近年、SDGsに関心を寄せる企業が増えている。では次代を担う若者は、SDGsや企業の取り組みについてどう考え、自身の選択に活かしているのだろうか。

今回は、SDGsの実践者として国連開発計画(UNDP)総裁特別顧問も務めた法政大学の弓削教授と、そのゼミに所属する大学生3名にインタビュー。SDGsに関心の強い学生が、職業選択についてどう考えているのか、就職活動の現状や将来への想いについて聞いた。

前回のインタビュー記事はこちら
「誰も取り残されない社会へ」国際活動に取り組む大学生に聞いた”日本の今”

【インタビュイー紹介】
弓削昭子(ゆげ あきこ)先生 

法政大学 法学部 国際政治学科教授

米国コロンビア大学教養学部卒、ニューヨーク大学大学院で開発経済学修士号取得。国連開発計画(UNDP)インドネシア事務所常駐副代表、ブータン事務所常駐代表、ニューヨーク本部管理局長・国連事務次長補、駐日代表・総裁特別顧問を務めた。フェリス女学院大学国際交流学部教授として3年間勤務。2014年より現職。

小川泰史(おがわ たいし)さん

法政大学 法学部 国際政治学科 4回生 弓削ゼミ (元ゼミ長)

3年次には、前年度ゼミ長のスキルや力量に憧れ、ゼミ長に立候補。SDGsでは特に水分野に関心をもち、インドネシアの水問題について調査。

加瀬貴哉(かせ たかや)さん

法政大学 法学部 国際政治学科 4回生 弓削ゼミ (元副ゼミ長)

「挑戦できる人が成長できる」をモットーに、3年次は副ゼミ長に立候補。SDGsでは自国で食料を生産するための農業をもっと知ろうと、研究を進めている。

田中美帆(たなか みほ)さん 

法政大学 法学部 国際政治学科 4回生 弓削ゼミ (元副ゼミ長)

弓削ゼミの、個性豊かで楽しく勉強できる環境が好きで3年次は副ゼミ長に志願。教育分野に興味があり、「世界の子どもたちが選択肢をもてる世界を作りたい」と考えている。

“SDGs”という概念がなくなるぐらい、取り組んでいることが当たり前になる未来を目指して

―大学時代のゼミ活動を通して、SDGs達成についてどのような思いで取り組んできましたか。

小川さん:

SDGs達成のためには地球人として捉えることが大事だと思っています。国や企業といった区切りではなく、全員が一丸となって取り組んでいく必要があります。日本の企業が日本の課題に対して取り組むのも大事ですが、国内と海外という両方の視点でみることが大切です。

加瀬さん:

SDGsがもっとみんなにとって当たり前にならなければならないと思っています。今はまだ、企業が世の中からの信頼を獲得するためにSDGsに取り組んでいる例があるなど、SDGsが当たり前になっていない証拠だなと感じています。もはやSDGsの概念がなくなるぐらい、取り組んでいることが当たり前になる未来を期待しています。

田中さん:

若い世代がSDGsの学びを深めていくことで、『SDGsは難しいし、遠い世界だ』というイメージを払拭したいです。私たちにとって身近にできることはたくさんあって、一地球人として、より楽しみながら取り組んでいきたいです。

―ゼミ生にSDGsを教えるうえで大切にしていることはありますか。

弓削先生:

ゼミで大事にしていることは理論と実践です。つまり、教室で勉強していることと、現実の世界で起こっていることがリンクしていることです。『レポートにはこう書いてあるが、実際に現場で起こっていることはどうだ』ということをつなげて考えることを大事にしています。

また、SDGsのテーマを理解するだけにとどまらず、何が課題で、誰が何をどういうふうにすればいいのかというアクションも併せて考えています。あらゆる関係者がパートナーシップを組んでいくことによって、より大きな影響を与えていけるはずなので、そのことをロールプレイを通じて学んでいます。

私から一方向に知識を学生に教えるだけではなく、ゼミ生が自ら深く学ぶ姿勢を持ってテーマを追究していくことを説いていくことも重要です。

学生の職業選択における”SDGs”の重要性とは

―社会人になるにあたって、どのようなビジョンをお持ちでしょうか。

小川さん:

地球にいる誰もが、生まれた場所や環境に縛られず、選択肢のある人生を送れる時代にしたいです。以前に途上国に行った際に、ただお金がないだけじゃなく、私にとってあって当たり前だと思っていた生活ができていない人々がいることを知りました。貧困の現実を目の当たりにしたことで、生活の基盤となるインフラづくりに携わりたいと思うようになりました。少しでも世界中に生活基盤のインフラを通せるような人材になりたいです。

加瀬さん:

SDGsを当たり前にするということがビジョンです。それを実現する選択肢として、企業としてできること、そして個人だからできることがあると考えています。

まず企業としてできることですが、私は第1志望であるテーマパークに入社し、新規事業を行う会社に対して投資をするベンチャーキャピタル部門で働きたいと思っています。そして立ち上げた新規事業を、いずれテーマパークの一つとして取り込んでいきたいです。色々な年代の人が訪れるテーマパークだからこそ、取り組めることがあると思います。

一方、個人としては、SDGsとビジネスの掛け合わせができる人になりたいです。企業は当然利益を求めるので、大きな会社ほど自分の意見は届かないことも多いと思いますが、副業など個人として動いていければいいなと考えています。

田中さん:

企業活動において、SDGsの継続的な取り組みを実践していくことです。SDGsという認知が広がるほど、タグ付けのようになり、実態が形骸化している気がしていました。だからこそ、17つのゴールの中で、169のどの取り組みに貢献するのか、どんな成果が上がっているのか、具体的な部分まで突き詰めたアクションを継続していきたいです。

―SDGsについて学んできたことは、就職活動の中でどのように活きていますか。

小川さん:

就職活動では、個人の興味関心をベースに、やりたいことを突き詰めていくことを大切にしていました。私自身はもともと社会問題の解決を目的としていましたが、そもそも企業の存在価値が社会問題の解決なのだと気づき、今は自分の興味関心を大切に、就職活動をしています。自分の興味のある分野で活躍していくことが大切だと思います。

また、インターンにいくことや実際にその企業で働いている人の話を聞いて情報収集もしています。インフラ関連の企業を例に挙げると、国内外でインフラ整備に取り組んでいるといっても、実際は国内での取り組みがほとんどのケースがありました。そこで、実際働いている人に直接質問して自分の肌感で情報をつかんでいくことを大切にしています。私個人としては、国内よりも海外に主軸を置いている会社を重要視しています。

加瀬さん:

その取り組みが一過性のものかどうかを見極めることです。「SDGsに取り組んでいる企業が一番、持続可能性がない」というブラックジョークも聞いたことがあります。CSRの観点だけでなく、そのSDGsの取り組みが自社のためでもあり、世の中のためでもあるというサイクルができている会社なのかに着目しています。

そのために、株主に対するIR資料の、SDGsやCSR部分をチェックしますし、具体的な取り組みや今後の計画について採用面接で質問をぶつけています。

田中さん:

ゼミの先輩にはNPOや国際的なキャリアを選んでいる人が多く、実際の経験者からの話を聞けたのが大きかったです。現在、SDGsに直接関連する仕事をしていなくても、高い視座を持って自身の仕事の中でSDGsの達成に貢献できることは何かを考えてらっしゃる方が多いので、大変学びになりました。

企業のSDGsに関連する活動について、必ずデータを見るようにしていました。企業の活動に関する記事を見るときも、それが一度だけじゃなく継続的な取り組みであるかどうかなど、CSRの効果として数字を確認しています。

また、OBOG訪問で具体的な企業の事業活動内容を聞いて、誰でもチャレンジできる環境かどうか、肌感で確かめています。

誰かが世界を変えてくれるのを待つのではなく、世界を変えることは自分にもできるのだ

―SDGs達成において、日本企業としての課題は何だと感じますか

小川さん:

そもそも国民のSDGsに対する理解を深めていく必要があると思います。国民がいかに興味をもってSDGsを理解できるかどうかが、社会的に良いものに対して投資をしていくことにつながると考えています。

加瀬さん:

ふたつあると考えています。まずひとつ目は、企業がSDGsに取り組むことに対するビジョンがないことです。だから組織内に浸透できないですし、もしビジョンがあったとしても、その理由とともに組織内に浸透できている会社が少ないのではないかと考えています。

ふたつ目は、中小企業のSDGsに対する理解不足です。日本企業の大部分は中小企業なので、中小企業がSDGsに取り組んでいくことは必要不可欠です。そのためには、中小企業でもSDGsに取り組めるような枠組みを整えていくことも大切だと考えています。

田中さん:

企業は、SDGs達成の取り組みにおける日本の遅れを認識すべきだと思います。企業は利益を出さなければならないので、SDGsとの両立が難しいと思われがちですが、そもそも会社の存在意義は社会問題の解決なのだから、目的はリンクするはずです。

―ご自身のこれからのキャリア目標について、聞かせてください。

小川さん:

世界中のだれもが、どんな環境にいたとしても、いい人生だったと思える世界、選択肢のある人生だったと思える世界にするために、世界の生活インフラ整備を通じて役に立ちたいです。

そして、まだまだ日本は海外に対する意識が低いので、国際協力を日本の文化にしたいです。日本よりも貧しい国はいっぱいありますし、さらに人口が減少していく日本にとって外国人との共生は必須になります。だからこそ国際協力を通じて貢献をしていくことは、日本にとっても良いことだと信じています。

加瀬さん:

何歳になっても今が一番楽しいといえる社会人になりたいです。自分が楽しいと思えるには、人の心を明るくできることと、自分のやりたいことをやることが大切だと思っています。だからSDGsとビジネスをつなげる成功例を作って、SDGsを当たり前にして、人の心を明るくする社会人になります。

田中さん:

まだまだ日本は男女格差があると思うので、私が活躍することで、女性だからとか関係なく、一個人として可能性があるのだということを示すロールモデルになりたいです。

また、自分の行動が、社会にどういう影響を与えるのかを理解している社会人になりたいです。SDGsは一人でも取り組めるので、我慢ではなく、楽しいことに変える工夫をしながら、社会貢献に取り組んでいきます。

―最後に、社会人になっていく学生たちへ一言お願いします。

弓削先生:

みんなが『世界の中の日本であり、世界の中の私である』という意識を持ち、一人の地球市民として何ができるのかを考えていくことが大切です。

SDGsは取り組もうと思ったら、どこにいたとしても、どんな立場からでも、何からでも取り組むことができます。社会人になって、転職してもいいし、いろんな形で立場を変えたとしても、選択肢は沢山あり、SDGsの達成を目指していくことはできると思います。せっかく大学でSDGsを学んだのであれば、一過性のものではなく、継続的に一人の地球人として活動することを期待しています。

一人でもできることは限りなくあります。仲間を作って進めてもいいし、できないことは何ひとつありません。誰かが世界を変えてくれるのを待つのではなく、世界を変えることは自分にもできるのだということです。自分が大切に思っていることを、関心のある分野で、例えほかの人が誰一人やっていなかったとしても、自分らしいやり方でやってほしいです。

アクティブの中でもさらにプロアクティブに。そして「目標は高く掲げよ、あなたは世界を変えられます。」