子どもたちに科学の面白さを伝える「東北大学サイエンスキャンパス」。前編では、その成り立ちや意義を聞いてきた。後編では、2019年10月5日に開催された「バイオアドベンチャー『微生物ははたらきもの』」の様子をお伝えする。
微生物って、何?
身近にある微生物の働きをクイズで発見
2019年10月5日(土)に行われた「バイオアドベンチャー『微生物ははたらきもの』」は、協和キリンが提供したプログラムだ。小学校3~5年生を対象とし、24名の枠に80名を超える応募があったそうだ。
各グループのテーブルに、モニター付き双眼顕微鏡や実験器具が用意された。
白衣に手袋、実験用メガネをつけたら、準備OK!
白衣を着た協和キリンの研究員が司会を務める。
“まずは実験です!”
砂糖をぬるま湯に溶かし、「ナゾの粉」を入れ、目隠しの箱をかぶせる。授業中はこのまま置いておき、あとで様子を見るという。
「ナゾの粉」を混ぜる。何が起こるのだろうと、子どもたちはわくわくした面持ち。
司会が問いかける。
“微生物ってなんでしょう? どういう微生物があるか知っていますか?”
“ミドリムシとか?” “ボルボックスとか” “酵母?”
詳しい子たちから声が上がった。
答えると、運営を担う同社の研究員や学生たちから、「おお~」と声が上がる。子どもたちはうれしそうだ。
“微生物はちょっと怖いと思うかもしれません。でも、怖いものばかりではないのです。今、知られている微生物は約10万種類ですが、悪さをするのはそのうちのほんのごく一部。ほかは特に悪さをしないか、良い働きをしてくれる微生物です。今日は良い微生物の話をしていきます。”
「微生物はどこにいると思いますか?」と、授業は問いかけを繰り返し、進んでいく。はじめから答えを教えるのではなく、自分の頭で考える時間だ。
“暮らしに役立つ微生物の働きを「発酵」と言います。みんなの身近にも発酵で作られたものがありますよ。それでは、ここでクイズです! 微生物は原材料を食べて、何に変えるでしょうか?
「間違えてもいいよ」と促しながら、問いかける。答える子どもが増えてきた。
シャーレで増やした微生物を観察
「増えない場所があるのはなぜ?」
“みんな、微生物に興味が出てきたかな? 微生物はどれくらいの大きさだと思いますか? あの小さなゴマの500分の1の大きさ、約0.006mmなんです。小さくて見えないですよね。では、どうやって見ればいいでしょうか? 方法その1は、見えるまで増やすこと!”
今回、参加者には事前課題が出されていた。寒天培地が入ったシャーレに、観察したいものを付着させてくることだ。
栄養満点の培地の上で、微生物が増殖している。
子どもたちが採取した微生物は、「お母さんのiPadから」「カブトムシから」「自分の右足の爪とかかとから」などユニーク。微生物が増えて集まっているところを「コロニー」という。
「ここは似ているね」「こっちは違う」とシャーレを観察。
にぎやかにお互いのシャーレを見る中、各テーブルについた研究員にも質問が飛ぶ。
“なんでコロニーは丸いかたちになるの?”
“いい質問だね! なんでだと思う?”
会話を通じ、疑問を掘り下げて考えていく。
“こんなシャーレはあったかな? コロニーが2つあって、片方はバクテリア、もう片方はアオカビです。アオカビのコロニーの周りにはバクテリアが生えていないですね”
1人のシャーレに、アオカビが見つかった。
“アオカビは、ほかの微生物が生えなくなる物質をまわりに出しています。「抗生物質」って言うのだけど、聞いたことがあるかな? ペニシリンやイベルメクチンなどの薬になる成分です。抗生物質のおかげで、微生物が原因の感染症を治療できるようになりました。今回は24個のシャーレから、アオカビが1つ見つかりました。拍手!“
駆虫薬の一つであるイベルメクチンは、主にアフリカで蔓延する熱帯病の薬として、多くの人を救っている。薬の元となっているのは微生物が作り出す化合物で、発見した大村智北里大学教授は、この業績により2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。実は、大村教授は大のゴルフ好き。イベルメクチンの開発につながる新種の微生物を見つけたのは、静岡の静岡のゴルフ場近くで採取した土からだった。
“身近な土から、ノーベル賞級の大発見があるとは面白いですよね。ところで、そろそろ1つ目の実験の「ナゾの粉」がどうなっているか、気になりませんか?“
普段は見えない世界を顕微鏡で観察
「お宝写真」を持ち帰ろう
目隠しの箱を開けると、「わー!」「きゃー!」と歓声が上がる。
ぶくぶくと泡が立っている。「何の粉かわかった人?」と問いかけると、元気よく様々な答えが返ってきた。様々な答えが返ってきた。
“それでは、見えない微生物を見る方法その2です。顕微鏡で観察してみましょう!”
観察するプレパラートを自分で作る。
チーズ、ヨーグルトドリンクなどの身近な3つの素材から、プレパラートを自分で作り、観察する。モニター付きの双眼顕微鏡を覗くと、普段は見えない世界が現れた。
顕微鏡を覗くと、「いっぱいいる!」「すごい!見える!」
微生物を初めて発見したのはオランダ人のレーウェンフック。顕微鏡を自作して見つけたそうだ。科学技術発展の歴史を織り交ぜながら、観察は進んでいく。最後は、顕微鏡のシャッターを1回押して、「君だけのお宝写真」を撮影した。
「チーズが1番良かった」「この部分が好き」と、気に入った箇所を思い思いに撮影。
夢中になる時間を過ごして、会場はすっかり打ち解けた雰囲気になった。振り返りでも、子どもたちが積極的に手を挙げて、答えていった。
司会を務めた研究員は次のように話す。
“子どもたちの新鮮な気づきに、いつもハッとさせられます。今日は、最初はうつむいていた子も、最後の方は顕微鏡から離れないほど夢中になっていて、うれしかったですね。学校でも実験の授業が増えていますし、今日をきっかけに理科を好きになってくれたらいいなと思います。”