世界各地で、日夜さまざまな差別をなくす取り組みが行われている。国や肌の色、文化の違いと同じく取り上げられることが多いのがジェンダー問題だ。

ジェンダー問題はSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の目標にも組み込まれており、国や文化を超えた大きなテーマであることがわかる。

本コラムでは、ジェンダーニュートラルとは何か、具体的な取り組み例とともに解説する。

ジェンダーニュートラルとは?

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近年は働き方や各家庭のあり方など、多くの場面で多様性が重視される社会となりつつある。多様性の中には立場や国籍のほか、性別も含まれる。

あらゆる多様性を尊重し合い、時代に合った環境を作ることは、国のみならず企業にも求められている変化のひとつだ。

時代の流れに沿い、誰もが気持ちよく自分らしく生きる場所を作るために、ひとつの考え方としてジェンダーニュートラルが重視されている  。

男女の性差にとらわれない考え方のこと

ジェンダーニュートラルとは、gender(性別)とneutral(中立)の2語から成り立つ言葉である。言葉のとおり、男女の性差にとらわれない中立的な考え方のことを指す。

男女の性差に関する問題を取り上げるうえで、もっともイメージしやすいのがLGBTQ   +である。かねてよりLGBTQ+に関する一般的なイメージで多いのが、同性愛者のみを指すという誤解だ。

実際は5つのアルファベットが異なる意味を持つ。

・L(Lesbian):女性同性愛者

・G(Gay):男性同性愛者

・B(Bisexual):両性愛者

・T(Transgender):心と体の性が異なる人

・Q(Queer/Questioning):性的指向・性自認が定まっていない人

・+(+α):LGBTQ以外の性の在り方(アセクシャル等)

性的マイノリティとも呼ばれるLGBTQ+の中には、上記のとおり自らが認識する性別と身体的構造が一致しない人々や、そもそも性的思考や性自認が定まっていない人々も含まれる。

トランスジェンダー(T)やクィア/クエスチョニング(Q)の多くは、日常生活において社会にあふれた性別を基準とした分け方に違和感を抱く。

世の中には男性と女性だけがいることを前提とした考え方・制度・慣習が幅広く存在しており、性的マイノリティが疎外感や生きづらさを感じる原因となっていた。

ジェンダーニュートラルの考え方は、こうした性差の偏りをなくし、あらゆる人々が自分らしく生きられる社会を目指す。 

例えば、ジェンダーニュートラルに配慮された商品であれば、性別に関係なく自分の好みに合ったものを選べる。

ジェンダーニュートラルとは、単純に性的マイノリティのみに配慮したものではなく、性自認または嗜好によらず、すべての人へ平等に機会を提供するための概念なのだ。

LGBTQを取り巻く問題については、こちらの記事でも解説している。

>>「LGBTQについて考える。問題と取り組みとは

ユニセックス・ジェンダーレス・ジェンダーフリーとの違い

ここでは、代表的な「ユニセックス」「ジェンダーレス」「ジェンダーフリー」を取り上げ、それぞれの特徴やジェンダーニュートラルとの違いを解説する。

ユニセックス

ユニセックスは、主にファッション業界で使われることが多い。男女の区別なく、誰でも着用できるデザインの服やアクセサリーなどが当てはまる。

ユニセックスは、20~30年ほどで国内でも広く認知されるようになった。性別で商品のターゲットを限定しない点は、ジェンダーニュートラルと非常に似ている。細かな違いをあげると、ユニセックスはあくまで「男女兼用を前提に作られるもの」を指すことだ。

性別による区別自体をもたないジェンダーニュートラルとは、ニュアンスが少し異なるといえる。

ジェンダーレス

ジェンダーレスは、社会的あるいは文化的に作られた、性別による区別をなくすことだ。例えば「青は男の子向け」「ピンクは女の子向け」など色で分けることもジェンダーに基づいた区別といえる。

制服に対する従来の考え方は「男性はスラックス」「女性はスカート」というのが一般的であった。しかし近年は、制服を男女で分けない学校が少しずつ増えている。

このように男女間の社会的・文化的な区別をなくす点において、ジェンダーニュートラルとジェンダーレスは同義だ。

ジェンダーレスについてはこちらでも紹介している。

>>「ジェンダーレスとは。データから見る各国の現状と身近な事例を紹介

ジェンダーフリー

ジェンダーフリーは、性別による社会的・文化的差別をなくそうとする考え方のことだ。日本では過去において、「夫が働き、妻は家庭を守る」ことが一般的とされてきた。女性が働くとしても若いうちのことで、結婚すれば退職して専業主婦となることが当たり前となっていた。

ジェンダーフリーとは、このような性別による社会的・文化的な決めつけから自由になることを指す。

ジェンダーニュートラルやジェンダーレスと非常に似ているが、トレンドや幅広い層への認知度としては低い傾向がある。

上記のとおり、それぞれ意味は若干異なるものの、同義語として使われていることも多い。

ジェンダーニュートラルの取組事例

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社会全体や企業で実施されているジェンダーニュートラルの取り組みは複数あげられる。

ここではジェンダーニュートラルの取組事例を紹介する。

男女にとらわれない代名詞や名称

私たちが日常的に使う言葉の多くには、性別によって変化するものや性別の固定観念に基づいたものがある。例えば、英語の「he」「she」や、職業を表す「〇〇man」などだ。

ジェンダーニュートラルの観点から、男女で分けられた呼称は変化しつつある。

従来の代名詞・名称 ジェンダーニュートラルな代名詞・名称
三人称 he/she they
警察官 policeman police officer
飲食店の給仕係 waiter/waitress server
客室乗務員 steward/stewardess flight attendant

上記のほかにも、多くの代名詞・名称で性別にとらわれない呼び方が浸透し始めている。

日本においても、看護婦が看護師へ、保母が保育士へ、女優が俳優へと、さまざまな職業で性別を問わない呼び方が一般化しつつある。

「ladies and gentleman」の呼びかけの廃止

劇場や公共交通機関などのアナウンスは、「ladies and gentleman(紳士淑女の皆さま)」から始まるのが定石だった。しかし冒頭で解説したLGBTQ+をはじめ、男女の2種類に区分されることに違和感を覚える人は少なくない。

2020年、ジェンダーニュートラルへの配慮として、JALは機内アナウンスを従来の「ladies and gentleman」から「everyone(皆さま)」や「all passengers(乗客の皆さま)」に変更した。性自認が男女のいずれにも当てはまらない層を含めた呼びかけとして、ジェンダーニュートラルを実現している。

性別を限定しないジェンダーニュートラルなトイレ

心と体の性が異なる人や、いずれの性別にも当てはまらない人にとって、日常的な問題となるのが外出先でのトイレだ。多くの商業施設や公共施設において、トイレは「男性用」「女性用」「多目的」の3種類のみ設置されている。

性自認に合わせてトイレを選ぶと、第三者から異性用のトイレに立ち入っていると勘違いされかねない。一方で混雑しやすい商業施設では、性別問わず利用できる多目的トイレも利用しにくいのが現状である。

性的マイノリティに該当する人々も、そのほかの人々も快適に利用できるトイレを設置した商業施設の一例が渋谷のMEGAドン・キホーテだ。

おむつ交換の保護者や障害者が主な使用者と想定される多目的トイレではなく、あえて「性的指向や性自認のいかんにかかわらず、誰でも利用できるトイレ」と明言した。人が多い渋谷の街かつ、24時間営業の進化型旗艦店舗に導入したことで、幅広い世代が利用しやすく、受け入れやすい点が特徴である。

性別でターゲットを分類しないファッション・コスメ

これまで化粧は女性のものであり、社会人としてのマナーとされてきた。しかし近年は、メンズコスメブランドやジェンダーフリーコスメの浸透もあり、美容アイテムに興味をもつ人は性別問わず多い。

性別問わず多くのユーザーをターゲットに設定したのが、コスメブランドのTHREEから誕生した「FIVEISM × THREE」だ。

ブランドコンセプトINDIVIDUALITY(個性)のもと、誰もが気軽に使用できるコスメアイテムをリリースしている。性別はもちろん、年齢による既成概念も取り払ってメイクを楽しめるよう、男性の肌質を考慮した製品開発が行われている。

「女の子用」「男の子用」で分けないおもちゃ

子ども時代、性別を理由に興味のないおもちゃで遊んだことがある人は少なくないだろう。「女の子はお人形」「男の子にはミニカー」をプレゼントするのが、必ずしも正解とは限らない。

ジェンダーニュートラルの観点により、おもちゃ業界も進化している。アメリカの一部の州では、性別で区別しないおもちゃ売り場の設置を義務付けており、各店の裁量によってジェンダーニュートラルな店舗作りが行われている。

日本でも人気の高い、バービー人形やシルバニアファミリーなどのおもちゃにも、性別の壁を取り払う取り組みが行われている。男性キャラクターの登場や、お母さんキャラクターの衣装からエプロンを取り払うなど、性に基づいた固定観念が生まれないように配慮されている。

性別にとらわれない世界を実現するために個人ができること

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人々の間で使われる代名詞や名称が変化しているように、個々人ができるジェンダーニュートラルの取り組みは多い。普段使用している言葉や無意識の行動が、性別の固定観念に基づいていないか疑問をもつことが大切だ。

例えば周囲の人に対して「男のくせに女々しい」「女のくせに偉そうに」など、性別に紐づけた言葉を吐いていないだろうか。

自分の言動は固定観念に基づいていないか、誰かの性的志向や性自認を攻撃していないか自問しつつ、互いに尊重し合う意識をもつことが重要である。

まとめ

近年、多くの場面でジェンダーニュートラルの取り組みが進みつつある。ジェンダーニュートラルは、あくまで性別という概念にとらわれた無意識下での差別をなくすための考え方であり、生物学的な身体的特徴の違いを無視するものではない。

企業や国単位で取り組むものもあれば、個々人で実践できる取り組みもある。「男性」「女性」の枠組みを取り払うことは、「あなた」「あの人」と個々を見て評価する、個々人への尊重にもつながるのだ。