欧州では既にかなりの比率を占めるようになっている風力発電。今後、日本でも有力な発電方法になると考えられる。国土が山がちで陸上に発電所を建てられる場所が限られている日本では今、洋上風力発電が注目されている。洋上風力発電のポテンシャルは…。海洋再生可能エネルギーの研究・調査などを行なう海洋産業研究会の塩原 泰 氏に聞いた。

加速する洋上風力への取り組み

1970年の設立から50年の歴史を持つ海洋産業研究会。府省・業種・分野横断型のシンクタンク機能を備えた海洋産業団体として活動してきた。現在、造船、鉄鋼、海洋、調査会社などをメインに約100社の会員で構成されており、収入の半分は会費、半分は調査研究事業となっている。

一方、会費を集めて自主調査研究も行なっている。研究部長の塩原氏は「“洋上風力発電との漁業協調”を掲げて、2013年頃から“洋上発電は漁業と協調してやるべき”というのを、世の中に発信してきました」と話す。

洋上風力発電については、2019年4月に『海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)』が施行されたことで、取り組みが加速している。

洋上風力発電事業に取り組むにあたっては、海域の占用に関するルールの問題や漁業関係者、船舶運航事業者など、海域を先行的に利用している人々との利害調整が大きな壁となってきた。

「海域の占用許可は基本的には地方自治体が出しますが、占用期間や占用料はバラバラで、期間については3年、5年での更新が必要となります。洋上風力発電事業は20~30年かかりますので、占用許可を5年おきに申請するとなると、融資する側から見れば“5年で更新できなかったらどうなるのか”というリスクとなります。大きなお金が必要な事業であるのに、融資が集まらない状況でした。それが、『再エネ海域利用法』が施行され、促進区域に指定されると30年占用できるようになり、事業の見通しが立つようになってきたのです」(塩原氏)。

洋上風力の環境への影響は?

風力発電が抱える問題の1つが騒音。人に与える影響である。もう1つ、ビジュアルインパクトと言って、視覚的な要素も問題となる。風車を見て“格好いい”と思う人もいれば、“大きくて怖い”と思う人もいる。怖いと思う人は“できれば見えない所に建ててほしい”となる。その点、洋上は人の住んでいる所から離れているため、騒音やビジュアルインパクトの問題は、陸上に比べれば少ないと言える。

一方で魚や海の生態に与える影響については、きちんと考えていく必要がある。日本ではまだ洋上風力発電の事例が少ないが、海外レポートを見てみると、スウェーデンでは建設後3年経ったモノパイル基礎周辺の生物相を観察。結果、基礎周辺の生物は対象区域より多く、“基礎部が人工魚礁の役割を果たしている”と報告。デンマークにおける洋上風車周辺での漁獲調査では、魚種数はほとんど変わらず、“風車立地が魚類の種数に影響を与えることはない”としている。

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デンマークが行った洋上風力発電が漁獲に与える影響のレポート

「最初のウインドファームができてから20年ほど経ちますが、深刻な環境問題になっている事例は、今のところありません。心配なのは稼働音より、建設時の杭を打つ時の音。これが漁業に影響を与える。例えば、鮭が川を上る時期や魚の産卵期には工事を控えるといった配慮は必要になってくるかと思います」(塩原氏)。

2013年から『洋上風力発電等の漁業協調の在り方に関する提言研究』を行なってきた海洋産業研究会。その成果として、漁業協調メニューを発表。漁業協調の在り方として、リアルタイムの海況情報の提供、風車基礎の人工魚礁利用、養殖施設の併用、漁業現場への電力供給などを挙げている。

例えば、北海道瀬棚港の洋上風車では風車間の空間を活用して種糸をはり、コンブの養殖を行なっている。そのコンブを漁業者が畜養するウニの餌として使用した。

また、福島県沖の浮体式洋上ウインドファームでは、海洋観測データ配信システムを設置。漁業との共存に向けた取り組みの1つとして、水温、塩分濃度などの海洋データの配信が行なわれた。

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水中音と聴覚に関する洋上風車のシロサケへの影響調査

洋上風力と地域振興

高度経済成長期には、漁業権を買い取って東京湾の埋立てをした。しかし、塩原氏は「漁業補償というお金で解決するのは良くない。あくまでも“共存共栄”が我々の考え方です」と話す。

もともと、洋上風力発電事業は、石油コンビナートのような大きな収益は生み出さないため、ウインドファーム内の漁業権を買うほどのお金はない。協調策を打ち出して場所を使わせてもらうのが大前提となる。

「近年は、協力金のようなカタチで、洋上風力発電による売電収入の1%前後を地域の漁業に活かす、基金を作る方法が主流になりつつあります」(塩原氏)

また、洋上風力発電は、地域の分散電源となり地域に産業を生み出す。例えば、風車を定期的に診断し補修するメンテナンスのための施設は必要で、地域にメンテナンスの拠点ができれば、そこに雇用も発生する。

「洋上風力は、漁業造成や漁業基金というカタチで地域に循環を作り出します。エネルギー自給も含め、地域社会を継続的にしていくという面で、地域振興に繋がっていく事業だと考えています」(塩原氏)。

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北海道瀬棚港の漁業協調事例