気候変動は、生態系の全体に深く影響する。だが平均気温の上昇は、生態系への影響を引き起こす数多くの要因の一つに過ぎない。9月末に学術雑誌「Global Change Biology」に掲載された新たな研究論文により、地球上の大半の土地で昼よりも夜の方が急速に気温上昇が進んでいることが明らかにされた。こうした変化による影響は、生物の食う・食われるの関係から植物の成長まで、あらゆる物事に及ぶ可能性がある。

「気候変動によって、すでに大きな混乱が出ています」と、同論文の筆頭著者であるエクセター大学の生態学者ダニエル・コックスは話す。「それに加えて、気温の上がり方が昼と夜とで違うので、(生物にとって)複雑な要素がさらに増えています」

過去の分析でも、大気中の温室効果ガス増加による影響が昼と夜で違うことは明らかにされていた。だが、地球上のすべての土地を対象に昼夜の気温上昇レベルの差を調べたのは、この研究が初めてだとコックスは言う。

こうした影響を踏まえて、生態学者が自然界への影響を十分に調査した例がある。気温が上がりはじめる時間帯の変化が、生態系のバランスを崩す可能性があることが、2017年に行われたバッタとクモの実験により分かった。日中の気温が上がると、クモは早い時間に光のあたらない場所に逃げることが確認された。すると、バッタはクモに脅かされることなく草を食べられる。そしてそれは、植物の成長にも影響を及ぼしうる。逆に夜の気温が上がると、クモはより活発にバッタを襲うようになった。このために、バッタの個体数が減ることもあり得るだろう。こうした影響は波紋のように生態系全体に広がり、植物群落や野生生物、農業にも及ぶ恐れがある。

生物の日中の活動に焦点を当てた研究は多く存在するが、夜間の生態についてはあまり研究が進んでいない。そのため、コックスは、地球全体における気温上昇レベルの昼夜差を調べることに関心を持った。その違いが明らかになれば、気候変動下で夜間の活動がどう変わっているのかを知るための足がかりになる。

調査にあたり、コックス率いる研究チームは、気温、雲の量、湿度、降水量に関する35年分のデータをマッピングした。世界地図上で土地を小さな単位に区切り、各区域で日中の最高気温と夜間の最低気温がどのように変わってきたかを分析したのだ。

その結果、世界全体で夜間の方が日中よりも気温が上昇していた。昼よりも夜の気温上昇が大きかった区域は、2倍近くも多かったのだ。この変化は、雲の量の変化とも密接に関連しているようだ。雲が多いときは、夜の気温も高かった。「(夜の気温上昇の)主な原因は、雲の量なのではないかと考えています」とコックスは言う。

湿度の高い地域では、気温が上がるとより多くの水が蒸発し、その結果雲が増える。雲は、昼は日光を遮り気温を下げる働きをするが、夜になると地表近くの熱を閉じ込める。全体的に、湿度の高い地域では徐々に雲の量が増え、それにより夜の気温が上がっていた。一方、そこまで広い範囲ではないが、乾燥地域では日中の気温上昇の方が大きく、さらに乾燥が進んでいた。

同研究の中でコックスは、葉面積指数についても調べた。葉面積指数とは植物の葉の茂り具合を示す指数で、その場所の植物全体の生産性を推定するのに用いられる。全体的な傾向として、昼でも夜でも極端に気温が上がると、葉面積は減少することが分かった。また、夜の気温が上がると、夜間の植物の呼吸(日中の光合成によるエネルギーを使用し成長する)が増える。だが、雲が多い日は光合成に欠かせない日光が足りず、このエネルギーを得るのが難しくなっていた。「素晴らしい論文だと思います。タイミングもいいし、重要性も高いです」 ミシシッピ州立大学の生態学者ブランドン・バートンは、研究に参加していない第三者の立場から同論文をそう評価する。「(気候変動に関わる)複数の要素を考慮した優れた論文は、ほんの一握りしかありません」とバートン。気候変動では、単に一様に気温が上がっているわけではない。季節や時間によって、気温の変化の仕方は違う。風や雨、雪のパターンも一定ではない。

コックス自身は今回の研究をもとに、気候変動下の夜間において動物たちがどう対処しているかを引き続き調べていく予定だ。「人の影響で世界が変わってきているのは知られています。でも夜の変化については、よく分かっていないのです」とコックス。「数ある研究の中で、夜に関する部分がごっそり抜け落ちているのです」

 

この記事は『Popular Science』に掲載されたものです。

この記事は、Popular Scienceのウラ・クロバクが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。