「米国の移民の食を再創造」するレストランのメニューを考案しないかと誘われたとき、料理人のエンリケ・リマルドは一瞬、答えに詰まった。
「これは、タイプの違う20のレストランを一つにまとめるようなことです」と語りつつも、リマルドはほどなく計画に加わった。自身も移民である彼は、食を通して移民の連鎖を描き、称賛するというアイディアに惹かれたのだ。2019年11月12日、ホワイトハウスからほど近い場所にファストフード店とカジュアルレストランの中間業態である「ファストカジュアル」をコンセプトとする店がオープンする。「イミグラント・フード(移民の食)」という、ぴったりの名前が付けられたこのレストランで、リマルドは首都ワシントンで人口の多い、いくつかの移民グループの料理法や味を織り交ぜた品々を提供する。
だからメニューは野心的だ。「ベトナム・バイブス」はベトナムとカリブ海の料理法からヒントを得た一皿で、香辛料を利かせたカリブ風の鶏肉と、薬味の利いた米麺(フォー)、ケール、さいの目に切ったマンゴー、ピーナツに、フォーにかける香辛料入りヴィネグレットソース(酢とオイルを混ぜ合わせたソース)が添えられている。「ムンバイ・マリアチ」はメキシコとインド、ギリシャの影響を受けた料理で、香辛料をすり込んだステーキと、チチャロン(メキシコや南米でよく食べられる、カリカリに揚げた豚の皮のせんべい)のトッピング、ケール、マンゴーチャツネであえたコールスローが盛られ、いぶしたような味のマンゴーチポトレソース(メキシコ料理に使われる、燻製唐辛子の香辛料「チポトレ」を使ったソース)が添えてある。
めったに合わせることのない料理を融合させるために、リマルドは「どの国も、どの食材も、どの香辛料も一つ残らず」検討し、「大きな紙に全部書き出して、歴史的に見ながら組み合わせはじめた」のだという。文字通り、移民たちをつないでいったのだ。
まず、首都ワシントンに住む移民の中で最も人口の多いエルサルバドルとエチオピアから取りかかり、この二国をつなぐ方法を探った。
「最初に聞いた時には、それは合わないだろうと言うでしょう。でも合うものが見つかるのです」とリマルドは言う。「エチオピアのレンズ豆からヒントを得ました。少し甘くて、少し辛みもあるのが特徴です。それからエルサルバドルに足を運び、当地ではカボチャの種から作ったドレッシングを使うことを知りました。カボチャの種の風味は、レンズ豆の辛さと甘みとの相性が抜群なので、これらを合わせることにしました。この二つが合うのなら、何だって合わせることができます」。(後にできた「コロンビアロード」というメニューの主役は、エチオピアのレンズ豆と、ロロコの花芽のピクルス、それにエルサルバドルチーズのクラッシュだ)
リマルドは、経営担当のエゼキエル・バスケ-ゲールと政治関連のアドバイザーのピーター・シェクターと共同でこのレストランを開業した。スペイン出身の有名シェフであるホセ・アンドレスがワシントンで展開するレストランに初めて出資した投資家の一人がシェクターだった。高まりつつある反移民感情に対抗する力になりたい、そして「移民が非難されている時にあって、移民をたたえる何かをはじめたい」と思ったのだという。「米国の歴史、つまり移民の歴史を、本当の意味でたたえるレストランを開くことを考えたのです」
各国のお茶やソフトドリンクも豊富にそろえるドリンク類や料理のメニューに加え、「エンゲージメントのメニュー」もイミグラント・フードの目玉だ。食事に訪れた客は、移民を支援する地元の団体に寄付をしたり、ボランティア活動に登録したりできるのだ。APALRC(アジア系・大洋州系米国人を対象に法律相談などを行う団体)、Ayuda(移民に法的・社会的支援や言語サービスを提供する団体)、首都地域の移民の権利を守る連合(Capital Area Immigrants’ Rights Coalition)、中米リソース・センター(CARECEN)、CASA(ラテン系米国人や移民を支援する団体)の5団体である。レストランの営業時間外には、店のスペースをこれらのNPO団体にレンタルして、英語の授業や講習、法律相談などを開催できるようにしている。
「ファストカジュアルの食事は午後には客足が減るので、5団体のどこかが店のスペースを使いたいときに、使えるようにしたいのです」とシェクターは言う。「最近はどの団体も大忙しなんですよ」
イミグラント・フードは集会にはうってつけの空間だ。デザインは、中近東料理を中心に各国の料理を提供する人気レストラン「メイダン」を設計したデザイン・ケース社の建築家ミシェル・ボーヴェとゾンマー・ムーアが手がけた。資材や色、構造は、メニューに載る料理の食卓文化を映している。食堂には、中東で見かけるような低いテーブルから、ヨーロッパのビヤホールの店先にあるようなカフェテーブル、脚を組んで座れる席まで、何でも揃っている。
未成年時に入国した不法移民の強制送還を猶予する救済制度(DACA)について最高裁判所が判決を下すのと同じ日に、このレストランは開業する。意図していたわけではないが、店の門出にふさわしい日だ。
「移民がいかにかっこいいか、米国の経済や文化、ライフスタイルにとってどれほど重要なのかを表すレストランを作りたかったのです」とシェクターは語る。「こうして移民同士が融合したからこそ、この国の今があるのです」
首都ワシントンはCAVAやスイートグリーンの例が示すように、ファストカジュアルをコンセプトとする店が流行るのに適した土地柄なので、イミグラント・フードがまずこの地に開業したのは自然な成り行きだった。関係者たちは、今後、米国各地のほかの街でも、その地に住む移民たちからメニューのヒントを得て、各都市で活動する支援団体と協力しながら、イミグラント・フードをコンセプトとする店を展開したいと考えている。
シェクターはこう語る。「歴史をたたえるだけではなく、今の移民たちを助ける具体的な活動も行いたいのです」
イミグラント・フード(Immigrant Food) 所在地:ペンシルベニア・アベニュー1701、首都ワシントン
この記事は、Food & Wineのマリア・ヤゴダが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。