旅客や貨物を運ぶ航空業界は、世界全体のCO2 排出量の約3%を占めている。だが一方で、この業界はサステナブルなジェット燃料による環境負荷の低いソリューションに熱い視線を注いでいる。そうした燃料のもとをたどれば、あなたの家庭で出た生ごみに由来しているかもしれない。

 

今年3月、米国科学アカデミーの機関誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」に、コロラド州ゴールデンの国立再生可能エネルギー研究所NREL)をはじめとする学術機関の研究者らによる論文が掲載された。この論文は、店や家庭で出た食品廃棄物を原料として、既存のエンジンに使えるサステナブルなジェット燃料を作り出す手法を詳しく述べたものだった。

動物の排せつ物や食品廃棄物などのバイオマスは、有機物由来の再生可能エネルギーである液状のバイオ燃料に変えることができる。再生可能バイオ燃料といえばエタノールやバイオディーゼルがよく知られているが、航空機用のサステナブルな燃料を作るプロセスは、それらよりも複雑だ。現在使われている石油ベースのジェット燃料によく似たものでなければ、既存のエンジンや航空機に「投入」できないのだ。異なるタイプの燃料で動く航空エンジンをゼロから考え直すのには時間がかかる。そういうわけで、今すぐに使える燃料を開発することが目標とされている。

同論文の研究者らは、古くなった食品廃棄物の発酵により生成される揮発性脂肪酸を活用した。これを、従来の化石燃料とさほど化学的に変わらず、燃料に使えるパラフィンの単一物質に変換した。サステナブルなジェット燃料の原料としては、野菜や動物に由来する油脂などのバイオマスが用いられてきたが、増え続ける大量の食品廃棄物活用できれば可能性はさらに広がる。

NRELのシニアリサーチエンジニアであり、同論文の著者でもあるデレク・バードンと、同研究所の博士研究員で筆頭著者を務めたナビラ・ハクによると、航空業界で現在求められている比率である、 従来の石油ベースのジェット燃料90%に対し代替ジェット燃料10%を混ぜた場合、燃料が機能したという。代替ジェット燃料の比率は30%まで引き上げられる見込みもあるとのことだが、現実の世界で7:3の混合比率を実現するには、まだまだ時間と実験が必要になる。

バッテリー駆動の商用航空機など、サステナブルなソリューションはほかにも考えられるが、現在のバッテリー技術ではまだ実現可能なレベルには至っていない。だからこそ、サステナブルなジェット燃料が大手各社の注目を集めているとバードンは指摘する。バッテリーを積んだ航空機は、長く飛行するには重すぎる。そのため、既存の燃料と同じように機能する燃料の方が、CO2 排出量の多い化石燃料の代わりとして扱いやすいのだ。

「マイクロソフトやアマゾン、フェデックスなど、ここ1年でサステナブルなジェット燃料の活用に前向きな企業が爆発的に増えました」とバードンは語る。

燃料を作るために使われる水分を含んだ廃棄物は、通常は埋め立てられることが多く、分解して温室効果ガスを排出する。したがって、サステナブルなジェット燃料の生産や活用が拡大していけば、そのプロセスを通じてカーボンフットプリントを減らすことも夢ではないのだとバードンは言う。

カーボンフットプリントを減らすこと、サステナブルなジェット燃料の要件を満たすことは、本当は並大抵のことではないのです」とバードン。安全や性能に関する規制が厳しいため、ダーツボードの中心に命中させるようなものだと、その難しさを語った。

 

こうしたサステナブルな燃料は、航空業界をネットゼロ排出の軌道に乗せるばかりでなく、燃焼時に生じるすす状の粒子の量も抑えられる。すす粒子は、飛行機の排気ガスから飛行機雲ができる際の核となる。この飛行機雲は「ブランケット」の役割を果たし、大気中に熱を閉じ込めてしまう。

この製品を近いうちに市場に展開するために、「あまり突飛なことはせず、改良の範囲内で、既存の従来型ジェット燃料の仕様を満たす」ことを目指したとハクは言う。

多くのCO2 を排出する航空機での移動に対し、商用航空業界はサステナブルで手頃なソリューションを見出そうと動き始めている。実質的なCO2 排出量の50%削減など、航空各社は2050年までに高いサステナビリティ目標を達成しようと積極的だ。米サウスウエスト航空の燃料サプライチェーンマネジメント担当シニアディレクターを務めるマイケル・オブションは、次のように述べた。「サステナブルなジェット燃料の活用をビジネスにおいて実現し、サウスウエストの未来に組み込もうと引き続き取り組んでいこうとする中で、NRELと提携を結べることを大変嬉しく思います」

こうした研究が進む中で大きな疑問として浮かんでくる。再生可能な燃料を100%使って航空機を飛ばすことは、果たして可能なのだろうか。ロールス・ロイスは最近、同社製のエンジンを用いて、サステナブルなジェット燃料を100%使った実証実験を行った。結果は、成功だった。バードンは、「この燃料は、非現実的なものでありません。問題は解決できるのです」と話した。

 

この記事は『Popular Science』に掲載されたものです。

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この記事は、Popular Scienceのシェイナ・モンタナリが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。