環境汚染として代表的なものが、大気汚染・水質汚濁・土壌汚染だ。いずれも悪化すると健康被害などをもたらすことから、政府や企業が現状の把握と改善に取り組んでいる。当記事では、光化学オキシダントなどで最近注目を集める大気汚染に焦点を当てて解説する。

日本における大気汚染の現状

大気汚染 現状 1.jpg

大気汚染とは、有害物質によって大気が汚染されることだ。大気汚染が進めば、環境や私たちの健康に影響をおよぼす。主な大気汚染物質と影響は以下のとおりだ。

微粒子状物質 

(PM2.5)

呼吸器や循環器に影響を与える
光化学オキシダント 

(Ox)

光化学スモッグの原因となったり、目やのどに影響を与えたりする
二酸化窒素 酸性雨や光化学スモッグ、呼吸器疾患の原因になる
浮遊粒子状物質 肺など呼吸器に蓄積し、呼吸器疾患の原因になる
二酸化硫黄 呼吸器疾患の原因となったり、動植物に悪影響を及ぼしたりする
一酸化炭素 血液中の酸素濃度が低下し、酸欠状態を引き起こす
 

日本では、大気汚染防止法に基づいて常に大気汚染物質のモニタリングが行われている。ここでは、環境省による令和2年の測定結果をもとに、日本における大気汚染の現状を説明する。

微粒子状物質(PM2.5)はやや改善傾向にある

微粒子状物質(PM2.5)の測定結果は以下のとおりだ。令和元年度に比べると、環境基準達成率はほぼ横ばい、年平均値は改善傾向という結果だった。

  令和2年度 令和元年度
環境基準達成率(一般局) 98.3 98.7%
環境基準達成率(自排局) 98.3 98.3%
全測定局の年平均値(一般局) 9.5μg/m3 9.8μg/m3
全測定局の年平均値(自排局) 10.0μg/m3 10.4μg/m3

出典:「令和2年度 大気汚染状況について」(環境省)

環境基準達成率とは、全国の都道府県に設置されたPM2.5の有効な測定局の中で、大気汚染の環境基準をクリアした測定局の割合を意味する。また、年平均値とは、測定局全体の微小粒子状物質濃度の年平均値のことだ。

なお、一般局とは一般環境大気測定局を、自排局とは自動車排出ガス測定局を意味する。

一般環境大気測定局 ・一般的な大気汚染の状況を把握するために設置する測定局 

・特に汚染が発生しやすい場所と、一般的な大気状況と考えられる場所の2種類に設置する

自動車排出ガス測定局 ・自動車から排出される大気汚染物質の状況を把握する測定局 

・自動車の排出ガスの影響が出やすい道路のそばなどに設置する

光化学オキシダント(Ox)はほぼ横ばい

光化学オキシダント(Ox)に関する測定結果は以下のとおりだ。前年度とほぼ横ばいで、環境基準達成率は依然として極めて低いのが実情だ。

  令和2年度 令和元年度
環境基準達成率(一般局) 0.2 0.2%
環境基準達成率(自排局) 0 0%

出典:「令和2年度 大気汚染状況について」(環境省)

特に関東地域や阪神地域は、注意警報発令レベルの超過割合が多い地域だ。注意警報発令レベルとは、1時間当たりの光化学オキシダントの濃度が0.12ppm 以上になり、気象条件を踏まえると、濃度の高い状態が継続すると考えられる場合を意味する。

なお、1時間当たりの光化学オキシダントの濃度が0.24ppm 以上になると、警報レベルになる。いずれも、該当する場合は、都道府県知事が注意報または警報を発令する。

そのほか大気汚染物質はやや改善傾向にある

そのほかの大気汚染物質については、近年、緩やかな低下傾向にあるといえる。まとめて結果を確認しておこう。

  令和2年度 令和元年度
二酸化窒素の 

環境基準達成率(一般局)

100 100%
二酸化窒素の 

環境基準達成率(自排局)

100 100%
浮遊粒子状物質の 

環境基準達成率(一般局)

99.9 100%
浮遊粒子状物質の 

環境基準達成率(自排局)

100 100%
二酸化硫黄の 

環境基準達成率(一般局)

99.7 99.8%
二酸化硫黄の 

環境基準達成率(自排局)

100 100%
一酸化炭素の 

環境基準達成率(一般局)

100 100%
一酸化炭素の 

環境基準達成率(自排局)

100 100%

出典:「令和2年度 大気汚染状況について」(環境省)

大気汚染の原因は“人間の社会活動”によるもの

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大気汚染に関連する有害物質のほとんどは、私たちの社会活動によって排出されている。例えば、1980年代頃までは工場地帯では二酸化硫黄が排出されていた。ディーゼル車による二酸化窒素や浮遊粒子状物質の排出も懸念されている。

以下で、もう少し詳しく大気汚染の主な原因について確認してみよう。

工場の生産活動によって大気汚染物質が排出される

工場の生産活動によって排出されるばいじんや粉じんなどは、大気汚染の主な原因のひとつだ。

ばいじんや粉じんの発生原因は、以下のとおりだ。発生後は、直径が10μm以下で浮遊粒子状物質、直径が2.5μm以下になるとPM2.5と分類されることもある。

ばいじん 工場で燃料などを燃焼させる際に、排気の処理が不十分だと発生
粉じん 原料や廃棄物などの破砕や選別作業によって発生

日本では、特に1960年代から1980年代にかけて問題になったが、近年は工業化が急速に進んだアジア諸国での排出が深刻だ。

自動車の使用で大気汚染物質が排出される

自動車を使用した際の排ガス内にも、二酸化窒素や浮遊粒子状物質などの大気汚染物質が多く含まれている。特にディーゼル車では、汚染物質を大量に発生させやすい。

交通量の多い都市部や、中国やインドなどの新興国では、自動車による大気汚染が悪化している。これらの大気汚染物質は、呼吸器系の疾患の原因となったり、発がん性がある可能性があったりすることから、対策が急がれる。

日本における大気汚染への取り組み

大気汚染 現状 3.jpg

大気汚染を解決するために、日本でも以下のような取り組みが行われている。

具体的にどのような取り組みなのか、見ていこう。

1.渋滞を防ぐ

効果的な大気汚染への対策のひとつが、交通の流れを改善して、渋滞が起きないようにすることだ。

◆渋滞緩和対策の例

・バイパスを整備する

・信号の切り替えなどの交通管制を最適化し、スムーズな交通を実現する

渋滞が起こると、大気汚染物質の発生源であるエンジンのかかった自動車が、大量に一箇所にとどまり続けることになる。これにともない、沿道の住民などへの悪影響が大きくなってしまう。

できるだけ渋滞を発生させないことで、まとまった大気汚染物質の発生を抑え、深刻な大気汚染への発展を防止できる。

2.公共交通機関の利用を促進させる

公共交通機関の利用を促進させることも、大気汚染物質の排出を軽減させる対策として有効といえる。公共交通機関を利用する人が増えることで、交通量の総量を削減できるからだ。

具体的な対策として、公共車両優先システム(PTPS)が挙げられる。

公共車両優先システム(PTPS)とは、バスのような公共車両が優先的に走行できるようにする仕組みのことだ。優先レーンや専用レーンの設置、優先的な信号制御などが挙げられる。

3.物流を効率化させる

共同配送を行うことで物流を効率化させる取り組みも、大気汚染緩和対策の一環として実施されている。共同配送とは、複数の運送会社で共同して荷物を運ぶことを意味する。

荷物をできるだけまとめて配送することで、運行するトラックなどの台数を減らし、大気汚染物質の発生を抑制できる。

大気汚染の対策は国単位の問題ではない

大気汚染の対策は、国単位で切り離して考えることはできない。大気汚染を減らすためには、世界中で協力する必要がある。

SDGsでも、大気汚染の解決を目標に掲げている。目標3「すべての人に健康と福祉を」と、目標13「気候変動に具体的な対策を」だ。

さらに、地球環境の改善について考えるなら、大気だけでなく水や土壌汚染についても、同じく考えていく必要があるだろう。

水質汚染の問題については、以下の記事でわかりやすくまとめている。あわせて、確認してみよう。

「他人事ではない水質汚染の問題|今日からできる水環境改善の取り組み」

まとめ

人間の活動によって深刻化している大気汚染は、健康被害・動植物への悪影響などを引き起こす、速やかに解決すべき問題だ。すでに多くの対策が行われているが、今後も、私たち個々人が取り組んでいくべきといえるだろう。

協和キリンでも、大気汚染に関する対策を行っている。燃料の転換や、大気汚染を発生させない設備を整備することで、硫黄酸化物・窒素酸化物・ばいじんの排出量を、低いレベルで維持している。

詳しい取り組みについては、こちらもあわせてご確認いただきたい。

「大気汚染防止への取り組み」