2020年7月13日 スイス、チューリヒ(SPX)

世界の水の消費量は、この100年の間に4倍近く増えた。多くの地域が、山岳地帯からもたらされる水がなければ水への需要を満たせなくなっている。30年後には、世界の低地人口の4分の1近くが、山から流れてくる水に大きく依存するようになるだろう。持続可能な形で開発を進めなければ、山岳地帯は「地球の給水塔」という重要な役割を続けられなくなる。

21世紀において水は重要な資源だ。世界には、山岳地帯を源とする水に頼っている低地地域が多くある。農地の灌漑用水については特にそうだ。スイスのチューリヒ大学が中心となって進めている研究では、世界の低地地域での水の供給量と消費量を、山から流れてくる水の量と比較。山の水に対する低地地域の依存度を初めて定量化した。

この研究では、地球全体を等間隔の細かい格子状に区切ったモデルが用いられた。このモデルをもとに総合的な分析が行われ、世界の山岳地帯の水資源に対する依存度が割り出された。その後、河川流域を1万平方キロメートル以上のまとまりに分けて、その区分ごとに比較が行われた。そうして、各地域の特徴や違いが細かくレベル分けされた。

一人当たりの消費量は減少しているのに、依存度は高まっている

「これまでの研究は、主にアジアの高山地帯を源とする河川の流域に焦点を当てていました」と語るのは、研究の筆頭著者でチューリヒ大学地理学科のダニエル・ビビロリだ。「しかしそれ以外にも、山からの水に大きく依存して灌漑農業を行っている地域はたくさんあります。たとえば中東や北アフリカ、北米や南米、オーストラリアの一部などです」

こうした依存は、1960年代から大幅に高まった。水の利用効率がよくなり、一人当たりの消費量が減っているにもかかわらずだ。1960年代には、山からの水に大きく依存するのは低地人口の7パーセントに過ぎなかったが、21世紀の中頃には24パーセントまで増えると予想されている。

この割合を人数で表すと、低地に住む15億人に相当する。特に集中するのが、アジアのガンジス川―ブラフマプトラ川―メグナ川、揚子江、インダス川、アフリカのナイル川とニジェール川、中東のユーフラテス川とチグリス川、それに北米のコロラド川などの流域だ。上記の研究では、人口増加や技術・経済・社会的な発展については中間的なシナリオが想定された。

生態系の機能の維持と気候変動に対する取り組み

「山岳地帯の『給水塔』としての役割をいかにして維持するか。これは、世界の低地に住む人々にとって大きな関心事であるべきです」とビビロリは言う。過度の農業利用を抑え、生態系の機能を保つなどして、山岳地域の持続可能な開発を実現することがきわめて重要なのだというのが、研究者たちの意見である。

それに加えて、何よりも大事なのが気候変動への対策だ。気温の上昇により、雪に覆われた山岳地域から流れてくる雪解け水のピークが数週間早く訪れる、といった事態もすでに起こっている。これでは、夏季の農業に水を利用することができない。水の管理のしかたを変えなければならなくなり、ダムや送水路などの新たなインフラも必要になるかもしれない。

「しかし、技術的な解決策は、生態系に大きなダメージを与えます。それにインダス川をはじめとする一部の河川には、もう開発の余地はほとんど残されていません」とビビロリは言う。今後は、低地と山岳地域の人々が、政治的、文化的、社会的、経済的な違いを乗り越えて密接に協力することが、とても重要になるだろう。

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