気候変動により、「サケがトラックに乗せられて陸を移動する」という不幸な物語が生まれている。

今夏、異常な暑さと干ばつの被害を受けている米国太平洋岸北西部では、川の水温が上昇し、サケも暑さに苦しんでいる。そんな中、苦肉の策として、日照りが続く地域の魚をトラックで移送するケースが増えている――命を落とす危険性が高い川を自力で泳がせることを避け、トラックで別の孵化場へ避難させるのだ。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によると、ある科学者のグループが、35万匹のキングサーモン(マスノスケ)を、オレゴン州ウォーム・スプリングス川からワシントン州にあるリトル・ホワイト・サーモン国立魚卵孵化場までトラックで運ぶことにしたという。「魚を引越しさせるのは、最後の手段だと思っています」と科学者の一人ボブ・タリクは語っている。image (1).jpeg

天然の鮭 SuperCaliPhotoListic/Getty Images

さらに南にあるカリフォルニア州魚類野生生物局(CDFW)では、4月の時点ですでに同様の決断をしていた。孵化場で飼育されたキングサーモンの稚魚が危険な川を泳いで命を落とすことがないよう、予防的な手段を取ると発表したのだ。数百万匹のサケが、セントラルバレーからサンパブロ湾まで80~160キロほどの距離を、トラックで運ばれることになった。これまで輸送されていた数の二割増しになる。

「CDFWは、過去15年以上にわたってサケを放流してきた経験と、去年の干ばつから学んだことを活かして、放流をできる限り成功させようとしています」と中北部地域の孵化を管理するジェイソン・ジュリエンヌは言う。「サケの稚魚を下流の放流地点までトラックで運ぶ方法は、干ばつのときに、無事に海までたどり着く数を増やすのにとても有効だと証明されています」

CDFWの介入はそれだけではなかった。彼らは別の移送もうまくいったことを発表したのだ。110万匹のキングサーモンの稚魚をトラックに乗せ、シスキュー郡のアイロン・ゲート魚卵孵化場からトリニティ川孵化場まで、200キロメートル近く輸送したという。CDFWは「前代未聞の大移動」だと形容し、1962年にアイロン・ゲート魚卵孵化場が建設されて以来、「CDFWがサケをクラマス川に放流しなかったのは初めて」だと説明した。

「干ばつのときに冷水魚を育てるのは、極めて難しいのです」。CDFWで北部地域の孵化環境を担当する科学者マーク・クリフォードは言う。「実際のところ、この魚たちを川に放していたら、ほとんどが死んでしまっていたでしょう。私たちはクラマス川のフォールラン(秋に遡上するサケ)を生き延びさせねばなりません。この世代のサケを全滅させるわけにはいかないのです」

こうした話は、この地域のいたるところで耳にする。例えば『サクラメント・ビー(Sacramento Bee)』紙によると、米国海洋漁業局は先ごろ、今年のサクラメント川における若いキングサーモンの致死率が、100%にまで達する可能性があると警告したそうだ。

しかも、影響を受ける種はキングサーモンだけではない。『ニューヨーク・タイムズ』紙は、アイダホ州魚類鳥獣保護局も、今年、ロウワー・グラニットのダムから数カ所の孵化場にベニザケをトラック輸送したと報道した。

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言うまでもなく、米国のサケ産業にはかなり人間の手が加えられている。孵化場は人工的に作られたものだ。人間が建設した(ときには移設したり、移設を計画したりしている)ダムは、川の水に影響を与える。水不足のときは難しいものの、ダムの水を放出すれば川の水温を低く保つことができる。頻度こそ前より増えているようだが、魚の移送も今に始まったことではない。

しかし、世界的な気候変動の影響があまりに深刻なため、こうした地道な努力が損なわれてしまうかもしれない、と心配する声が大きくなっているようだ。「私たちがこのような危機的状況に追い込まれているのは、加速度的に増えている異常気象のせいです」。カリフォルニア州魚類野生生物局で広報、教育、支援部門の副ディレクターを務めるジョーダン・トラヴァーソは、情報サイト「Eater」にそう語った。世界中のトラックをもってしても、サケを救えるわけではないのだ。

この記事は、Food & Wineよりマイク・ポムランツが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。