人、地球、動物への影響の観点からファッションブランドを評価するアプリ「Good On You」。このアプリを開発した企業の共同創業者サンドラ・カッポーニにインタビューした。
安価なファストファッションへの依存がもたらす最悪の影響は何ですか?
安価なファストファッションを大量に生産しようという世間の圧力は、人や地球に破滅的な影響を及ぼします。ファッション業界は、有害な化学物質や農薬、合成繊維の過度な使用により、世界で最も環境汚染を起こしている業界の一つとなっています。また、たくさんの服を買うということは、それだけたくさんの服を捨てるということであり、繊維製品の廃棄物も大きな問題となっています。
しかし、私が心から憤りを覚えるのは人的な影響についてです。衣料品業界で働く世界何百万人もの人々にとって、不公平な賃金体系や危険な労働環境はごく当たり前のことで、働く人の大半は女性で、子どもたちも働かされている実態もあります。2013年には、バングラデシュにある縫製工場併設の商業ビル「ラナ・プラザ」が崩壊し、ファストファッションを生産する同工場で働いていた1000名以上が亡くなりました。これは、史上最悪の惨事です。
グリーンウォッシュ(あたかも環境に配慮しているかのように見せること)によって持続可能であるかのように見せているブランドと本当に持続可能なブランドを見分けるには、私たち消費者はどうすれば良いでしょうか?
実際は環境破壊をするようなやり方で事業を行っていながら、巧妙なマーケティングで環境に配慮した企業としての地位を確立しようとする企業は多く、本当に持続可能なブランドを見分けるのは至難の業です。
再生材を用いた包装やソーラーパネルといった取り組みは、初めの一歩ではありますが、それだけでは全く不十分です。各ブランドは本来、サプライチェーン全体を通して、自社の生産活動による影響の測定、評価、報告を行うべきです。その中において、資源や水、化学物質の使用のみならず、炭素排出量や繊維製品の廃棄物の削減にも取り組む必要があります。
当社のアプリは、こうした重要な課題に対する各ブランドの取り組みを消費者に知ってもらうために作られました。取り組みが不十分なブランドが多数ある中、正しい取り組みをしているブランドもたくさんあります。私たち一人一人が、グリーンウォッシュを見抜き、自分たちにとっても地球にとっても望ましい選択をするべきです。
貴社のアプリでは、持続可能性に関する各種認証やブランドが自ら提供しているデータに基づいて企業の評価を行っていますが、これらの認証やデータの信ぴょう性、特に企業が自己申告する内容の信ぴょう性については、どのように評価しているのですか?
当社の評価システムでは、一般に公開されている信用できる情報を収集し、ブランドが人や環境、生態に対して及ぼす影響を評価しています。
当社の専門家チームは、重要課題への影響を測る指標となる基準や認証制度の中でも特に重要なものを把握するため、業界内のさまざまなステークホルダーから定期的に意見を聞いています。
また、倫理的な事業活動やその実績について各社が自ら公開している報告内容にも目を通しています。透明性こそが持続可能の実現に向けた第一歩であり、消費者には知る権利があると考えているので、ブランドから情報を直接受け取ることはしていません。また、その情報を公にすることにより、各ブランドは自社の言動に責任を持つようになると思います。
ファッション業界の労働環境や労働者の権利は現状どうなっていますか?
労働者の権利に関しては、解決にはほど遠く、ファッション業界の負の側面ならすぐにでも指摘できてしまうのが現状です。世界で最も貧しい人々の中には、いまだに世界中のサプライチェーン上で搾取的な労働をしいられ、ファストファッションの最終的な代償を払わされている人たちがいます。この問題の大きさや複雑さには、呆然とするばかりです。
しかし、良い変化の兆しが現れているのも確かです。大小問わずブランド各社が労働者を守るため意義ある行動を起こそうとしているのです。具体的には、各サプライヤーの実態を把握し、生産の全段階で生活賃金の支払いを保証するなどの動きが見られます。現在、ファッションブランド大手100社のうち3分の1の企業は、一次サプライヤーのリストを公開しています。これは、ほんの数年前までは聞いたこともないような取り組みです。
服の作り手に関する情報開示をブランドに求める「ファッションレボリューション」のような運動の盛り上がりとともに、消費者の意識や積極性も向上しています。こうした動きは、当社のアプリを使って倫理性の評価を確認し、より良いブランドを探す人が増えていることからも見て取れます。ファッション業界をより良い方向に変える力を消費者が手にするということになるので、未来に希望が持てます。
環境負荷を軽減するためにブランドが行っている取り組みには、主にどのような傾向がありますか?
ファッション業界における環境問題は、非常に複雑です。当社は、ブランドによる資源やエネルギー、水、化学物質の使用が、環境への影響を引き起こす主な原因であると考えています。業界トップのブランドは、認証を受けた環境に優しい有機素材を使用するほか、エネルギーや水の消費量を削減したり、生産プロセスでの有害な化学物質の使用を廃止したりもしています。これらの企業は大きな目標を掲げ、その目標に対して情報開示を行っています。
中でも特に革新的なブランドは、調達からデザイン、製造、使用後までの各段階で循環型のアプローチをとっています。G-Starは最近、世界で最も持続可能なデニム生地を発表しました。またC&Aは、サステナビリティ認証「Cradle 2 Cradle(ゆりかごからゆりかごへ)」のゴールド認証を世界で初めて取得したジーンズを発表しました。生産プロセスにおける良い循環を達成するため、繊維製品の廃棄物をリサイクルするというイノベーションも生まれており、ファッションの持続可能性に実質的な変革をもたらす可能性があります。
個人的にお気に入りの持続可能なブランドを教えてください。
魅力的なストーリーを持つブランドを見つけるのは好きですね。持続可能なファッションでもおしゃれを楽しむことはできるし、人や環境を犠牲にする必要はないということを教えてくれるデザイナーは世の中にたくさんいます。
先日、少しベルリンを訪れた際にも、現地での生産にこだわって何シーズンも着られる先鋭的な衣服を作るFormatや、お手軽な上品さと環境への配慮を持ったデザインを生み出すLaniusといった素晴らしいブランドに出会いました。
私の地元のメルボルンなら、A.BCHやLoiz Hazelなどがベーシックなオリジナル品を作る高級ブランドの中で特にお気に入りです。
MUD JeansのジーンズやKowtowのシャツも好きですし、Vejaのスニーカーもよく履きますよ。
ブランドや小売業者は、貴社の評価システムをどのように利用できますか?
ブランドや小売業者は、倫理性をアピールして倫理観の高い消費者にリーチするために、いくつかの形でGood On Youを利用しています。消費者の期待が高まりつつあることは多くのブランドが認識していますが、主に自社の主張を消費者に信用してもらえないことから、倫理性をアピールする取り組みに苦戦しています。当社は信ぴょう性の高い評価を行うことで、ブランドや小売業者と消費者を繋ぐ手助けをしています。
当社の評価システムで「Good(良い)」や「Great(とても良い)」の評価を受けたブランドは、当社のマーケティングプラットフォームから、多くの利用者やフォロワーに向けてポジティブなブランドストーリーを発信することが可能です。
小売業者も、当社のアプリを使って2000を超えるブランド評価を集約したデータベースにアクセスし、自社店舗で販売するブランドの倫理的取り組みの実績を把握したり、仕入れるブランドの選定に役立てたりすることができます。
より良い消費者になりたいと思っている方へのアドバイスをお願いします。
まずは、購入する時のあなた自身の判断が、重大な問題に立ち向かうことになるんだということを意識してください。他人に責任転嫁したり、個人レベルの行動では所詮無意味だと考えたりしがちですが、個人の行動にこそ意味があるのです。すべては皆さんから始まります。
購入量を減らすことは、分かりやすく重要な一歩です。現在のように大量生産・大量消費を続けていけば、必ず世界に破滅的な影響を及ぼすことになります。古くなった衣服は、別の物に作り変えるか、友達と交換するか、古着屋に売るように心掛けましょう。
そして物を買う時は、なんとなく買うのはやめましょう。その商品がどのように作られたか分かっていますか? 本当に気に入っていますか? ずっと大切にできるでしょうか? 衣服を通じて、あなたがどんな人で何を大切に考えているかを表現しましょう。
あなたが起業するにあたって、一番障壁となった思考はどのようなものでしたか?
障害になったのは、努力した挙句、失敗に終わるのではないかという考えでしょうか。問題の規模が大きすぎるとか、その問題を解決するために必要なリソースがないといった類いのものです。でも、本当に変化を起こしたいなら、そんなことを考えていても仕方ありません。
現状を許せないという私の意思と、物事を改善しようという私の決意は、最終的に日の目を見ると思っています。また、常に楽観的な態度で何度も私をマイナス思考から救い出してくれた共同創業者のゴードンの存在も忘れてはなりません。私の現実主義とゴードンの楽観主義のおかげで、良いバランスが取れています。
そして今、あらゆる困難を乗り越えて、Good On Youは急速に成長しています。消費者は行動を起こし、業界内での進歩も現れ始めています。
レベルアップを目指す女性企業家に三つアドバイスをするとしたら、何と言いますか?
一つ目は、自分を信じること、そして自分の行動で変化は起こせると信じることです。言葉を変えて何度もお話したことですが、私たち一人一人から変化は始まるのですから、自分の能力を疑うのは無意味なことです。
二つ目は、他者からの支援を受け入れ、助言に耳を傾けながらも常に自分の内なる声に従うこと。自分にとって正しいことや実現しようとしている夢を分かっているのは、あなた自身だけなのです。
最後になりますがもう一つ大切なことは、女性であることを強みと捉えて、他の女性も自分と同じことができるように支援することです。女性は一人でも強い生き物です。力を合わせれば、誰にも止められません。
サンドラ・カッポーニは、メルボルンに本社を置くGood On You の共同創業者兼ビジネスデベロップメント部門代表。同社は、価値観に合わせて購入時の意思決定が行えるよう支援するツールを提供することにより、買い物のあり方に変革をもたらすことを使命としている。カッポーニは、企業の社会的責任、サプライチェーン、ブランディング、事業戦略に関する専門的知見を持つ経験豊富なプロとして、困難に直面しながらも、ビジネスが社会・環境面での前向きな変化を起こす強力な原動力になるという前向きな思考を持ち続けている。
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著者について
The BeamのThe Beam Magazineは、現代的な視点でエネルギー転換を捉える季刊出版物。持続可能なエネルギーの未来を実現する世界各国の人々や企業、団体について、ドイツのベルリンから報告する。チームを率いるのは記者のアン―ソフィー・ガリゴウとデザイナーのディミトリス・ギカス。専門家や寄稿者のネットワークとともに、テクノロジーから芸術、政策からサステナビリティ、ベンチャーキャピタルからクリーン・テクノロジーの新設会社まで、さまざまな話題を取り上げる。私たちが語るのは、「エネルギー転換」という世界共通の関心事。The Beamはすでに欧州のほとんどの国のみならず、ニジェール、ケニヤ、ルワンダ、タンザニア、日本、チリ、米国でも流通している。でもまだ始まりにすぎない。今後の進展にご注目のうえ、Facebook、Twitter、Instagram、Mediumでフォローをお願いします。
この記事は、CleanTechnicaのThe Beamが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。