるSustana社のバッチ式パルパーへ送り、加工処理を行う。そこで取り出した繊維を今度はテキサスにあるWestRock社の製紙工場に輸送してカップに成形、さらにロゴをプリントするためにまた別の企業に送る。最低でもこれだけの工程が必要になるのだ。そうして完成したカップがいくら環境に良かったとしても、その製造過程が環境に悪いのは明らかだ。「やり方に大きな課題があります」とClosed Loop社のクロークは言う。
「この問題の解決に向けた各社の取り組みには、まったくスピード感が足りていないことは明白です」

したがって、バークレー市のような行政機関はこれ以上待つことはできない。バークレー市の政令起案を支援した非営利団体Upstreamのプログラムディレクターであるミリアム・ゴードンによると、追加料金の導入前に同市当局が市民に対し調査を行ったところ、25セントの追加料金を導入すれば、70%を超える住民がマイカップを持参することが判明した。この追加料金は、従来の税金と同じではなく、人の行動を試す”実験”の意味合いが強み。バークレー市内のコーヒーショップは、追加料金を上乗せしつつ、利用者の支払額が変わらないように値下げもできる。ただ、追加料金がかかることだけは明示することが求められる。「こうした対策は消費者が認知できるものでなければなりません」とゴードンは言う。
「それこそが、人に行動の変化を促すのです」

(1)2018年、中国は自国のごみ処理能力の限界を超えたと判断し、他国から来る「汚染した(様々なごみが混ざった)」ごみの加工処理の受け入れを廃止したことで、あらゆる事態がさらに悪化した。

(2)堆肥化するには、分解を促すために空気の自由な出入りが必要となるが、埋め立て地は流出を防ぐよう密閉されているため、分解が速く進むように作られたカップであっても、必要な空気を循環させることができず、分解が進まない。

–協力者:レズリー・パットン

本記事の著者へのお問い合わせ先:ニューヨーク在住エミリー・チャーサン echasan1@bloomberg.net

ニューヨーク在住ヘマ・パーマー hparmar6@bloomberg.net
本記事を担当した編集者へのお問い合わせ先:ジャネット・パスキン jpaskin@bloomberg.net

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この記事は、Bloombergのエミリー・チャーサンとヘマ・パーマーが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。