アメリカの言語学者たちは、2010年代を象徴する言葉として「they」を選んだ。これは自分を「男性」でも「女性」でもないと自認している人を指す際に、「he」「she」ではなく三人称複数形の代名詞である「they」が三人称単数形として使われるケースが増えていることが踏まえられている。

また、アメリカ方言学会は、「私の代名詞はshe/herを使ってください」というように、メールや手紙、対面で自己紹介をする際、自分に対して使ってほしい代名詞を伝える慣習が一般に広まっていることを讃え、「今年の言葉」に「pronouns: she/her(私の代名詞はshe/her※)」を選出した。
※外見や性別が男性あっても女性として扱ってほしい際に他者に伝える代名詞

アメリカ方言学会の新語委員会で委員長を務める言語学者・辞書編集者のベン・ジマーによると、これら二つの言葉は、米ニューオーリンズで2020年1月3日に行われた同学会の年次総会で決められた。総会には学者や大学院生、単語マニアなど約350名の会員が集まり、投票は挙手で行われた。

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この結果を伝える報道発表によると、「今年の言葉」として最も多くの票を集めた「(my) pronouns(私の代名詞)」は、「人とのコミュニケーションの中で自分の性自認を伝えることが重要な意味を持つようになってきた」ことを反映している。

2010年代を象徴する言葉に「they」が選ばれた背景にも、同様の傾向がある。男女の枠に当てはまらない「ノンバイナリー」の性自認を持つ人を指す際に、この単語が使われることが増えているのだ。三人称単数形としての「they」は、2015年の「今年の言葉」にも選ばれていた。

「年月が経っても廃れることがなく、10年間を集約する言葉が選ばれます」とジマーは言う。彼は、Wall Street Journalの言葉にまつわるコラムも書いている。

ソーシャルメディアの登場により、単語やフレーズの拡散スピードは格段に高まった。親から引き離された不法移民の子どもを収容する施設を意味する2018年の「tender-age shelter(子ども避難所)」や、2017年の「fake news(偽ニュース)」なども、ソーシャルメディアの影響で「今年の言葉」となったものだ。

2010年代を象徴する言葉として、年次総会では次のような言葉も候補に挙がった。

  • #BlackLivesMatter(黒人の命も大切):アフリカ系アメリカ人に対する警察の不当な扱いに抗議する運動で使われたハッシュタグ。

  • Climate(気候):気候変動の影響に対する関心の高まりを反映。

  • #MeToo(私も):企業、政治、芸能界など、社会のさまざまなところで多くの女性が男性からの性的虐待やハラスメントを受けた経験があることを広く世に知らしめた運動。

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1889年に設立されたアメリカ方言学会は、北米英語を専門に研究を行っている。「今年の言葉(word of the year)」の選出を始めたのは、1991年のことだ。「10年間の言葉(word of the decade)」の選出も同年に始め、今回のthey以前に二つの言葉が選ばれている。1990年代は「web(ウェブ)」、2000年代は動詞としての「Google(ググる)」だった。

2019年の「今年の言葉」の候補には、他に次のようなものがあった。

  • OK Boomer(はいはい、ベビーブーム世代さん):若者には理解できない考えを口にしたり、若者に偉そうな物言いをしたりする年配世代(主にベビーブーム世代)に反論する時に使われる言葉。

  • Cancel(キャンセル):問題がある、あるいは許されないと思われる人やものに見切りをつけること。「キャンセルカルチャー」というフレーズで使われる。

  • Karen(カレン):自己中心的で文句が多く、手のかかる白人女性のステレオタイプ。X世代(またの名をカレン世代)にあたる人物を指すことが多い。

 

この記事は、The Guardianよりニューヨークロイター通信で執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。