SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)について調べていく中で、ウェディングケーキのような形をした画像を目にしたこともあるだろう。SDGsのそれぞれの目標は、ウェディングケーキモデルとして3つの階層に分類できる。

この記事では、SDGsにおけるウェディングケーキモデルの概要と階層ごとの目標について、事例を交えながら紹介していく。

SDGsの目標は「ウェディングケーキ」のような構造になっている

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出典:「The SDGs wedding cake」(Stockholm Resilience Center)

持続可能な世界を目指す国際目標であるSDGsは17の目標で構成されている。17の目標は相互に関係しているが、それぞれの目標を単純に並べただけでは関係性がわかりにくい。

そこで、SDGsの17の目標の関係性をわかりやすく図に示したものがSDGsウェディングケーキモデルだ。同モデルは、ストックホルム・レジリエンスセンターが提案したもので、さまざまな場所で引用されている。

SDGsウェディングケーキモデルの頂点にくるのが目標17だ。下から、「生物圏」「社会圏」「経済圏」の3つの階層が構成される形となっている。

SDGsウェディングケーキを構成する3つの階層

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SDGsウェディングケーキモデルの3つの階層がSDGsのどの目標で構成されているのか、それぞれの階層について見ていこう。

【生物圏】人々が生きるための環境を守る目標

生態圏は、SDGsウェディングケーキモデルの一番下の層だ。ケーキの土台として、上の社会圏や経済圏を支える形で存在している。

生態圏に分類されるSDGsの17の目標は、以下の4つの目標だ。

・目標6「安全な水とトイレを世界中に」

・目標13「気候変動に具体的な対策を」

・目標14「海の豊かさを守ろう」

・目標15「陸の豊かさも守ろう」

いずれも、自然環境に深い関わりのある目標で、社会や経済は自然環境によって成り立っていることを意味する。SDGsの達成によって目指す社会は、自然環境の持続可能性をベースに作られており、あらゆる持続可能性の大前提になっているという構想だ。

【社会圏】不自由なく生活できる社会をつくる目標

SDGsウェディングケーキモデルの中間層に位置するのが社会圏だ。社会圏は社会と深いかかわりのある以下8つの目標で構成されている。

・目標1「貧困をなくそう」

・目標2「飢餓をゼロに」

・目標3「すべての人に健康と福祉を」

・目標4「質の高い教育をみんなに」

・目標5「ジェンダー平等を実現しよう」

・目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」

・目標11「住み続けられるまちづくりを」

・目標16「平和と公正をすべての人に」

SDGsウェディングケーキモデルは、社会圏が一番下の層である環境圏に支えられて成り立っているという構造を示している。

【経済圏】豊かな経済発展に必要な目標

SDGsウェディングケーキモデルの3層構造の上層にくるのが、経済圏だ。経済圏は、SDGsの17の目標のうち、以下4つの目標で構成されている。

・目標8「働きがいも経済成長も」

・目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」

・目標10「人や国の不平等をなくそう」

・目標12「つくる責任 つかう責任」

経済圏は社会圏の上に位置する形で存在し、社会が経済を支えていることを示している。

ここまでSDGsウェディングケーキモデルの3つの階層に分類される目標の特徴について見てきたが、それぞれの階層は独立して存在しているわけではない。ウェディングケーキモデルが示すように、3つの階層は縦にもつながっている。

モデルのように環境、社会、経済が支えられている構造を理解し、さらに3つを調和させることがSDGsの達成のためには重要だ。これを示すように、経済圏の上には、協力を示す目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」が位置している。

SDGsウェディングケーキの構造を事例から理解しよう

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SDGsウェディングケーキは、生物圏、社会圏、経済圏の3つの階層があり、それぞれの要素が調和することでSDGsの目標達成に近づくと説明した。

生物圏、社会圏、経済圏に関する3つの課題や目標を総合的に解決していく取り組みは、さまざまな組織で行われている。ここでは、佐賀県鹿島市と石川県珠洲市のふたつの事例を見ていこう。

佐賀県鹿島市の事例

佐賀県鹿島市は、有明海に面した土地だ。以前は、豊富な水産物により、多くの人がその恵みを受けてきた。

しかし、有明海の水質や底質の悪化などの原因により干潟の生き物が減り、漁業従事者も減少した。さらには、ライフスタイルの変化もあり、地域住民と干潟との関わりも希薄になっていた。

地域では、環境の変化などを受けて干潟の回復に向け調査や対策を実施してきたものの、予算や人材の制約などもあり、なかなか回復まで実を結ばずにいた。

そこで鹿島市が注目したのが、直接的な干潟の保全だけでなく、社会や経済とのつながりだ。

同市では、社会や経済への働きかけとして、イベントを開催して干潟に触れる機会を創出したり、海産物や農産物の販売利益を干潟保存活動に還元したりする取り組みなどを実施してきた。

以前の状態までの回復には至っていないものの、同市の取り組みにより干潟保全の必要性の認知が拡大し、干潟の環境は回復の兆しを見せつつある。

石川県珠洲市の事例

石川県珠洲市にある「能登の里山里海」では、ユネスコの無形文化遺産でもある「あえのこと」や日本で唯一の「揚げ浜式製塩」などが受け継がれてきた。これらの自然と調和した暮らしをまとめて、2011年6月に世界農業遺産に認定されている。

認定を機に市として里山の環境保全に取り組んできたが、市の社会や経済の統合的な解決を図る仕組みづくりが必要とされ、2016年から新たな取り組みが始まった。

3年の実証事業として行われたのが、環境に配慮した栽培やコミュニティの活性化など各市区における支援だ。実証事業の中で、環境を守りつつ社会や経済への効果を波及させるには、市の予算や人材の確保の根拠を明確にする必要性が認識された。

これにより、同市では2018年3月に「生物文化多様性基本条約」を制定する。

生物文化多様性基本条約では、同市の生物文化多様性の保全と持続可能性、各主体の責任を定めて自然と共生できる持続可能なまちづくりを進めることを目的に、市の責務や事業者の責務などが明確化された。

身近な水辺に棲むホタルやドジョウ、時折飛来するトキやコウノトリをはじめとする生物多様性による文化や生業を含め、環境を保全する姿勢を明確にした全国初の条例である。環境面の改善には、社会や経済の課題も同時に解決することが重要だという認識が条例制定の背景にあった。

日本の課題は「生物圏」!社会・経済面も考慮した解決策が必要

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日本においては、以下5つの目標において深刻な課題があるとされている。

・目標5「ジェンダー平等を実現しよう」

・目標13「気候変動に具体的な対策を」

・目標14「海の豊かさを守ろう」

・目標15「陸の豊かさも守ろう」

・目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」

2021年報告書において、目標5と目標17は向上、目標13と14は現状維持の結果だったが、目標15においては状況が悪化していることがわかった。保護された陸地や内陸水面の面積が減少したことが主な原因だ。

目標15を含め、生活の土台となる「生物圏」に分類される目標には未だ課題が多いことがわかる。

今回、SDGsウェディングケーキの構造でも説明したように、SDGsの17の目標は、生物圏に分類される目標をベースに、社会圏、経済圏と関連が深い。

生物圏にある環境保全ばかりに目を向けるのではなく、課題の背景にある社会状況、経済面の制約についても考えていくことが大切だ。

まとめ

SDGsの17の目標の関係性は、ストックホルム・レジリエンスセンターの提案したSDGsのウェディングケーキのような構造で説明できる。

このウェディングケーキモデルからわかるのは、生物圏、社会圏、経済圏がそれぞれ関わりをもっており、生物圏が社会圏を、社会圏が経済圏を支える関係にあることだ。

しかし、ベースに生物圏があるといっても、SDGsを達成するためには生物圏だけに注力してもうまくいかない。今回取り上げた事例のように、社会や経済に目を向けて総合的に取り組みを行っていく必要がある。

SDGsの達成について考えるなら、一人ひとりがSDGsの目標の関係性やウェディングケーキの構造を理解し、行動していくことが重要だ。