社会課題を軸に就職先を選ぶ学生が増えている中、学生と企業をつなぐプラットフォーム「エシカル就活ーETHICAL SHUKATSUー」を運営する株式会社アレスグッドの半井 翔汰さんと、協和キリンの若手社員3人が一堂に会し、「エシカル×働く」について語り合った。前編では、それぞれの就活を振り返った。後編では、学生時代に抱いた思いや社会課題への関心と現在の仕事のつながりを聞きながら、エシカルに働くことの意味を探っていく。

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【プロフィール】

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自分の仕事が課題解決につながる喜び

―半井:実際に働き始めてから、学生時代に抱いた思いや社会への課題感が、今の仕事につながっていると感じることはありますか。

(中谷)

はい。自部署の気付きがきっかけとなり、他部門と連携しながら、適切な患者さんに医薬品を使用いただく重要性を改めて周知する文書を作成できたときは、安全性に限らず適正使用のために「適切な情報を患者さんに伝える」という目標に一歩近づけたと感じました。

(藤村)

私は、国内製薬会社4社が共催する「Healthcare Café」(ヘルスケアカフェ)で患者さんと直接交流し創薬研究の早い段階から患者さんに寄り添った視点で研究を進める重要性を改めて感じることができました。例えば、聴覚障害のある方は「出張中に補聴器や人口内耳の電池が切れたら?」といった、私には思いもよらない不安を抱えているそうです。患者さんの声を直に聞き、自分の思い込みによって研究の幅を狭めてしまっていたことに気付きました。

[関連:“当事者不在”の終焉へ。製薬企業4社が見据える新たな創薬のかたち]

―半井:患者さんとの交流を通じて、より明確なニーズを把握できたのですね。藤村さんのような研究者の方々が開発した医薬品を現場に届ける役割を担う辻さんは、いかがでしょうか。

(辻)

「苦しむ人の支えになりたい」という思いから始めた仕事なので、自分の勧めた医薬品によって救われる人がいることに大きな喜びを感じています。私たちの医薬品をより多くの患者さんに届けるためには、医療現場の先生方に納得いただける説明をする材料が必要なので、日々、勉強を続けています。毎日が新しいことの連続で、とても刺激的です。

働き始めて見えた、新たな課題

―半井:エシカルに働く難しさはどうでしょう? 実際に働いていく中で、理想と現実のギャップに苦しむことはありますか。

(藤村)

私の場合は、周りの理解を得る難しさを感じています。現在、業界全体として患者さんや医師コミュニティとの対話や連携をより密にして研究開発や様々なサービスの提供を追求する動きがあり、協和キリンでもペイシェントアドボカシー※1活動として全社的に取り組んでいます。私もその研究開発本部におけるメンバーの一人として創薬の初期段階から患者さんの視点を反映する方法を模索しています。協力してくれる人もたくさんいる一方で、社内には「研究者が患者さんの声を直接聞きにいく」という、従来はなかった発想を疑問視する声が全くないわけではありません。周りに理解してもらうためにも、自分の経験や患者さんの視点を取り入れた創薬研究の価値をどのように伝えれば良いか、工夫しながら活動を続けています。

(中谷)

私は、医療現場や患者さんにきちんと私たちが伝えたい情報が届き理解されているのか、そして医薬品使用にあたる行動変容につながっているのか、把握しきれない現状があると感じています。情報提供資材の配布数やウェブサイト閲覧数から予想することも一案と思いますが、理解度や行動変容の度合いを測るのは難しいと思います。こちらは業界全体の課題でもあり、協和キリンでも医薬品に対する医療従事者や患者さんの理解度、リスクマネジメントに対する意識・行動変容を測る効果的な手法を、海外のメンバーと共に「自分ごと」として検討したいです。

(辻)

私は、必要な患者さんにお薬を届けられているか、心配になり、苦しく感じることがあります。ただ、協和キリンでは単に利益だけを追うのではなく、「患者さんの顔」を思い浮かべることも大切にしており、会議でも患者さんの視点からの話が出てきます。先生方とどうコミュニケーションを取ればいいのか分からず悩んだときも、先輩方が「先生の患者さんを想像させるような質問や説明をすると伝わりやすい」と教えてくれました。そのアドバイスを心に留めながら、日々、患者さんのことを考えて仕事をしています。

―半井:3人とも、常に「誰の役に立ちたいか」に立ち戻り、相手の顔を思い浮かべているのですね。大事なことを今、教えてもらいました。

※1 ペイシェントアドボカシーとは、患者および医師コミュニティとの対話と連携により、社会の疾患に関する正しい理解を促進するという考え方。事業のバリューチェーン全体を通じて未充足の医療ニーズの解決に取り組み、病気と向き合う人々に笑顔をもたらす活動は、「PA 活動」と呼ばれている

キャリアの軸は「どんな未来を実現したいか」

―半井:私たちZ世代は先行き不透明な将来に不安を抱いており、個のスキルを磨いて自律した働き方をしていかなければならないという強い危機感を持っている傾向にあります。そんな中、これから未来に向けてやりたいことを教えてください。キャリアの観点から、他部門への異動や転職を考えることはありますか。

(中谷)

私は、今まで以上に、患者エンゲージメント※2(Patient Engagement)に力を入れていきたいです。医薬品のリスクだけでなく、患者さんがそれをどう使い、何に困っているのか考えられる人になりたいです。また、一口に「患者さんの闘病生活を支える情報提供」と言っても、多様な側面があるので、患者さんだけでなく周りの方々にもかかわる情報、例えば食生活の提案などにも興味があります。今はまだ自部署の業務で挑戦したいことが山積みですが、現在の仕事に満足したら次のステップへ進む可能性はあると思います。

(辻)

まだ入社して間もないので、今は担当エリアでより多くの、必要としている患者さんに私たちの医薬品を使っていただくことに集中したいです。ただ、私の根底には学生時代に訪れた貧困地域に対する思いがあり、「誰もが平等に医療が受けられる社会にしたい」と願っています。具体的に何をどうするかまでは思い至っていませんが、医療業界には携わり続けていきたいです。

(藤村)

患者さんとの交流から得た気付きを研究に昇華させて、真のニーズに呼応する医薬品開発の実例につなげることが、私がやるべきことだと考えています。患者さんに寄り添った医薬品開発は私の目標でもあり、今は自らの手で研究開発することにこだわっていますが、自身の研究での貢献に限界を感じたら、行政など医学研究の制度をつくる側へのキャリアシフトもあり得ると思います。

※2 患者エンゲージメントとは、医療提供者同様に患者、家族、介護者の能力を強化するプロセスに関して、医療サービス提供の安全性、品質、人間中心性を強化し、患者自身のケアについて患者の積極的関与を促進し支援すること。(医薬産業政策研究所 政策研ニュースより引用。https://www.jpma.or.jp/opir/news/065/02.html, 最終アクセス日2023年3月24日)

画像:4人の取材風景

―半井:3人とも、職種に対するこだわりよりも、実現したい未来に対する思いの方が強いのですね。それぞれが関心を持つ社会課題に対して、できることを一つひとつこなしながら、解決に向けて将来的にはご自身の役割を変えていく可能性もあると感じました。それこそがまさに「エシカルに働く」ということであり、私もぜひ皆さんと一緒に「エシカルキャリア」を歩んでいきたいです。今日はありがとうございました。

サステナビリティへの取り組みを実態の伴うものにしていくためには、社員一人ひとりの力が不可欠だ。社員自身が問題意識を持つ社会課題を軸に就職先や歩む道を決める「エシカル就活」や「エシカルキャリア」への気運の高まりが、組織を変える力となり、持続可能な社会を実現する一翼となることを期待したい。