要点

  • 世界の淡水供給量の70%以上を使用する食品産業は、将来の水不足への対策が大幅に遅れている。そう指摘するのは、サステナビリティを推進するNPOセリーズ(Ceres)だ。彼らが新たにまとめた報告書Feeding Ourselves Thirsty(仮題:水不足は私たち自身がもたらしている)」では、食品飲料会社38社の水不足に対する戦略を、ガバナンスや企業管理、リスク評価、水使用量の削減目標、生産者への資金的支援などの観点から評価した。その結果、100点満点で平均は45点だった。
  • その中で、少ないながらも、比較的高スコアの企業もあった。コカ・コーラは最高点の90点、続くユニリーバとアンハイザー・ブッシュ・インベブ(AB InBev)はともに83点を獲得した。評価が低かったのはJBS、パーデュー(Perdue)、サンダーソン・ファームズ(Sanderson Farms)、ピルグリムズ・プライド(Pilgrim’s Pride)などの食肉業者で、すべて12点以下だった。セリーズは、改善が求められる重要な分野として、農作物や家畜を育てるために大量の水を使う農業サプライチェーンを挙げている。
  • 71%の企業は、事業計画や投資判断において水のリスクを考慮に入れており、その割合は2019年から13ポイント増えた。しかし、多くの企業がこの課題に優先的に取り組んでいないことも明らかになった。これは深刻な問題だ。報告書で引用されている国連の予測によれば、水の需要は、2050年までに20~30%増加する見込みだからだ。

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食品産業の中でも、ある特定の業種は、水のリスクに対してもっと力を入れて取り組む必要があることも分かった。

というのも、評価対象の食肉加工業者の中に、今の段階で、農業サプライチェーンでの水の削減目標を掲げている企業は一社もなく、リスク評価プロセスを取り入れているのはホーメルフーズ(Hormel Foods )だけだったのだ。セリーズは、食肉加工業者が水の削減に取り組むことはとても重要だと強調する。水の供給問題に、彼らが特有のリスクをもたらしているためだ。

「農業は、世界のいたるところで地下水を枯渇させつつあります。また食肉生産は、世界的に見て水源地域を汚染する最大の要因の一つになっています。肥料や化学物質が流出するし、ふん尿の管理がずさんだからです」。セリーズの水部門ディレクターを務めるカーステン・ジェームズは、報告書発表の場でそう説明した。

サステナブルな食を推進するNPOフードプリント(FoodPrint)によれば、世界全体のウォーターフットプリントのうち、肉や畜産物の消費に関わるものは27%を占めるという。中でも飼料生産に使われる水の量がもっとも多い。

※サプライチェーンとは、製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの全体の一連の流れのこと。

※ウォーターフットプリント(英語:Water Footprint)とは、食料や衣類などを生産する際に、使用される水の量のこと。水不足などの環境問題に直面している今、使用される水の量を定量的に測り、対策を行うためにもウォーターフットプリントの考え方は非常に重要。

セリーズは、報告書発表において、水資源を守るためのコカ・コーラの充実した取り組みを紹介した。報告書では、水使用量の削減目標とリスク評価の分析が、同社の高得点の主な理由として挙げられた。

報告書発表の場で、コカ・コーラ社サステナビリティ担当副社長のマイケル・ゴルツマンは、同社がどのようにして水の削減に取り組んでいるかを説明し、2020年には、飲料大手として初めて、使用量を上回る量の水を自然に還元したと述べた。同社は水の循環利用により消費量を減らすとともに、水源の改善に投資する取り組みを進めているという。

「また、世界の水のリスクや水資源の脆弱性を評価したデータを用いながら、私たちが事業を行い、原料の農作物を調達する水源地域の改善に、優先的に取り組んでいます」とゴルツマンは語る。

サステナブルに農作物を調達するとコミットした企業も、以前より増えた。現在は70%近い企業が目標を掲げており、2015年の41%から増加した。一例として、食品原材料大手のイングレディオン(Ingredion)は、サステナブルな方法で210万トン以上の農作物を調達している。しかし、いまだ3分の1の企業が何のコミットもしておらず、とりわけ期限付きの目標設定がないという。目標を掲げていない企業には、ブラウン・フォーマン(Brown Forman)、コンステレーション・ブランズ(Constellation Brands)、モンスター・ビバレッジ・コーポレーション(Monster Beverage Corp.)、JMスマッカー(J.M. Smucker)、コーンアグラ(Conagra)がある。

もう一つ改善が見られたのは、水やサステナビリティ関連の目標と役員報酬を連動させる取り組みだ。調査した企業の53%が実施しており、2019年から20ポイント増えた。ただし農業関連企業の中では、水戦略と役員報酬を連動させていたのはデルモンテとアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(Archer Daniels Midland)だけだった。

水源地域の保護計画についても改善が見られた。2015年は計画を立てていた企業はゼロだったが、今回は42%になった。報告書では特に、ミシシッピ川流域などの水源地域保護に投資するカーギル(Cargill)に注目している。

セリーズは食品会社に投資する投資家に対して、企業のトップと直接エンゲージメントを行い、さまざまな水のリスクへの対応が適切に実施されるようにしてほしいと訴えている。そして「今回の結果は、投資家による企業への働きかけを後押しし、企業の慣行や方針を変える力になり得るのです」と語っている。

この記事は、Food Diveよりクリス・ケーシーが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。