待ったなしの環境問題に対して、世界はどのように行動しているのでしょうか。海や森の汚染問題、カーボンニュートラル、プラスチック、リデュースとリサイクルなど、様々な問題への国内外の最新の解決策から、未来へのヒントを見つけたいと思います。日本が取り組んでいる環境アクションにはどのようなものがあるのでしょうか。
Pirika
ごみ拾いを“見える化”するソーシャルアプリ
アプリのマップ上にはごみ拾いされた場所に清掃済みのマークが出現し、誰が、何分前に、何個のごみを拾ったのかが、タイムラインのように表示される。
世界111ヵ国以上で利用されているごみ拾いSNS「ピリカ」。2011年に京都大学の研究室から生まれたベンチャー企業〈ピリカ〉が、科学技術の力であらゆる環境問題解決を目指すなかでポイ捨てごみ問題を克服することを目指して開発した、“ごみ拾いを可視化する”アプリだ。
日常の中で、楽しくごみ拾いを。
スマートフォン端末にアプリをダウンロード後、アカウントを設定すると、現在地のマップが現れる。
清掃活動の普及啓発を図るため、自治体や企業が「ピリカ」のごみ拾い活動見える化ウェブサービスを導入する動きも加速している。
投稿用のアイコンを押すとカメラ画面になり、ごみ拾いの様子を記録できるほか、ライブラリからのアップロードも可能だ。
「いいね!」に変わる「ありがとう」ボタンで感謝の気持ちを伝えたり、コメントを残したりすることもできる。
コロナ禍により、ごみ拾いイベントなどは中止されたが、ごみを拾う人の数は2倍、拾われたごみの数も2.5倍増えたという。2021年11月までに、累計2億1000万個のごみが拾われた。
【東京都ほか】WOSH
水が循環する手洗いスタンド
手洗いをはじめると美しい光のリングが現れ、30秒間カウントしてくれるため、衛生習慣を身につけるのに役立つ。
2014年に設立されたベンチャー企業〈WOTA(ウォータ)〉が開発した「WOSH(ウォッシュ)」は、電源さえあれば、水道のない場所にも設置できる水循環型手洗いスタンド。上下水道につなぐ工事も不要で、電源に繋げて水を入れれば設置完了となる。使用した水の98%以上をその場で再生し、20ℓの水で500回以上もの手洗いが可能。水道がない状況下でも継続的に水を利用できるようになる。
深紫外線(UV-C)によるスマートフォン除菌機能付き。
2つの活性炭と、水分子以外の不純物は透過しない性質を持つ“逆浸透膜”の合計3つのフィルターを組み合わせ、ウイルスや不純物を除去する。さらにAIがセンサーと連動し、水質やシステムを常時監視・制御することで水質を保つ。フィルター交換など簡単なメンテナンスのみで運用できるという。
【愛知県】GOOD CYCLE BUILDING
ビルをまるごと循環型素材でリニューアル
オフィスを長く愛着を持って使えるよう、社員たちの手によって土壁が塗られた。Photo:Jumpei Suzuki
大阪に本社を構える建設会社・淺沼組が、築30年の名古屋支店をビル一棟まるごとリニューアルした。人間にも地球にもよい循環をつくり上げることを目指す「GOOD CYCLE BUILDING」の第一弾だ。
Photo:Jumpei Suzuki
このプロジェクトは従来のようなスクラップ・アンド・ビルド方式ではなく、ビルの既存躯体を活かした設計や、循環型素材の活用により、環境に配慮しながらビルをリニューアルするというもの。新築で建設する場合に比べ、製造・建設時のCO₂排出量を約85%削減することに成功したという。
Photo:Jumpei Suzuki
ビル正面の外壁面を後退させ、各階に庇の深いベランダ空間を創出、自然光や風を取り込む設計になっている。
Photo:Jumpei Suzuki
持続可能な森林管理を行う奈良・吉野の森から得た木材を、転用可能性を見越して使用したほか、通常であれば廃棄物となる建設残土をアップサイクルして土壁に利用。
Photo:Jumpei Suzuki
いずれ建物が寿命を迎えたときには土に還るような建築を目指した。
廃材や廃プラスチックをアップサイクルした家具も設置。Photo:Jumpei Suzuki
また、自然素材だけを原料とする「還土ブロック」や、環境配慮型コンクリート、廃プラスチックをアップサイクルした家具などのプロダクトを実用化し、今後さらに展開をはかる。
【長崎県】Waste Grass Beach
人工ガラス砂で、“メタボ”な湾を水質改善
長崎県による環境保全の取り組み「長崎県リサイクル製品等認定制度」の認定品である廃ガラスを使った人工の再生砂を使用。写真提供:大村市観光振興課
長崎県中央部にある大村湾の海辺の一角に、きらきら輝く小さなガラスが敷き詰められた砂浜がある。実はこれ、湾内の自然環境を取り戻すための取り組み。2000年頃の大村湾は、生活排水などに含まれている栄養が溜まり、湾内が健康でいられない“メタボ”な状態だった。さらに、蓄積された栄養を分解するために海中の酸素が奪われ、魚介類が住みづらい海になっていた。
粒の大きさを揃えて、砂浜に撒いた。写真提供:大村市観光振興課
そこで、水質改善効果があるアサリを育てるため、生き物が住みやすい海岸を整備。浅瀬のコンテナに廃ガラスの人工砂を入れて試験したところ、アサリの赤ちゃんは天然砂と同じように自然着底して成長するとわかり、ガラスを使って砂浜を造成した。水質改善しながら、地元に愛される湾を取り戻していく。
長崎県 県民生活環境部 地域環境課
☎095-895-2355
【東京都ほか】CO₂-SUICOM®
製造時にCO₂を吸い込むコンクリート
2011年より商品化し、すでに実用化が進んでいる。
コンクリートは、主原料であるセメントの製造時に大量のCO₂を排出してしまう。その課題を解決するため、鹿島建設、中国電力、デンカ、ランデスの4社共同で開発したのが、「CO₂-SUICOM®」だ。
2012年施工の〈Brillia ist(ブリリアイスト)中野セントラルパーク〉。
コンクリートが固まる過程でCO₂を吸い込み、中に固定することができる技術で、排出するCO₂よりも吸収するCO₂が多い、“カーボンネガティブ”を実現する。
開発に携わった、鹿島建設の渡邉賢三さん。
セメントは水と反応することで固まる性質があるが、γ-C₂S(ガンマシーツーエス)という特殊混和材を固定材の一部に使用することで、水ではなく、CO₂と反応して硬化。
1㎥で18kgのCO₂を吸収・固定できるといい、20mの高さまで成長した杉の木が1年間で吸い込むCO₂の量とほぼ同等である。
www.kajima.co.jp/tech/katri/special/carbon_neutral
●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
※本記事で紹介している商品の価格は一部を除き消費税を含んだ金額です。なお一部の商品については税込価格かどうか不明のものもございますのでご了承ください。
Text:Chihiro Kurimoto Edit:Asuka Ochi