アマゾンの熱帯雨林の未来が危ぶまれている。先住民族の権利をないがしろにし、森林の伐採を認める政府の政策によって木々がまばらになり、さらに気候変動によって未曽有の干ばつが起こるようになった。生物学や環境学の専門家らは、以前からこうした事態に目を向けていた。アマゾンの森林システムは、この地におけるあらゆる重要な気象パターンを維持し、健全な熱帯雨林に欠かせない動植物の活動を守る役割を果たしてきた。だが、そのシステム全体が機能しなくなるほど森林が失われる「ティッピングポイント(転換点)」が近付いているのではないかと、科学者らは恐れている。アマゾンはいずれ砂漠化してしまうのでは、と予測する者もいる。そんな中、新たに発表されたある研究で、若木が希望の光となる可能性が示された。森林では、単一の樹種から成る林冠と呼ばれる層が降りそそぐ日光の大部分を受けているが、現在この層を形成する高木がもし失われても、それと同じ種類の若木は新たな環境に適応できる可能性がある。そうすれば、森林の姿が大きく変わることはあっても、枯れ果てることはない。
「研究の結果、若木はとても適応力が高いことが示されました」 同研究論文を執筆したエクセター大学グローバルシステム研究所の博士候補生、デイビッド・バーソロミューはそう話す。
バーソロミューをはじめとする論文著者によるこの研究結果は、8月初旬、学術雑誌「Plant, Cell, and Environment」に掲載された。同研究によれば、アマゾンでは、林冠木と同じ種類のごく小さな若木が干ばつの事態にも耐えられるように水を処理する仕組みを変化させ、光を受けられる高さまで成長し続けることがあるという。つまり未来のアマゾンは、一部の人々が恐れるようにサバンナと化すのではなく、大きく様変わりはするが、それでも生きた森林であり続けられるかもしれないということだ。
研究にあたってバーソロミューらは、ブラジルのアマゾン下流域に広がるカシウアニャ国有林の若木66本に対し、長期にわたる干ばつ実験を行った。実験では、実験エリアの中で指定した範囲の木々に降る雨水をプラスチック製のパネルでさえぎり、全降雨量の半分しか届かないようにした。そのそばにある樹種や密度が似た区画では降雨量を制限せず、対照実験のためにそのままにした。こうした方法により、2001年からこのエリアで実験が行われてきた。
「気象予測によれば、アマゾンではこれから一段と干ばつが増える見込みです」とバーソロミューは言う。今回と同じエリアで過去に行われた干ばつ実験では、アマゾンの林冠を作っている大木の大半が枯れる可能性が示された。そうなれば、森林の光環境が変わってしまう。アマゾンでは、現在、降りそそぐ日光の大部分(一部のエリアでは95%にものぼる)をこれらの林冠木が受けており、背の低い若木にはその残りしか届かない。
バーソロミューらは実験エリアの半分にあたる30本の木々を干ばつ条件下、もう半分の36本については降雨量を調整しない条件下に置いていくつもの試験を行い、これらの樹木について明らかにしていった。木々の大きさや林冠層における位置を調べたほか、各樹木の葉を調べるために枝を集めた。
実験には、大木への干ばつの影響を調べた前回の調査と同様に、基本的にこの地域に多く自生している樹種が選ばれた。また、61本の大木も調査対象となった。
調査の結果、干ばつエリアの若木は他の若木と比べ、光合成を行う力が高まっていることが明らかになった。つまり、日光を取り込んで得たエネルギーを使い、二酸化炭素から酸素を作り出したり、水を使ったり、木の養分として必要な糖分を生み出したりする力が高まったということだ。この結果から若木は、みずからの形態を変えてより多くの日光を活用できるようにすることで、最終的には大木が全滅してしまうような干ばつにも対応できることが分かった。
バーソロミューによれば、単に高木の下で適応できたというだけでなく、干ばつの状況にありながら適応できたということの方がはるかに重要だという。
しかし、すべての樹木が同じように適応できるわけではない。バーソロミューはこう続けた。「樹種によって、適応力には差がありました。つまり、干ばつを生き延びられる種がある一方で、絶滅する恐れがある種もあるということです」
「この研究論文では(光や干ばつといった)複数の環境変化による影響が分析されているので、ほかにも重要なことを学びとれます」 Popular Science誌へのメールの中でそう語ったのは、イギリスのプリマス大学で環境科学の教授を務めるソフィー・フォーセットだ。フォーセットはこの研究には関わっていなかったものの、自身も森林破壊などの人為的影響や気候変動によって熱帯雨林がどう変わるかを研究している。彼女によれば、若木への干ばつの影響に関するデータは、林冠木に関するデータと比べてまだ少ないという。
この研究には若木に関する重要な情報が含まれている、とフォーセットは指摘する。それは、「限られた日光を受けている木々にとっては、土壌の水分が減ることよりも、より多くの日光を受けられるようになることの方が、影響が大きい」ということだ。だが、アマゾンの状況に影響を及ぼす要素はほかにもある。例えば、大きな木々が枯れることによる気温の上昇や大気中の湿度の減少などだ。
この研究から発展する今後の研究としては、各林冠層の微気候(地表より100メートルくらいまでの狭い範囲の気候)に干ばつがもたらす影響を調べられれば「素晴らしい」とフォーセットは言う。それが分かれば、現在の林冠木が枯れることで、それと同種の若木が成長とともに適応しなければならない状況がどう変わるのかについて、研究者らはさらに理解を深められる。そうした情報は、この先に待ち受ける未来を知ろうとするアマゾンの研究者だけでなく、世界の気候モデルを作っている研究者にも役立つだろう。
この記事は『Popular Science』に掲載されたものです。
Some of the Amazon’s smaller understory trees, juvenile members of the same species as the canopy trees, are capable of changing the way they process water to withstand drought conditions and still continue to grow up towards available light. (Pexels/)
この記事は、Popular Scienceのカット・エシナーが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。