イラクのクルド人自治区で暮らすデルバンド・ラワンドゥジさん(26歳)は、生まれ故郷でオークの木(樫の木)を植える活動を続けている。この地域は、戦争による爆撃で多くの森が破壊された。彼女は、木を植えることで気候変動の脅威に立ち向かい、森を復活させ、自然を大切にする意識を高めようと奮闘しているのだ。

Source:Digital Journal

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イラク・クルド人のデルバンド・ラワンドゥジは、今後5年で100万本のオークを植え、クルド人自治区の森を再生したいと考えている

サフィン・ハメッド(AFP)

デルバンド・ラワンドゥジさん(26歳)がオークの苗木に優しく話しかける。その声には「早く大きくなって、戦争や違法伐採、山火事で失われたイラク・クルド人自治区の森をよみがえらせてくれますように」との願いが込められている。

ラワンドゥジは、今後5年をかけて100万本のオークを植えようとしている。オークは、イラク北部の寒さと、乾期になると訪れる世界屈指の暑さのどちらにも耐えられる強い木だ。

彼女の計画は、生まれ故郷のクルド人自治区に根を下ろしはじめている。

昨年末に試験的に行ったプロジェクトでは、2千本のオークを植えたという。「今年の秋には8万本植える予定です」と話すラワンドゥジの楽しみは、ハイキングとロッククライミングだ。

彼女は、観光客や羊飼いの力も借りながら、山からオークの種を集め、クルド人自治区の首都アルビルにある私立大学から寄付された2棟の温室でその種を育てている。

小さな苗木が若木に成長したら、クルド自治政府の農業省が指定した山岳地帯に移し植える。

植樹したオークの木を確実に育てるため、ラワンドゥジは何人かの出資者の賛同を得て、木1本当たり約70円の寄付を募っている。

「これは、ただ木を植えるだけのプロジェクトではありません」と彼女は言う。

「気候変動の脅威に立ち向かい、生態系を豊かにし、健全な環境に貢献する意識を促す風土づくりのためでもあるのです」

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アルビルにある温室で栽培されるオークの苗木は、やがてクルド自治政府の農業省が指定した山岳地帯に移し植えられる

サフィン・ハメッド(AFP)

この地を襲う脅威は深刻だ。クルド自治政府当局の推定では、過去20年で、自治区にある自然林と人工林のうち9000平方キロメートル近くが破壊されたという。

その面積は、この地域にある森林の半分近くにおよぶ。しかも、大半はここ5年で起きたものだ。

原因は爆撃

森林破壊の原因は、過放牧、薪に使う木の伐採、行き当たりばったりの都市計画、砲撃とさまざまだ。

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過去20年で、クルド人自治区にある自然林と人工林のうち9000平方キロメートル近くが破壊された

サフィン・ハメッド(AFP)

2003年に米国率いる連合軍が攻め入るとイラク全土で多くの死者が出たが、北部のクルド人自治区は大きな被害を受けずに済んだ。ところが、クルド人部隊を狙ってトルコがたびたび仕掛けてきた越境攻撃ではこの地が標的となった。

オランダの市民社会団体PAXインターナショナルが衛星画像を調べたところ、2020年の5月から9月までの間に、イラク北部で200平方キロメートルほどの土地が焼き尽された。そして、その原因としてトルコによる軍事作戦が「直接関係している可能性がある」ことが分かった。

同団体によると、「焼け野原のおよそ半分(約95平方キロメートル)は、生物多様性が豊かな特別保護区」だという。

それ以外にも、同じ期間に1010平方キロメートルほどのクルド人自治区の土地が焼けたとPAXは報告している。原因は特定していない。

「砲撃や爆撃で森林火災が起き、何千人もが立ち退きを強いられた結果、人々の暮らしが壊され、繊細な生態系が傷つけられた」と同団体は報告する。

国連食糧農業機関(FAO)によると、イラクの国土43.7万平方キロメートルに森林が占める割合は、わずか2%だという。

このわずかに残る森林の大半はクルド人自治区にあり、ラワンドゥジは、自身のプロジェクトを通じてこの地で変化を起こしたいと考えている。

若木にはすでに出資者がついている。欧州に移り住んだクルド人、クルド人自治区に住むシリア難民、アルビルで勤務する駐在員、学校や病院で働く地元の職員と顔ぶれはさまざまだ。

チェコ出身でアルビルに住むインティラ・ティプシッタウィワット(50歳)は、500本に出資している。

「将来性があって、効果が期待できる取り組みですし、大してお金もかかりません。クルド人自治区の自然のために、わずかでも私なりの関わり方で貢献したいのです」とティプシッタウィワットは語る。

本当の問題解決はこれから

環境活動家にとって植樹は極めて重要だ。ただし、地球温暖化を食い止めるという大きな目的を見据えて取り組まなければならない。

イラクは最近になって、2015年に採択された「パリ協定」に批准した。パリ協定は壊滅的な温暖化を回避する道筋を立てることを目指す枠組みで、イラクは炭素排出量の削減計画の作成に取りかかったところだ。

2015年までクルド人自治区の環境部門の長を務めていたアーメド・モハマドは、目標達成にはさまざまな方法があると話す。

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ラワンドゥジは、自身のプロジェクトを通じてクルド人自治区に変化を起こしたいと考えている

モハマドが最優先事項として挙げるのは、公共交通機関の整備、使い捨てプラスチックの使用廃止、気候問題の啓発だ。

「ここに住む人たちは野外で過ごすのが好きで、週末にはピクニックに出かけたり、森の中に家を建てたりもします。でも、多くの人はいまだに自然の大切さや気候崩壊について分かっていません」とモハマドは言う。

彼は、官庁でのペットボトルの使用禁止を地方当局に嘆願しているところだ。

環境活動家のホーカー・アリ(35歳)は、この地域で問題を解決するには、長く険しい道のりを覚悟する必要があると話す。

「新型コロナウイルスと違って、科学者が治療法を見つけてくれるわけではありません」と語るアリ。彼は、アルビルにある温室でオークの苗木の手入れをするラワンドゥジを手伝っている。

「気候変動に関しては、その脅威と影響を和らげるために、ありとあらゆる人々の力が必要なのです」

 

この記事は、Digital Journalで執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。