米国エネルギー省のアルゴンヌ国立研究所の科学者らが行った研究から、技術の革新と新しい農業手法により、穀物生産に由来する温室効果ガスの排出量を今後15年間で最大70%削減できることが明らかになった。

米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された論文には、温室効果ガスの排出量を大幅に削減できる新技術の組み合わせが示されている。いずれも容易に導入できる技術で、現在の生産システムや確立された穀物市場との相性も悪くない。

「環境保全型農業を補う排出削減の新技術:条植え作物の生産でのネガティブ・エミッションの実現へ(仮訳)」と題するこの論文によると、デジタル農業(ITを活用した農業)と、作物や微生物の遺伝学、それに電化を通して、温室効果ガスの排出量を削減できるという。これらの新技術が導入されれば、農業のレジリエンス(強じん性)を支え、収益力と生産性を維持しながら、農業の脱炭素化を進めることができると期待されている。

※条植え作物 トウモロコシや綿などのように、苗を列状に植える作物

研究グループは技術を、最適化、置き換え、再設計の三つのフェーズに分類した。そしてアルゴンヌ国立研究所の「技術における温室効果ガス・規制対象排出物・エネルギーの使用(GREET)」モデルを用い、穀物生産に由来する温室効果ガスの排出量の総合的な削減に向けた新技術の導入について、シミュレーションを行った。アルゴンヌ国立研究所が開発したGREETモデルは他に類のないライフサイクル分析ツールで、今では世界中の政府や企業、研究機関が利用している。

今回の研究結果は、農業の脱炭素化に向けて新しいアプローチを開発するヒントを提供する。同時に、新技術への投資から利益が得られると予想される時期に基づいて、公共投資や民間投資を始めるべきタイミングを提案する。

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「私たちの研究で強調しているのは、農業を通して気候変動の危機に取り組むためには2本柱のアプローチが重要だということです。2本柱とは、農業による排出量を減らすことと、土壌に蓄えられる炭素をできるだけ増やすことです。後者の活動はどんどん勢いを増しています。このアプローチを、種子の遺伝学をはじめとする排出削減技術の開発と幅広い導入によって補うことが、生産全体の排出量を実質マイナスにするためにきわめて重要なのです」。そう語るのは、この論文の主著者であるダン・ノースラップだ。彼は米ミズーリ州セントルイスに拠点を置くベンソン・ヒル社の特別事業の責任者でもある。同社は、植物がもともと持っている遺伝的多様性を生かして、より健康でサステナブルな食の選択を実現しようとする企業だ。

本研究の中心的な研究者の一人であるマイケル・ワンは、アルゴンヌ国立研究所のエネルギーシステム部門のシニアサイエンティストで、同研究所のシステム評価センターのセンター長も務める人物だ。彼はこう付け加える。「私たちが行ったのは、農業の脱炭素化に関する包括的な評価です。米国の農業が気候問題の解決策になるように、技術面と重要ポイントに焦点を当てたものなのです」

研究報告:

「環境保全型農業を補う排出削減の新技術:条植え作物の生産でのネガティブ・エミッションの実現へ(仮訳)」

“Novel technologies for emission reduction complement conservation agriculture to achieve negative emissions from row crop production”

 

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