2015年7月、不治の病にあった82歳の祖母ソフィー・マフクは、ここジンバブエで死を迎えようとしていた。当時は、私が知り合いの薬剤師たちの元に出向いて祖母にモルヒネを処方してもらおうとすると丸一日かかっていた。頼れる人脈を持つ医療関係者の祖母でも希少な薬を手に入れるのに24時間かかるとしたら、そういう人脈のない人たちはどれほど待たなければならないのだろう。そう考えた経験が、私を探求の旅へと向かわせた。
ジンバブエでは、国全体に薬不足が広がっている。一部の薬は、ほんのひと握りの薬局にしかおいていないこともある。薬不足の原因は、かねてからの経済問題にあり、ジンバブエにおける薬の製造や輸入に影響を及ぼしている。
さらにジンバブエでは、薬の価格が規制されていないため、民間の薬局ごとに販売価格が異なる。苦労して手にした米ドルで薬を買わなければならない人々にとって、価格の比較は必須だ(現地通貨での支払いや一部の健康保険制度による支払いを受け付けていない店もある)。
祖母のために必死にモルヒネを探し回っていたあの日から6年半経った今、MIS(医療情報サービス)は順調に運用されている。
ジンバブエでは、薬のマーケティングを禁止する広告法が、薬不足と価格の差異による影響をさらに悪化させている。こうした規制自体は珍しいことではない。公共の安全を確保する手段として、同様の制限がある国は多い。正当な目的で導入された規制だが、ジンバブエでは、この規制があるために、他では手に入らない薬や他より安く販売されている薬があっても、薬局は公表することができない。そのため、たいていの人は薬を求めて薬局から薬局へと渡り歩き、薬があるかどうか、いくらで買えるかを尋ねなければならない。愛する人が病に倒れているときに、大変な苦労を伴う、気の滅入るようなプロセスだ。医薬品にアクセスする権利も阻害されている。
自分の家族の体験をきっかけに、私はジンバブエ各地にある何百もの薬局からクラウドソーシングにより在庫状況や価格情報をリアルタイムで収集する方法があるかどうかを調べることにした。
そして考えついたのが「医療情報サービス(MIS)」である。まず、このプラットフォームから欲しい薬の名前か写真をチャットアプリWhatsAppの番号に送信する。するとMISを通じて、ジンバブエ各地の認定薬局にいるスタッフから情報がクラウドソースされ、どの薬局に在庫があって、いくらで販売されているかがわずか数分で伝えられる仕組みだ。
2015年にMISを提案した際には、違法な宣伝の隠れ蓑になると考えた医療規制当局の反対にあった。最高裁判所にまで持ち込まれたが、2018年11月、MISは合法であるとの判決が下される。それからさらに3年後の2021年、ジンバブエ政府はMISの実用化を支援するため、デジタルイノベーターのためのファンドを通じて、400万ジンバブエ・ドル(当時のレートで約16,000ポンド、約240万円に相当)の助成金を出すことを決定した。
当初は規制当局がMISに反対していたのに、最終的に政府として資金支援をすることになったのは皮肉なことだと思わないでもない。
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祖母のために必死にモルヒネを探し回っていたあの日から6年半経った今、MISは順調に運用されている。確かに、重大な問題に対してごく単純な解決策を導入するのに長い時間はかかった。でも、薬剤師とやり取りをしたり、クラウドソーシングについて学んだりと有効に時間を使うことができた。
MISを通じて得た初期の情報から、疾病コストを減らすための第一歩として、ジンバブエの医薬制度における価格の透明性を向上する必要があることがはっきりした。
たとえば、新型コロナウイルス感染症の治療に使われるレムデシビルは、首都ハラレの薬局では100~135ドルで販売されている。一方、住血吸虫症の治療に用いる駆虫剤プラジカンテルの価格は3~18ドルである。
MISを利用することで、ジンバブエの人々は大事なお金を節約できているのだ。
2015年の7月、祖母は安らかに旅立った。子どもと孫、そして、モルヒネの処方をきっかけに生まれた倹約型のクラウドソーシングサービスを残して。
•ダッザイ・ムレイは、ジンバブエを拠点に世界で活躍する医療研究者・薬剤師。
この記事は、The Guardianよりダッザイ・ムレイが執筆し、Industry DiveContent Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。