マーチソン滝からすさまじい勢いで流れる水が、耳をつんざくような音とともに押し寄せる。そのぎりぎりのところまで観光客を乗せたボートが進む。観光客は、感動と自然への畏怖を抱かせるアフリカ屈指の絶景で、スリルを味わう。
ウガンダの北西部には毎年何万人もの観光客が訪れ、ジャングルに囲まれた渓谷に流れ込むナイル川の勢いに舌を巻く。だが、近くに水力発電用のダムを建設する計画が持ち上がり、反対の声とともに、あらゆる犠牲を払ってでも開発するメリットをめぐる議論も起こっている。
「どの場所であっても、開発投資の機会を探る試みには賛成です。ただ、マーチソン滝にダムを作るのには反対です」 ウガンダ人観光客パオロ・カヤマは、高さ43メートルのマーチソン滝の勇壮な姿にすっかり心を奪われた様子でそう話した。
「マーチソンでダムを作らないでほしいと思うのは、ここが特別な観光地だからです」
11月下旬、ウガンダ政府は、360メガワットの水力発電所の採算性を調査するため、国際コンソーシアムによるマーチソンフォールズ国立公園への立ち入りを認めた。同国立公園は、国際的に重要な湿地を擁する自然保護区域だ。
この決定に自然保護論者たちは唖然とした。つい三ヶ月前、観光業者や環境活動家、地元のコミュニティの粘り強い反対で、この賛否あるプロジェクトを政府に断念させて安心したところだった。
新しい提案では、当初想定されていたマーチソンではなく、その近くにあるもっと小さなウフル滝にダムを作る計画だ。
ウフル滝は、ビクトリアナイル川にあり、細長い岩石地をはさんでマーチソン滝の隣にある。1962年の大洪水の際、すぐ上流で川の流れが2本に分かれてできた滝だ。
「採算性を調べなければ、反対とも賛成とも言えません。何事にも科学の裏付けが必要です」今回の方針転換について、ゴドフリー・キワンダ環境相はそう話す。
「反対の声にも耳を貸していた内閣が立場を変えたのはなぜか?要するに、計画を実行するにせよ取りやめるにせよ、科学の裏付けをとろうということです」とAFPの取材に答えた。
– 消えゆく滝 –
採算性調査の指揮をとるのは、最初の計画から同事業に関わっている、ほとんど無名の南アフリカの企業「Bonang Power and Energy」社だ。
プロジェクトに反対する人たちにとっては、今回の新たな計画も当初の計画と大して変わらない。二つの滝はつながっていて、どちらにせよダムを作れば、生態系のバランスが崩れたり、観光客をひきつける魅力が損なわれたりするおそれがある、と主張する。
ウフル滝のダム建設計画の規模は、グランド・エチオピアン・ルネッサンス・ダムよりもずっと小さい。青ナイル川をせき止める、この巨大ダムの建設計画は、完成すれば6000メガワットの発電能力を持つダムとなるが、水供給のひっ迫をおそれるエジプトが激しく抵抗している。
その一方で、ナイル川沿いにある他の滝は、ここ数十年で次々に干上がり、消滅した。ウガンダで水力発電の大規模な開発が続いたことが背景にある。今では、この国の電力の8割は川での発電によるものだ。
最近になって姿を消したのは、マーチソンフォールズ国立公園の入り口で雄大な姿を誇っていたカルマ滝だ。同公園をさらに奥に進んだところに、滝が集まっているアヤゴという場所があり、そこで840メガワットもの巨大な発電所の建設が予定されており、将来的にはウガンダ最大の水力発電施設になると考えられている。
「私たちはもう多くを失いました。すべて手放すわけにはいきません。この特別な滝はこのままにしておきませんか。ナイル川中にダムを散りばめようというのでしょうか?」 そう話すのは、ウガンダの観光業者協会で副会長を務めるベネディクト・ナターリだ。
観光は、ウガンダの外貨獲得に最も貢献している産業で、その収入はGDPの10%近くを占める。
2016年にマーチソンフォールズ国立公園を訪れた観光客は7万5000人で、同国にある自然保護区域の中でも二番目の人出だった。
さらにここは、1951年に公開されたハリウッドのアドベンチャー映画『アフリカの女王』(主演:ハンフリー・ボガート、キャサリン・ヘプバーン)の舞台になったことでも知られている。
「マーチソン滝に手を出して、ウガンダの観光からマーチソンが失われることになれば、産業全体の息の根を止めることになります」とナターリは言う。
– 電力のひっ迫 –
その他にもさまざまなエネルギー・インフラ整備事業がマーチソンフォールズ国立公園に踏み入る中、手つかずの自然は、大きな道路や建物によって損なわれてきた。フランスの石油大手トタルは、同公園の西側の区域で油田開発プロジェクトを進めている。
ベルギーからの観光客でウガンダを再訪しているクリス・エラードは、この先の水力発電事業がこの地域とここに住む人々の経済的利益につながってほしいと願いながらも、その可能性は低いとみている。
「地元の人々が恩恵を受けられるのなら、私は全面的に賛成です」 マーチソンフォールズ国立公園を訪れたクリスは、AFPの取材にそう答えた。
ウガンダでは現在、国の電力系統に接続されているのは国民のわずか26%だが、政府は2040年までにこの数字を三倍にしたいと考えている。
一方、人気の滝にダムを作るよりも、異論が少なく、害をもたらす可能性が低い発電方法はあるという意見もある。
「今ならエネルギー源は他にもあります。テクノロジーは進化し続け、あらゆるものが改良されているのです」とナターリは言う。「他の方法を考えてみましょう。滝を守るためにも」
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