イスラエル北部に住むエリシャ・ベン・マイヤー(18歳)は、近所で愛犬ルナの散歩をしながらごみ拾いをする。彼女は、発表から間もないアプリを使って、ごみを拾って景品と引き換えるためだ。

近所の渓谷でごみ拾いをすると、1袋分につき、「クリーン・コイン」という仮想通貨を約10枚もらえる。このコインを貯めると、協賛企業の商品と引き換えられる。

イスラエルは、1人あたりのごみ排出量で世界上位に入る。そんな国で始まったこの仕組みは、一般市民にごみ拾いを促す狙いがある。

「渓谷に一歩足を踏み入れれば、いたるところにごみが落ちています」とベン・マイヤーは言う。

「屋外でお酒を飲んだりバーベキューをしたりして、ごみを全部置いて帰る人がいるんです。本当に腹が立ちます」

ごみが詰まった袋を近くのごみ箱に入れる前に、彼女はその日の収穫を写真に収めた。この日は、クリーン・コイン約30枚分の収穫があった。

イスラエル北部の港町ハイファに拠点を置くクリーン・コインの共同創業者兼CEOのアダム・ラン(35歳)は、「地図上の黒い点が、ユーザーから報告のあったごみの位置を示しています」とオフィスでアプリを見せながら説明した。

「写真を見ればごみの量や位置が正確に分かり、ごみを集めるのに袋が何枚ぐらい必要か、コイン何枚分に相当するかも分かります」

アプリの登録者数はすでに1万6000人を超えており、毎週約1200人が実際にアプリを使ってごみ拾いをしている。

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ーー誰もが興味を持っているーー

同じく共同創業者でテクニカルディレクターを務めるガル・ラハト(21歳)は、アプリ設計にあたっては遊び心を大事にしたと語る。ユーザーはポイントを稼ぎ、レベルアップしていくこともできる。

「他のユーザーと達成度を競い合えるだけでなく、ゲーム感覚でごみ探しをできるようにしています」とラハトは言う。

また、報酬があることが、ごみ拾いに出かけるインセンティブにもなると彼は指摘する。

「自然にとっていいだけでなく、自分にもちょっとしたご褒美があるので、それがモチベーションになっています」とベン・マイヤー。そう言って彼女は、サーフブランドであるビラボンのハイファ店に向かい、集めたクリーン・コインをTシャツに交換した。

暗号資産といえば、演算能力の高いコンピュータに複雑な計算をさせる「マイニング 」という大量の電力を消費するプロセスを伴うが、クリーン・コインはそれとは違い、ごみ拾いの見返りとしてもらえるクーポン券に近い。

協賛企業は25社を超えるとランは言う。集めたコインは、衣服の他にも、クライミングジムやホテルの宿泊券にも引き換えられる。今後はスーパーマーケットも協賛に加わる予定だとランは話す。

クリーン・コインは、地方自治体をはじめとして、複数の民間・公的機関の資金援助を受けている。特に地方自治体は、廃棄物を効率よく管理するためのツールとして、同アプリに期待を寄せる。

「誰もが興味を持っています」とランは言う。

ーーごみの発生量を減らすーー

環境アドボカシー団体のAdam Teva V’Dinで廃棄物の専門家として活動するアミアド・ラピドットは、「世界有数のごみ大国」で始まったクリーン・コインを「すばらしい取り組みだ」と称賛する。

ラピドットによると、欧州では1人1日あたりの平均ごみ排出量が1.4キログラムであるのに対し、イスラエルでは1.7キログラムだという。

また彼は、イスラエルのプラスチックごみの総排出量は年間100万トン近くもあり、同国の廃棄物全体の約18%に相当すると指摘する。欧州では、その割合は12%にとどまっている。

イスラエルでは、ビニール袋やプラスチック製の容器包装を使ってはポイ捨てする人が多く、それによって海岸や緑地が汚されているとラピドットは嘆く。また、使い捨ての食器類への依存度も非常に高いそうだ。

ラピドットの団体では、ボトルのデポジット制度に関する既存法の拡充に向けた政府への働きかけなども行っている。クリーン・コインによって、そうした活動の効果が一層高まるかもしれないと彼は期待する。

だが、まだまだこれからだ、とラピドットは言う。

「ごみの発生自体を減らす方法も、絶対に考えなければなりません」

 

この記事は、Digital JournalよりAFPで執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。