メイジー・ヒューズは、子どものころから木が大好きだった。「いつも木のことで頭がいっぱい」なのだ。それなのに、自然の中にいると何となく落ち着かない感じもしていた。それは自分が黒人の女性だからだという。「風景のとても美しい場所を訪れると、その雄大さに心が震えます。でも、自分はそこにいるべきじゃないような気もしていました」と彼女は言う。そしてその居心地の悪さは「自然は裕福な人たちのためのものだ」と考える、昔からの文化のせいだと説明する。

ヒューズはこの考え方を少しでも変えていこうと、公平でサステナブルな都市のあり方を目指すアーバン・スタジオというNPOを立ち上げた。今では、1875年創設の保全団体アメリカン・フォレストと協力して、米国の都市でアーバンフォレストリー(都市の樹木にまつわる活動)に取り組んでいる。

彼女は2021年12月にポッドキャスト番組「World Changing Ideas」に登場し、都市の緑化にまつわる自分たちの活動と「木の公平さ」について話した。木の公平さとは、都市空間において、裕福な白人だけでなくすべての人が木々の恩恵を受けられるようにすることだ。

木々は都市住民の心と体を健康にする。また、猛暑の脅威が高まる中で、木陰を作り、気温を下げる働きもしてくれる。だから木々の存在はとても重要だ。それなのに米国全体を見ると、有色人種が多数を占める地域では、白人が多数を占める地域よりも樹冠(樹木の葉が茂っている部分)が33%少ない。また富裕層が住む地域では、貧しい人々が住む地域に比べて樹冠が65%多い。「有色人種の人たちは自分たちの住む街のまちづくりが計画される時に、かやの外に置かれて相手にされません。意見を聞いてもらえないんです」とヒューズは語る。気候変動がマイノリティや低所得層の人々に最も深刻な影響を及ぼすことを考えると、この問題の悩ましさは増すばかりだ。

木は、ただ植えればいいというものではなく、適切な場所に植える必要がある。最も弱い立場にいる人たちはどこに住んでいるのか。木の冷却効果が最も必要な場所はどこか。木が足りない場所はどこか。ヒューズたちはこうした点を考えながら、戦略的に植える場所を決めている。これらのデータは、今ではアメリカン・フォレストが開発したオンラインマップ「Tree Equity Score(木の公平性スコア)」に載っており、随時更新され、誰でも利用できる。この情報があるから、ヒューズたちは現場に出て、どこに木を植えればいいのかを自治体に示せるのだ。現在、ヒューズたちはダラス、デトロイト、フェニックスなど米国の12都市と協力して活動している。2030年までに100都市で活動するのが目標だ。

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このごろ植林活動をアピールする企業が増えているが、ヒューズはただ木を植えるだけではだめだと言う。「植林は人目を引く魅力的な活動です。とくにSNSをやっていればね。でも難しいのは、植えた木が育つようにすることなんです。せっかく時間をかけて木を植えたのに枯れてしまった、なんて嫌じゃないですか」

この活動には健康と気候緩和の面以外にもメリットがある、とアメリカン・フォレストは考えている。植林と木々の管理は、新たなアーバンフォレストリーの担い手の仕事を生み出すことにもつながるし、現場の労働力の多様化にも役立つ。例えば、アメリカン・フォレストは、お茶ブランドのTazo Teaと、持続可能な樹木栽培を掲げるDavey Tree Expert Companyと協力して、Tazo Tree Corpsという活動に取り組んでいる。これは有色人種の人たちを雇い、都市部に木々をたくさん植えて管理する活動で、サンフランシスコやミネアポリスなどで行われている。

Tree Equity Scoreの開発はまだ続いている。今は、機能を向上するためにAIの新技術に取り組んでいる。また、スコアの裏にある現地の状況に関する情報も地図に加える予定だ。とは言っても、中心となる技術が「木」そのもの(=世界最古の技術の一つ)であることに変わりはない。「街にあるものとしては、木は気候変動に適応するためのずば抜けてすばらしい技術なんです」とヒューズは語る。

この記事は、Fast Companyよりタリブ・ヴィスラムが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。