近年は働き方やライフスタイル、家族の在り方など、さまざまな点で「多様性」が受け入れられつつある。個人の生き方についても、多様性を尊重しようとする働きかけがあらゆる場で行われている。たとえば「プライド月間」も、個人の生き方や考え方に関する自由の大切さを主張する活動だ。

本記事では、毎年6月に行われている「プライド月間」について、日本や世界で行われている取り組みとあわせて紹介する。

プライド月間とは?

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プライド月間とは、毎年6月に世界各地でLGBTQ+の権利を啓発するための活動が行われる期間のことである。

LGBTQ+とは、「L:レズビアン」「G:ゲイ」「B:バイセクシュアル」「T:トランスジェンダー」「Q:クエスチョニング」「+:プラスアルファ」のことを指す。一般的には、性的少数者(セクシュアルマイノリティ)の呼び名でも知られている。

以前はLGBTQが主流だったが、近年はより多様性を受け入れるように、プラスアルファが加えられている。プラスアルファは、たとえば、どの人間にも性的興味を抱かない人や、あらゆる性的志向の人を愛する人などのことだ。

多様性が尊重されつつある現代において、性的志向やからだの性、性役割が必ずしも一致しない人の存在が広く認識されるようになった。たとえば「男性の身体で会社でも男性として振舞っているが、性的志向は女性を愛する同性愛者」も世の中には存在する。

LGBTQ+は、単純に性的志向のみにフォーカスしているのではなく、上記のようにあらゆる生き方や個性を含めた性の多様性をあらわす言葉だ。

プライド月間は、LGBTQ+について改めて正しい認識を促すとともに、多様な誰もが公平に生きられる世の中の実現を目指す活動である。

毎年6月にプライド月間が設けられる理由は、1968年6月アメリカで起きたストーンウォール事件が由来とされているためだ。

【ストーンウォール事件とは】
1968年6月28日、ニューヨークに店舗を構えるゲイバー「ストーンウォール・イン」への、警察による不当な踏み込み捜査に対して行われた抵抗運動のこと。当時は同性愛者など性的少数者をターゲットとしたソドミー法が多くの州で残っており、警察によるゲイバーなどへの踏み込み捜査は日常的に行われていた。

同性愛者への酒類提供を違法とするなど、不当な扱いを行う警察に対する抵抗運動が行われたのだった。「ストーンウォール暴動」「ストーンウォールの反乱」などとも呼ばれている。

ストーンウォール事件を契機に、アメリカ中で性的少数者に対する警察のいやがらせが暴露されるようになり、ゲイやレズビアンの保護を訴えかける団体が誕生した。活動はやがてカナダやオーストラリアなどに広がり、今日のプライド月間の礎となった。

プライド月間を代表する「プライドパレード」

プライド月間には、世界中の主要な都市で「プライド」と呼ばれるパレードイベントが行われる。ストーンウォール事件が起きたニューヨークや、サンパウロでは、100万~300万人を動員する年もあるほど活発だ。2006年には、サンパウロのイベントが世界最大のプライドパレードとして認定された。

日本においても、「東京レインボープライド」の名で毎年4~5月にパレードイベントが開催されている。個人はもちろん多くの団体・企業も参加しており、協和キリンも、2023年4月22日・23日に開催された東京レインボープライドへ参加した。

また、2023年4月22日〜5月7日をプライドウィークとしており、国内各所でLGBTQ+に関するイベントが行われる。

プライド月間にレインボーフラッグが掲げられる理由

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プライド月間に行われるパレードなどのイベントや掲示物には、レインボーフラッグや関連するモチーフが掲げられるのが通例だ。レインボーフラッグは、今やLGBTQ+を象徴するものとして世界的に知られており、活動に賛同する団体・企業もイベントや商品に取り入れている。

そもそもレインボーフラッグが誕生した背景には、とあるサンフランシスコ市政執行委員の活動が関係する。1977年、自らをゲイであると公表している人物が、初めてサンフランシスコ市政執行委員となった。彼はコミュニティのシンボルとなる旗を、アーティストであるギルバート・ベイカーに依頼し、考案されたのがレインボーフラッグの始まりである。

当時は8色(ピンク、赤、オレンジ、黄、緑、青、藍、紫)を使用しており、それぞれセクシュアリティ、命、癒し、太陽、自然、芸術、調和、精神の意味が込められていた。しかし当時の技術では理想とするピンク色を出せず、7色となった。

新たなレインボーフラッグの案を見たギルバート・ベイカーは「奇数は違和感がある」と再考し、現在は6色(赤、オレンジ、黄、緑、青、紫)で構成されている。6色に落ち着いた理由には、3色ずつ分けて道の端でそれぞれ掲げることも想定したためである。

1978年に開催された「ゲイ・フリーダムデイ・パレード」で初めてレインボーフラッグが掲げられて以来、LGBTQ+のシンボルとして広く活用されるようになった。

世界でのプライド月間の取り組み

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プライド月間は今やアメリカのみならず、世界中のあらゆる国や地域で取り入れられている。自治体や団体はもちろん、賛同を表明している企業も多い。

LGBTQ+に関連する取り組みは日常的にさまざまな場で行われている。とくにプライド月間は多くの注目を集める期間であり、団体・企業も力を入れて施策に取り組んでいる。

ここでは世界でのプライド月間における取り組みとして、2つの事例を紹介する。

VOGUE

VOGUEは、アメリカ発のファッション・ライフスタイル雑誌だ。世界でも有数の影響力をもつファッション誌で、イタリアやフランスなど各国で発行されており、日本でも多くの愛読者を獲得している。LGBTQ+に関する記事も多く掲載しており、2022年8月には「私たちのプライド革命。」と題して、12人のクリエイターを紹介した。

VOGUEがプライド月間に行った代表的な取り組みは、ロゴデザインによるLGBTQ+への団結の意思表明である。2022年6月、世界中の公式ウェブサイトの「VOGUE」ロゴを、プライド月間に合わせてレインボーカラーに変更した。レインボーカラーに彩られたロゴを利用したTシャツの販売も行われている。

また、VOGUE JAPANでは「#PRIDEwithVOGUEJAPAN」のハッシュタグを利用したキャンペーンも実施。公式SNSでハッシュタグとともにプライド月間を応援する画像を投稿し、読者にも参加を呼び掛けた。

LEGO

世界中で幅広い世代に愛されている玩具のひとつが、LEGOシリーズではないだろうか。子どもの玩具としても、大人が芸術を楽しむ道具としても注目を集めている。

オランダに本社をもつLEGOがプライド月間に関連する取り組みとして行ったのが、「Everyone is Awesome(みんなサイコー!!)」の発売である。セクシュアルマイノリティを象徴するミニフィギュア11体を含む商品で、グループによるLGBTQIA+への取り組みの一環としている。

なお、レゴグループが取り組みとして掲げるLGBTQIA+のIはインターセックスを、Aはアセクシュアルをさす。インターセックスとは生まれつき両性の特徴があるからだをもつ人のことであり、アセクシュアルはどの性別にも性的興味をもたない人のことだ。

「Everyone is Awesome(みんなサイコー!!)」は、レインボーフラッグでおなじみの6色に5色を加えた、計11色のフィギュアである。それぞれ単色でできており、ヘアスタイルが多様なのが特徴だ。

デザイナーはアイデンティティや性的志向に左右されず、「すべての人を祝福する包括性を象徴するモデル」として生み出したと語っている。

日本でのプライド月間の取り組み

日本国内においても、多くの団体・企業がプライド月間に関連した取り組みを行っている。ここでは代表的な2つの事例を紹介する。

京都市

京都市では、2022年6月のプライド月間に合わせて、市内各地でキャンペーンを実施した。たとえば京都市役所本庁舎塔屋でレインボーライトアップを行ったり、市内の商店街でレインボーフラッグを掲出したりした。

認知拡大にも取り組んでおり、市内の商業施設でパネル展「LGBTQについて知っていますか?」を開催した。京都市交響楽団を招いてのイベント開催や、レインボーカラーのわたがしを配布するなど、幅広い世代へのプライド月間の浸透に貢献するキャンペーンとなった。

渋谷109

渋谷は、日本を代表する、若者を中心とした流行の発信地である。ファッションやトレンドを愛する多くの若者に愛される商業施設「シブヤ109」においても、プライド月間に関連した取り組みが行われた。

「シブヤ・プライド・マンス(SHIBUYA PRIDE MONTH)」と名付けられたキャンペーンでは、LGBTQ+に関連するアイテム販売やビジュアル掲出を行った。世界的に人気なキャラクターのグッズ販売や、商業施設内では性別にとらわれない、あらゆるスタイリングのキャンペーンビジュアルの掲出などだ。

ダイバーシティやサスティナビリティの考えも取り入れ、渋谷の中心的ユーザー層であるZ世代への発信としている。人気の5ブランドとキャラクター版権会社も参加した、一大イベントとして多くの注目を集めた。

まとめ

性的少数者と関わることの少ない多くの人間にとって、LGBTQ+は安易に「同性愛者」や「性的志向が定まっていない人」のことであると誤解されがちだ。しかし実際は、性はグラデーションであり、本人ですら明確化できるとは限らないものである。LGBTQ+によるプライド月間は、あらゆる性の生き方を尊重し、プライドを守るための活動といえる。

日本国内においても、LGBTQ+に対する理解が大々的に叫ばれるようになった。協和キリンも多くの賛同企業とともに、2023年4月開催の「東京レインボープライド」に参加した。