地球上の97.5%を占める海洋や塩水。その一部を淡水に変えることができたとしても、私たちは永遠に世界の水需要を満たすことができないのだろうか?人口増加、一人当たりの水消費量の増加、経済の拡大、気候変動、汚染―数々の要因によって、世界の水不足は深刻化している。水供給量を増加させる施策のうち、主に国内や都市の需要に応える実行可能な選択肢の一つとして、海水や汽水の淡水化が注目を集めている。ところがこれには問題があるという。淡水化は、「ブライン」という通常塩分濃度が極めて高い濃縮物を発生させ、その廃棄には費用がかかるとともに環境に悪影響を与えるというのだ。

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淡水化とは、様々な用途に適した品質要件を満たす水を作り出すために、水から塩分を取り除くプロセス。国連も後援する最近の調査で、淡水化は増加の一途をたどっていることがわかった。技術の進歩による淡水化コストの低下や、従来の水資源をめぐる費用や安定供給に関する懸念が、各国の淡水化を後押ししている。一方、今回の国連の調査は、淡水化による環境への悪影響や、経済的コストを軽減するには、この副産物である「ブライン」の管理方法を改善しなければならないと指摘している。

これらの進捗は、淡水化設備の開発をさらに推し進め、次世代の水供給を確保することにつながるという面では良いことだと思われる。

水の現状

国連の2030アジェンダでは、2015から2030年までの持続可能な世界を実現するための17のゴール(SDGs)と169のターゲットが掲げられた。これらは、統合された不可分なものとして、持続可能な開発を社会、経済、環境の各側面でのバランスを取りながら実現するよう考えられた。淡水の不足は、次世代に安全な水を、というSDGsの目標6の課題そのものと言える。

世界経済フォーラムは、直近のリスク年次報告書で潜在的な最大のグローバルリスクは水危機であるとしている。世界人口の40%が深刻な水不足に直面しており、その数は2025年までに60%まで増加すると推定される。事実、すでに世界人口の66%にあたる40億人が、一年のうち少なくとも一ヶ月は、深刻な水不足に見舞われている。水不足に悩まされる国やコミュニティでは、水資源管理計画を抜本的に見直す必要に迫られている。見直しにあたり、水の使用方法、生活様式、生態系、気候変動への適応、そして持続可能な開発を考慮した上で、実現可能で慣例にとらわれない水資源というものを、創造力を働かせて探求していかなければならないのだ。


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2010年のモンスーンによる洪水で重大な被害を受けたパキスタン北西部のカイバル・パクトゥンクワ州にあるチャルサッダ地区で安全な水を子どもに与える母親
提供:UNフォト/UNICEF/ZAK

淡水化の最初の取り組み

初期の淡水化プラントの大部分は、熱技術を利用したもので、石油が豊富で水が不足する地域、とりわけ中東に集中していた。例えば、1980年代以前は、世界の全脱塩水のうち84%が当時主流だった2種類の熱技術によって生成されていた。1980年を過ぎると、熱技術から逆浸透法(RO)をはじめとする膜濾過技術へと流れが変わっていった。

2000年には、熱技術で生成された脱塩水がおよそ1160万m3/日、ROからはおよそ11.4m3/日が生成されるようになり、この2つで全体の93%を占める状況となった。2000年以降、ROプラントはその数と処理能力のどちらも飛躍的に増加したが、熱技術の方は微増にとどまっている。現在ROプラントで生成される脱塩水は6550万m3/日に達し、全脱塩水量の69%を占めるまでになった。

淡水化プラントの半数近くが事業用水向けに造水しているのに対し、処理能力で見ると、脱塩水を最も多く使用しているのは都市生活用水となっている。

  • 都市生活用水:62.3%
  • 事業用水:30.2%


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水不足の進行とともに進む淡水化

海水の淡水化は、水循環で得られる水量を超えて給水量を拡大し、良質な水を無制限かつ気候の影響を受けずに安定して供給することを可能にする。

世界全体の淡水化処理施設の半分近くが中東・北アフリカ地域に集中しており(48%)、サウジアラビア(15.5%)、アラブ首長国連邦(UAE)(10.1%)、クウェート(3.7%)がこの地域でも世界でも主要な生産国となっている。東アジア・太平洋地域では世界の脱塩水の18.4%が、北米地域では11.9%が生成されているが、これらは主に中国(7.5%)と米国(11.2%)にそれぞれ大きな処理能力を持つ施設があることに起因する。世界全体では、およそ9537万m3/日(348.1億m3/年)の処理能力を持つ15,906の淡水化プラントが稼働しており、これまでに建設された淡水化プラントの総数の81%、総処理能力の93%に相当している。


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淡水化の問題とは?

脱塩による淡水が秘める極めて大きな可能性は、主に相対的に高い経済コストや、副産物であるブラインなどの様々な環境上の懸念に関係する特有の障壁が妨げとなり、実現はいまだに難しいという現状がある。淡水化プロセスで発生する排水の安全な処理が技術的にも経済的にも大きな課題となっている。前述の国連の報告書によると、ブラインの発生量はおよそ1億4200万m3/日にもなると推定される。

世界のブライン発生量の多くは中東・北アフリカ地域に集中しており、世界全体の発生量の70.3%を占める1億m3ものブラインが日々発生している。国で見ると、サウジアラビア、UAE、クウェート、カタールの4カ国が精製している淡水量は全世界で作られる脱塩水の32%でしかないにも関わらず、世界全体の55%に相当するブラインの発生源となっている生み出される淡水に比べ、その副産物の方が約2倍も生成されているということだ。いかにこの地域の淡水化プラントの平均水回収率が低いかということがわかる。

一方、それ以外の地域はブラインの発生はかなり少なく、次に発生量が多い場合でも、東アジア・太平洋地域(10.5%)、西欧地域(5.9%)、北米地域(3.9%)となっている。興味深いのは、こうした地域では生成される脱塩水の量に対し、非常に少ない量のブラインしか発生していない点で、水回収率が概して高いことを示している。北米地域では、造水量を大幅に下回る量のブラインしか発生しておらず、その他の地域でもブライン発生量は造水量とほぼ同レベルとなっている。造水量と同じく、世界全体のブラインの圧倒的大部分が高所得国で発生している実態がある(77.9%)。

例えば、サウジアラビア一国で3153万m3/日のブラインが発生し、世界全体の発生量の22.2%を占めている。続いてブラインの発生量が多いUAE、クウェート、カタールもやはり石油が豊富な国で、それぞれ世界全体の発生量の20.2%、6.6%、5.8%を占める。この4カ国を合わせると、世界の造水量の32%、世界のブライン発生量の55%となる。これに対し、米国では1091万m3/日の脱塩水を生成している一方(世界全体の11.4%)、ブラインの発生量はわずか528万m3/日にとどまる(世界全体の3.7%)。なお、高中所得国、低中所得国、低所得国では、それぞれの淡水化処理能力とほぼ同量のブラインが発生する傾向となっている。


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淡水化プロセスでは、取り込んだ水を淡水と濃縮排水の2つのフローに分ける。濃縮水の塩分濃度は原料となる取水の塩分濃度によって異なり、水回収効率は淡水化技術の種類と原料の取水の質の両方に左右される。

当面の目標はブラインの管理

今回の調査は、カナダにある国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)、オランダのワーヘニンゲン大学、韓国の光州科学技術院の研究者によってまとめられた。彼らは、最も完成度が高い最新のデータを分析して、淡水化プラントに関する世界の古い統計データを修正した。その結果、急速に拡大する課題に対処するには、ブラインの管理方法の改善が不可欠であることが分かった。

研究者達は、淡水化プラントの数とブラインの発生量は世界全体で劇的に増加するだろうと予測している。さらに調査結果は、ブラインの発生量が生成される脱塩水の量をはるかに上回っていることや、広く認知されているブライン発生量は著しく過小評価されたものである点も示唆している。

あらゆる証拠から、淡水化プラントの水回収率には、地域ごとに特有の条件が影響していることが分かってきた。例えば、原料となる取水のカテゴリー(海水など)によっても、その塩分濃度に差があることで回収率に影響があることは通常考慮されていない。その他にも、プラントの構造(淡水化プロセスで使用する膜の種類など)、つくられる淡水の品質要件(塩分濃度など)、エネルギー源、ブラインの廃棄方法などが要因として挙げられる。また、ブラインの廃棄方法として、従来は、海洋や表層水、下水への直接廃棄、地中深くに穴を掘って埋蔵する、ブラインを蒸発させるための池を造設するなど様々な方法が取られてきた。

海に近い淡水化プラント(ブラインの80%近くは海岸線から10kmの範囲内で発生)では、ほとんどの場合、未処理のブラインをそのまま海へ廃棄している。今回の研究者達は、この廃棄物の中に含まれるスケール防止剤や防汚剤などの有害な化学物質が海を汚染し、海洋生物や海の生態系に悪影響を与える重大なリスクを指摘している。その中でも懸念されるのは銅と塩素である。

さらにブラインは、塩分を多く含むため受水域の塩分に比べて濃度が高くなり、その結果、受水域の溶存酸素(OD)を消費する「ブライン底流」が形成されるという可能性が指摘されている。「ブライン底流が、受水域の溶存酸素を枯渇させる」と、今回の調査のリーダーで、UNU-INWEHからオランダのワーヘニンゲン大学に移ったエドワード・ジョーンズ氏は警告している。「塩分濃度が上がって溶存酸素量が下がれば、底生生物に甚大な影響を及ぼし、結果的には食物連鎖全体にまで影響するという事態も起こり得る」

これらの要因から、経済的に採算がとれると同時に環境に優しい新たなブライン処理方法の開発は必要不可欠となっている。

一方で、今回の調査ではブライン問題の解決を通じた経済的なチャンスも示唆している。例えば、耐塩性のある種の生育など水産養殖や発電への活用、マグネシウム、石こう、塩化ナトリウム、カルシウム、カリウム、塩素、臭素、リチウムといったブラインに含まれる塩分や金属の回収が期待される。

実際に、更なる技術開発により、淡水化プラントの廃水排水に含まれる大量の金属と塩分を回収できる可能性がある。具体的には、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、臭素、ホウ素、ストロンチウム、リチウム、ルビジウム、ウランなどで、すべて産業利用価値があるものばかりだ。しかしながら、現時点ではコスト的に見合うレベルでこういった資源を回収するような技術力には程遠い。

ブラインの処理と廃水からの資源再回収に必要な高い経済コストとエネルギー消費量がいまだに大きな障壁となって淡水化プラント普及を妨げている。「今回のような研究を活かして、環境問題を経済的機会に変換していかなければならない」今回の調査チームの一員であり、UNU-INWEHのアシスタントディレクターであるマンズール・カディル博士は話している。「とりわけサウジアラビアやUAE、クウェート、カタールのように、淡水化効率が悪く、ブラインの発生量が多い国でこそ重要だ」

カディル博士との一問一答:

Q:コミュニティの水資源拡大のために地方自治体で淡水化の導入が検討されている場合、一般の人々は淡水化やその副産物について何を学ぶことができますか?

脱塩水は、これまでにはなかった重要な水資源で、様々なセクターで利用できるきれいな水です。淡水化に関心を持つ人々やコミュニティにとって重要なのは、この技術が脱塩水だけでなく、高塩分濃度のブラインも発生させるという点です。そしてこのブラインには、適切な処理と管理が必要なのです。というのも、脱塩水を作ることで、それ以上にブラインを発生させてしまっているという実態があるからです。

Q:淡水化が世界全体に明らかに普及しつつある今、副産物であるブラインを減らすための最も実現可能な方法は?

2方向からのアプローチが考えられます。(a)ブラインの発生量を減らす(例えば淡水化プロセスの効率を上げる)(b)発生したブラインを経済的に実現可能かつ環境に優しい方法で処理/再利用する。しかし、どちらも大変な努力とイノベーション、研究が必要です。水産養殖や塩性作物の生育などにブラインを活用するといった様々な面白い試みがありますが、これらはまだ一般に普及できるレベルになっていません。ブラインから金属と塩分を回収するという方法もありますが、経済コストとエネルギー消費が高い点が大きな障壁となって普及拡大を妨げています。

水のリサイクルや安全な再利用、水質、環境医学、水や食の安全保障、気候変動下での持続可能な自然資源の管理について、政策や制度、生物物理学の側面から取り組んでいる環境学者であるマンズール・カディル氏は、名だたる専門家からなるチームを率いて、農業における水管理の包括的評価などに国際的見地からもまた各地域での個別的な取り組みにも貢献している。

画像:Pixabay

出典:CleanTechnica

著者について


キャロライン・フォルトナ博士。生涯にわたって生態学的正義に取り組むライターであり、研究者、教育者。Anti-Defamation League、International Literacy Association、Leavy Foundationの受賞歴を持つ。デジタルメディアリテラシーに関する知識を身につけて、サステナビリティについて広く伝える方法を学んでいる。TwitterFacebookGoogle+のフォローをお待ちしています。

 

この記事は、CleanTechnicaでキャロライン・フォルトナが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。