深刻化する「海洋ごみ」。このままごみの流出が続けば、2050年には魚より海洋ごみの量が多くなるとさえ言われている。中でも問題なのが、その大半を占める「プラスチックごみ」だ。そこで今回は、幅広いセクターや世代への働きかけを通じ、ごみのない海を目指して活動するNPO法人UMINARI代表の伊達敬信さんに話を聞いた。

【インタビュイー】

伊達敬信(だて・たかのぶ)

NPO法人UMINARI 代表理事。世界経済フォーラム Expert。海洋プラスチックごみ問題への取り組みを中心に、世代や業界の垣根を越え、幅広い切り口から持続可能な社会の実現に取り組むZ世代である。

あるスニーカーから始まった最初の一歩

―海洋プラスチック問題に興味を持ち、活動を始めたきっかけを教えてください。

インターンとしてアディダスで働いていた2017年、同社がニューヨークの海洋保全団体とのコラボで作ったスニーカーを見たことです。海洋廃棄プラスチックからスニーカーを作るプロジェクトだったのですが、取り組みに興味を持ち、実際に地元の千葉の海辺に行ってみて驚きました。様々なごみが、たくさん落ちていたんです。そこから全国の海岸にゴミ拾いのために足を運ぶようになったのです。

一足のスニーカーを起点に、SNSを通じて想いが広がり、具体的な活動となって海外の海洋団体や国連の職員ともつながりが生まれました。そして世界の多くの人たちと海洋ごみ問題について考えていくにつれて、目指すビジョンが次第に見えてきました。

―どんなビジョンですか?

海のごみが出る過程には、極めて多様なセクターが絡んでいます。にもかかわらず、各々をつなげていくための歯車となる存在がないことに気づき、UMINARIがその役割を担っていきたいと考えたのです。自分たちが大きな主体になるよりも、海洋ごみ問題の関係者をつなぐプラットフォームになりたいと思いました。

―それを踏まえ、現在どのような取り組みに力を入れていますか。

当初から教育事業に注力してきた中で、いま大事にしているのは次世代とのコミュニケーションです。未来の当事者である若い世代からの意見を吸収し、一緒にビジョンの実現を目指していくために、学校への出張授業のほか、学生や企業など幅広いセクターに参加してもらう「u-semi.」を展開しています。

また、「拾う以上のクリーンアップ」をコンセプトに、全国でのBeach Clean活動も継続中です。私たち一人ひとりが拾うごみは、世界中のごみの量からすると微々たるものでしょう。けれども問題に肌で触れる人たちを増やしていくことで、価値観を共有する仲間がコミュニティとなり、周りを巻き込みながら様々なアクションが生まれることに意味があります。

そのほか、今年から「調査研究」事業にも注力しています。海洋ごみ問題はグローバルな視点で捉えられがちですが、一方で日本ならではの解決方法があり、それを現実化するための調査研究の必要性を感じてきました。独自の研究を行っていくとともに、成果の社会実装の検討も積極的に進めていきたいと考えています。

―海洋ごみ問題について、実際に活動してみて分かることは多いでしょうね。

私自身、問題に肌で触れてから気づいたことは多々ありますし、実際に「Beach Cleanに参加してみたら楽しかった」と言われる人は多いです。確かに日々進むのは0.1歩ずつかもしれないけれど、新たなコミュニティから生まれる価値が常に自分を動かしていきながら、気づいたら二歩、三歩と前に進んでいる。それがムーブメントと呼べるものになっていく感覚が活動へのモチベーションになっていますね。

将来、深刻な健康被害が生じる可能性も

―海洋プラスチックが私たちに与える影響を教えてください。

プラスチックには有害物質を吸着する性質があり、それを海の魚が食べているという現実があります。実際に市販の魚の内臓からプラスチックの繊維が見つかった事例も報告されているのです。

怖いのは、その魚を食べたときプラスチック自体は体外に排出されても、吸着した有害物質が体内に残存していくこと。特に未来のある若い世代にとって、将来深刻な健康被害が生じる危険があることを真剣に考えなくてはいけません。

―まさに対策は急務ですが、海洋プラスチック活動を進める上で、どのような課題があるのでしょうか。

活動に必要な、多様なセクターの人たちを動員していくことがまだ十分でない点と、あえて言えば経済性の問題でしょうか。たとえば、海の環境が損なわれる範囲が経済的なコストとしてもっと定量化できれば、多くの人の捉え方も変わってくるかもしれません。現状では、海洋プラスチックの問題解決に取り組むことが、経済的な価値にどう結び付くかがなかなか見えにくい面があるといえますから。

ただ本質的には、短期的かつ定量化が容易な経済性に縛られない解決の構築こそが必要だと私は思います。その上で、経済セクターを巻き込むことを考えるとすれば、そうした“翻訳”がある程度必要という事実も、無視はできないということでしょうか。いずれにせよ、海洋ごみ問題を次のフェーズに乗せていくためにも、こうした点を多様なセクターで議論していくことが必要だと思いますね。

「いい未来」を創るための主役になってほしい

―海洋プラスチック問題の解決に向けて、若い世代ができることを教えてください。

たとえば何かのアクションを起こしたいときに、それ以上のインプットが必要と思う必要はありません。それよりも、まずはやってみる。一歩を踏み出したあと、行動と一緒に少しずつインプットを増やしていくやり方がすごく大事だと思います。

つまり、身近な海でごみをひとつ拾うことでもいい。始めたあとで、少し視野を広げて想いや感想を周囲と議論する。自分だけのアクションで終わらせずに他の人と話をしてみてほしいですし、そうした場づくりを私たちもいっそう進めたいと考えています。

―最後に若い世代の人たちへメッセージをお願いします。

私たちが取り組んでいるのは、「いい未来を創っていこう」という活動です。だからこそ、いい未来の主役であり、当事者となる若い皆さんを起点に活動を進めていきたいとの想いがあります。ぜひ自分たちが未来を作っていくという意識で、僕たちにもどんどん意見してほしい。決して待つのではなく、各々が主体的な気持ちで活動に参加してもらえるとうれしいですね。

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