かつて4年にわたって続いた内戦によって300万人が虐殺され、学校や病院、工場などが破壊され、それまでの暮らしや文化、伝統が奪われたカンボジア。世界遺産アンコール・ワットがあるシェムリアップ市内から25kmほど離れた村で、「現地の人たちの選択肢を増やしたい」と挑戦を続ける日本人がいます。(JAMMIN=山本 めぐみ)

 

ボランティアで訪れたカンボジアで、社会課題を目の当たりに

活動拠点の村のごみ山。「インフラの整っていないシェムリアップ。きらびやかな観光地の裏で、そこで出た大量のゴミが郊外の土地に捨てられ、山のように積み上がっています」

「やりたいことが実現できる環境づくり」を目的に活動する任意団体「Kumae(クマエ)」代表の山勢拓弥(やませ・たくや)さん(28)。山勢さんが初めてカンボジアを訪れたのは2013年、山勢さんが大学に入学したばかりのゴールデンウィークでした。

「当時の僕に何か課題感があったかというと、そうではなかった」と山勢さん。

「当時は学校建設が流行っていて、知人に誘われて軽い気持ちで参加しました」と振り返りますが、そこでの出会いが、山勢さんの人生を大きく変えました。

「学校建設で知り合った15、6歳の現地の子たちが、ある日いきなり現場に来なくなるということがありました。話を聞くと『タイに売春しに行った』と。自分とたいして歳の変わらない子たちがそのような現実に直面していることを知り、衝撃を受けました。それが社会課題に目を向けるようになったきっかけです」

お話をお伺いした山勢拓弥さん

「現地のことを知れば知るほど問題があるなと思い、もう少し知りたい、掘り下げたいといろんな人に話を聞くようになってから、きらびやかな観光地の裏で、大量のごみが郊外の村に1箇所に集められてごみ山になっており、そこで働く人たちがいることを知りました」

その後、帰国して大学生活に戻った山勢さん。しかし問題を目の当たりにしたまま、大学生活を続けることはできなかったといいます。

「『自分は何がしたいのか』を問うた時、僕の中で答えは日本ではなく、カンボジアにありました。大学2年になった春には大学を中退し、カンボジアへ渡りました」

社会の光と影、きらびやかな観光地の裏で、ごみが廃棄される村

ごみの山の中から、リサイクルできるものやお金になるものを探す人たち。「近くの村に住む人たちがごみ山で働いています。大人に混じり、子どもたちも働いています」

Kumaeの活動拠点である「アンルンピー村」と「プノムダイ村」。山勢さんは最初に村を訪れた時、社会の光と闇を感じたといいます。

「アンコールワットは年間500万人以上が訪れる観光地です。多くの人が訪れ昼夜を問わず賑わうこの街で、当然日々多くのごみが出ます。しかしインフラが整っていないためにごみの処理が追いつかず、2000年以降、市街地から離れ自然豊かだったこの村に、まるで隠すかのようにさまざまなごみが運ばれ廃棄されています」

「村の景色は一変し、村の人たちは『お金になるから』とごみの山からリサイクルできるものを拾って生計の足しにしていたのです」

「独りよがりな考えやエゴではなく、『現地の人たちにとって何が起きているのか』をきちんと知りたい」。そう思った山勢さんは、3〜4ヶ月をかけて村で暮らす一家族一家族を訪れては話を聞きました。

山勢さんが「村での仕事の選択肢を増やして、村の人たちが村で生活できるようにしたい」と思った家族との出会い。「ごみ山で出会い、ご飯に誘ってくれたりカンボジア語を教えてくれたり、とても親身になってお世話をしてくれた家族です」

「当時は現地の言葉もままならなかったので、ゼスチャーや指差ししながらの会話でした。僕の中で一番印象的だったのが、現地の人たちが『ごみ山は稼げる』と思っていることでした」

「しかしごみ山のすぐ近くには豊かな田園風景が広がっていて、ごみ山で働く以外の選択肢があることは明らかです。なぜ、あえてごみ山で働くのか。もし村の中にごみ山と同じぐらい稼げる仕事があれば、皆はごみ山ではなくそこで働けるのではないか。そこで現地の人たちが生きる選択肢の一つとして、ものづくりへの挑戦を始めたのです」

ゼロから1を生み出した、バナナペーパーづくりへの挑戦

バナナペーパーを使った、オリジナルブランド「Ashi」のプロダクト。「写真のシリーズでは『折る』というテーマで商品づくりを行いました。紙であることの特長を活かし、今後も商品開発をしていきます」

山勢さんが目をつけたのが、バナナの木でした。

「現地の人のためにもなり、僕も楽しくて、観光客の人たちにも手にとってもらえるようなものがつくれないかと思っていた時に、当時の彼女で今の奥さんから『カンボジアのお土産屋さんに並んでいる商品は、ほとんどがカンボジア製ではなくタイや中国製なんだよ』と教えてもらって」

「『だったらカンボジアにあるものを使ってカンボジアならではのお土産をつくりたい』と、たくさん生えているバナナの木を生かせないかと思い、バナナペーパーづくりを始めたんです」

村に自生しているバナナの茎から繊維を取り出して2〜3日間煮込み、叩いて繊維を細かくして紙をつくる。試行錯誤を繰り返して完成したバナナペーパーは、独自の加工を加えたことによって水にも強く、お土産としてだけでなく、日本人向けに、日常使いできるようなラインナップを揃えたブランド「Ashi(アシ)」でもオリジナルアイテムを展開しています。

「試行錯誤の繰り返しでしたが、一つひとつ仮説を立てながら、実践していくのが楽しかった。何もないゼロから1をつくること、未知への挑戦に大きなやりがいを感じました」

挑戦の連鎖を生む、「NFC KUMAE」プロジェクト

「バナナペーパープロジェクトを始める前は一般的な紙が何からつくれているかさえも知らなかったごみ山の生活者が、事業を通して立派な職人となり、こだわりを持って商品をつくっている姿。僕にとっても希望を感じ、ワクワクする姿です」

さらに2020年10月からは、新たなプロジェクト「NFC KUMAE」をスタート。

「挑戦の連鎖」を目的に、75m×90mのサッカーコートほどの広さの土地(スタジアム)で、新たな挑戦を始めています。

「カンボジアに文化としてもともとあったものやかたちを生かしながら、『これをやりたい』『やってみたい』という挑戦を具現化できる場所として、カンボジア人に限らず、日本人も含め挑戦者たちの挑戦を連鎖させるコミュニティです」

「バナナペーパープロジェクトからは少し立ち位置を変えたものになりますが、kumaeが大切にしている『選択肢を増やす』というところでは目的は同じ。養鶏や農業など、昔からこの地域にあった暮らし、今風にいうと『持続可能な暮らし』ともいえますが、生活がどんどん豊かになる中で失われてしまった、人間や地球にとってごく当たり前だった環境づくりに挑んでいます」

NFC KUMAEで新しく始めた挑戦。「肥沃な土地でしか栽培できないとされていた胡椒。田んぼの土をゼロから開発し、村の人たちと協力しながらシェムリアップで栽培する挑戦をしています」

「流行りや時代にとらわれない、生きることの本質をもっと簡単に、わかりやすく体感できる場所をつくりたい。そういう意味では、NFCは日本人に向けたコミュニティでもあります」と山勢さん。

「カンボジアの人たちは、日本人からすると豊かでもないし、僕が挑戦している通り、少ない選択肢の中で生きる人たちが多くいます。だけど僕が知っている限り、彼らは本質を知っている。数少ない選択肢の中で自分の心の声を聞き、軽やかに選び取り、行動する力を持っています」

「日本人はどうでしょうか。逆に選択肢がありすぎて、自分の心の声を見失い、挑戦することや決断する力が失われているように僕は感じています」

「少ない選択肢の中で軽やかに動くカンボジアの人たちと、選択肢が多すぎて重くなり、真面目にがんばりすぎてしまう日本の人たち。両者が出会うことで、お互いに刺激し合い、学び合えることがすごくたくさんあるのではないか。カンボジアの人たちの自立を応援しながら、日本人に対しても『もっと自由に選択できる社会』を発信していくことができるのではないかと思っています」

「Kumaeはまさに僕自身であり、僕が生きてきた人生、僕の挑戦そのもの」

「誰かの挑戦が、別の人の挑戦を後押しする。僕たちが挑戦する姿をたくさんの人に見てもらいたい」。バナナペーパーのバナナにちなんだ87kmを、日本の仲間たちとバトンをつなぎ完走。写真はシェムリアップ市内からアンルンピー村までを走る山勢さん

山勢さんにとって、カンボジアはどんな国かを尋ねました。

「団体名である『Kumae』は、カンボジアの言葉で『カンボジア語』とか『カンボジアの』といった意味です。Kumaeはまさに僕自身であり、僕が生きてきた人生、僕の挑戦そのものです」

「カンボジアは自由に選択させてくれる国、間違いや失敗を許してくれる国です。もちろん人道外れたことは許されませんし、自由であるための責任は問われます。やりたいことをやるために、やりたくないこともたくさんやります。この自由の意味は履き違えてはならないですが、それでも何よりカンボジアは自分の選択をリスペクトしてくれて、懐深く受け入れてくれる国です」

KUMAEスタジアムにある養鶏場。「ごみ山を見て、ものはやがてごみになるのだということを痛感してきました。人が手を加えなくても、それぞれの生き物が持つ特性や性質を最大限に活かし合えるパーマカルチャーに倣い、自然な循環を意識した養鶏や農業をゼロから行っています」

「情報があふれる社会で、知識としては皆いろんなことを知っているし、その中であれがやりたい、これをしてみたいと言っている方たちがたくさんいるのも知っています。でもその時に、それを素直に行動に移すことができる人は本当にごくわずかです」

「思い通りにならないことを環境や周りのせいにするのではなく、自分がワクワクしてやりたいと感じたのならば、その世界に一歩足を踏み出してほしい。僕らの世代が、手放しで誰かの挑戦を応援できる大人になれたらと思っていて、活動を通し、これからもそこを伝えていきたいと思っています」

「僕たちが主に支援しているのはカンボジアの人たちですが、『やる意味あるの?』ではなく『やってみよう』というポジティブなパワーが、極論をいえばカンボジア人や日本人という枠を超えて、このプロジェクト内かどうかという枠も超えて、その人の人生の中である時、きっかけとなって挑戦につながってくれたら、僕は嬉しいです」

 

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

※キャンペーンは現在終了しています。

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「Kumae」と1/24(月)~1/30(日)の1週間限定でコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、団体の活動資金として活用されます。

「JAMMIN×Kumae」1/24~1/30の1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもパーカー、バッグなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、窓やはしご、階段を描きました。

自分が今とるアクションが、未来の自分をより良い場所へ、より高みへと連れていってくれる。自分の「こうしたい」「これが好き」を信じ、恐れず挑戦への一歩を踏み出そうというメッセージが込められています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

カンボジアで「やりたいことが自由に選択できる」生き方を発信。国を超えて「挑戦の連鎖」を生むために〜Kumae

山本めぐみ(JAMMIN):
京都発・チャリティー専門ファッションブランド「 JAMMIN(ジャミン)」の企画・ライティング担当。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売。売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)がコラボ団体へと寄付され、活動を支援しています。2014年から休まずコラボを続け、コラボした団体の数は390超、チャリティー総額は6,500万円を突破しました。

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この記事は、株式会社オルタナ『オルタナS/執筆:山本めぐみ』(初出日:2022年1月24日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、にお願いいたします。