パキスタン北西部の山あいにある村で、ハジュラ・ビビは、前かがみになって手回し式のミシンをかけている。彼女が丁寧に縫い上げているのは、村の女性向けの生理用ナプキンだ。極めて保守的なこの国では、農村部を中心に、いまだに生理がタブー視されている。

「危機的な状況を何とかしたいのです」 母親でもあるビビ(35歳)は、布がかけられた小さな作業台の前に座ってそう話す。ここは、アフガニスタンとの国境近くにあるブーニーという村だ。

「かつて、ブーニーの女性たちは生理用品が何か、知りませんでした」とビビは言う。現地の慈善団体によると、パキスタンで生理用ナプキンを使用している女性は5分の1未満だ。

女性たちは昔から布きれを使って経血を処理してきた。しかし、生理に対する間違った思い込みが根強く、性教育も十分に行われていないため、衛生水準は低く、感染症にかかる女性も多い。

パキスタンの農村地域では、生理中の女性は不浄とみなされ、行動も制限されていた。

ビビは、コットンやプラスチック、布を原料にした使い捨て生理用ナプキンの作り方を学ぶトレーニングを受けた。「アガ・カーン農村支援プログラム(AKRSP)」というNGOが、ユニセフと共同で、女性の健康に対する意識を変えることを目的とした取り組みを実施しており、トレーニングはその一環だ。

夫に障害があり、家の収入がほとんどないビビは、家族を養うためにこの仕事を始めた。1枚のナプキンを作るのにかかる時間は約20分、ナプキンは20ルピー(約14円)で販売される。

仕事を始めた当初、村はちょっとした騒ぎになった。

「はじめのうちは、どうしてそんな仕事をするのかと聞かれ、バカにする人もいました」 ビビは当時をそう振り返る。

でも今では「村の女の子たちは生理の話ができるようになりました」と誇らしげだ。ビビにとってこれは「女性の最低限のニーズに応えるため」の闘いだという。

感染症と教育

パキスタンでは「貞節を守る手段のひとつ」として、月経に関する情報が意図的に隠されることもあるとユニセフは警告する。

「そのせいで、女性の心身の健康に悪影響が出ている」と、ユニセフの2018年の報告書にはある。

昔から、ブーニーの女性たちは生理の時に布を使ってきた。だがAKRSPのブシュラ・アンサリは、生理がタブー視されていたため、多くの女性が恥ずかしがって布を外に干すことができなかったと言う。湿った布が細菌の温床になるという認識もなかったそうだ。

 

Hajra Bibi was given training to make the disposable sanitary pads made of cotton plastic and clo...

また、家庭内で生理用の布を使い回すケースも多く、泌尿器系や生殖器官の感染症にかかるリスクが高まっている、と同地域の医師ワッサーフ・サイード・カカヘイルは話す。

「家庭に女の子が3人いれば、全員が同じ布きれを使っています。生理期間中に布を洗わないように言われている女性も多いです」 

パキスタンでも特に保守的な北部では、学校で性教育は行われておらず、家庭では、女性同士であっても、生理が話題にのぼることはめったにない。

2017年のユニセフの調査では、パキスタンの若い女性のうち半数が、月経を迎えるまで生理のことを知らなかったと答えた。

「十代の女の子たちは、当時、がんもしくは何か深刻な病気になって出血したと思い込み、私たちの病院にやってきたものです」とカカヘイルは言う。

だが、ブーニーがあるチトラル地区の公衆衛生部門の責任者モハマド・ハイダー・ウルマルクは、状況は改善されたと胸を張る。

「まだ行き届いていない部分はあるかもしれませんが、そういうところも何とか補おうとしています。」同地域では、数百人のヘルスワーカーを配置して若い女性を支援する体制を整えているとウルマルクは言う。

姉妹も母も妻も

一方、都市部、特に富裕層の間では状況が異なる。それでもやはり、家父長制が根強いムスリムの教国(世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数では149カ国中148位)であり、性差別的なステレオタイプがなお残るパキスタンでは、最低限の生理用品でも手に入れるのはまだ難しいのが現状だ。

パキスタンで最もリベラルな都市とされ、2000万人が住む大都市カラチなら、生理用ナプキンは、値段は高いものの簡単に買うことができる。

だがいまだに、店員に変な目で見られるのを嫌って、夫に買ってきてもらうという女性も多い。

 

In Karachi a metropolis of twenty million people seen as the most liberal city in Pakistan sanitar...

 

「夜遅くに買いに来たり、隣の町まで買いに行ったりする人もいます」と日用品店を営むサジャド・アリ(32歳)は話す。

こうした店では、他の商品に使う透明の袋は使わず、中身が見えないように紙で包装するよう配慮している。

女性の権利を守る活動をするシーマ・シェイクは、「生理はタブーとされ、謎に包まれています」と語る。

そして、こう疑問を投げかける。「男の人にも姉妹や、妻、母親はいるはずなのですが」

パキスタンでは性教育の導入をめぐって20年にわたり論争が続いた。そしてついに、カラチを州都とするシンド州の公立学校で初めて性教育の授業が行われることになった。

その目的のひとつは、生理にまつわる不安を取り除くことだ。パキスタンでは、女の子たちの間で、月経の始まりが学校を辞める大きな理由となっている。

2017年のユニセフの調査では、約28%の女性が、生理中の腹痛や衣服が汚れる不安から学校や仕事を休んだ経験があると答えた。

ビビは今、同じく生理用ナプキンを作るトレーニングを受けた80人の女性と一緒に働いている。彼女は、ブーニーでも状況は変わってくだろうと自信を見せる。

「この仕事を通じて、私は人々の意識を変えてきたのです」

 

この記事は、Digital Journalで執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。