美術館では、作品に触れてはいけない。貴重な作品を保護するため、注意喚起を施しているところも多いだろう。しかし、そんな「常識」をアルゼンチンの首都、ブエノスアイレス市内にあるヒスパニック・アメリカ美術館Isaac Fernández Blancoが覆した。

「The Art of Self-Examination」と呼ばれる啓蒙活動の一環で、乳がんの女性を支援するNPO法人Macmaは現地の広告代理店の協力を受け、アート作品に触れることにより、来場者に乳がんの可能性を知らせる体験型の展示を期間限定で開催する。

レンブラントの『ダビデ王の手紙を手にしたバテシバの水浴』や、ルーベンスの『三美神』、ラファエロの『若い婦人の肖像』などの作品──Liliana Sosa博士の研究結果をもとに、乳がんの可能性を示すしこりやくぼみなどのグラフィックなど、症状が正確に配置された作品のレプリカを展示。来場者が直接その部分に触れることによって、乳がんの症状やセルフチェックの重要性を訴える。

触れる美術館

Image via David The Agency

David Buenos AiresのECDであるIgnacio Flotta氏とNicolas Vara氏は、FAMOUS CAMPAIGNSに対し、「何世紀ものあいだ、描かれた女性も、芸術家も、作品を見た何千人もの訪問者も、その症状を認識することができませんでした。今日でも同じことが起こっていて、多くの女性は、それをどのように認識したらよいのかが分からないのです。この展覧会を通して、注意しなければならない症状を知ってもらいたいです」と語った。

また、Macmaの会長であるMaria Paula Castillo氏は、「このアクションを通して、乳がんは発見が早ければ治る病気であることを訴えたいのです。自分を知ること、大切にすることの重要性を思い出すことのできる自己検診の展示です。また、自己検診だけでは十分でないため、年に一度、マンモグラフィーやその他の検査を受けることをお勧めします」と、この展示の主旨について説明している。

初期の乳がんは、体調が悪くなるなどの症状が特にないため、セルフチェックでしこりやくぼみなどを早期発見をすることが、最も重要だという。名画を鑑賞しながら、乳がんの症状を知ることは、セルフチェックをする機会を意識的に増やし、さらに家族や友人とそのテーマについて気軽に話せる場を与えるだろう。

現在、新型コロナウイルスの流行により、これまで健康状態に自信のあった若年層の中にも、以前より自身の健康について日常的に考える時間が増えたという人が多いのではないだろうか。そんな今だからこそ、恐怖感からではなく、アートという切り口で、自分自身の健康状態を見直すきっかけを得られることは非常に有意義である。

【参照サイト】 Museum encourages its visitors to touch art to raise awareness of early detection

この記事は、ハーチ株式会社が提供する『IDEAS FOR GOOD』(初出日:2022年6月8日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、にお願いいたします。