違法なごみ捨て場は、クリスマスを祝う舞台としてふさわしくないように思える。しかし、悪臭を放つごみの山からクリスマスツリーを引っ張り出す12歳のガブリエル・シルバを捉えた1枚の写真が、SNSを通じてあっという間に拡散された。
シルバは、ブラジル北東部の町ピニェイロに母親と兄2人と一緒に住んでいる。ごみ捨て場の隣にある泥壁(でいへき)の小屋が彼らの家だ。
ブラジル マラニャン州ピニェイロにある自宅で、クリスマスツリーを手にポーズを取るシルバ 2021年12月10日— © AFP
腐りかけのごみや捨てられたプラスチックが辺り一面に山積みになっている。そんな異様な光景の中、何十人もの人がコンドルや犬猫、牛と競い合うようにして残飯をあさっている。
11月8日、シルバは母親と一緒にごみを掘り返していた。学校が終わるとたいてい毎日そうしている。その時見つけた青いビニール袋の中に小さな人工樹のクリスマスツリーが入っていた。
「クリスマスツリーを手にしたのは初めてでした」と彼は言う。
ブラジル マラニャン州ピニェイロにある自宅でポーズを取るシルバ 2021年12月10日— © AFP
フリーランス写真家のジョアン・パウロ・ギマラエスが、その瞬間を捉えた。上半身裸で写る男の子は、見つけたクリスマスツリーをどうすればよいか分からず何とも言えない表情をしている。子ども心には魅力的だが、家族のお腹を満たしてはくれない。
だが後にこの写真がSNSで拡散され、小さな人工樹のツリーが思いがけないクリスマスプレゼントに生まれ変わった。
シルバが家族と住む地面がむき出しの小屋には今、大きく光り輝くクリスマスツリーがある。ごみ捨て場から拾ってきたものではない。写真を見て心を動かされた人からの贈り物だ。
これは、シルバ一家の元に殺到した寄付のほんの一つにすぎない。
「服にマット、かごに入った食料もいただきました。ありがたいことです。これで今年のクリスマスは無事に暮らせそうです」と45歳になるシルバの母マリア・フランシスカ・シルバは話す。
オンライン募金を通じて寄付金も受け取った。ごみ捨て場で拾ったリサイクル可能なものを売って毎月600レアル(約13,000円)程度の収入で生活するマリアにとっては思わぬ大金だ。
一家は、近いうちにちゃんとした家を建てるという夢を叶えたいと思っている。
家の外に出て自転車で遊ぶシルバ— © AFP
シルバ一家は、最初に受け取った寄付金500レアルのおかげで、すでに長年の願いを一つ叶えた。井戸から水をくみ上げるために、これまで使っていたロープとバケツに代えて油圧ポンプを取り付けたのだ。
それでもシルバが一番嬉しかった贈り物は、学校の先生がくれた自転車だ。
–「まるでこの世の終わり」–
シルバは、空いた時間はたいてい母親と一緒にごみ捨て場にいる。
「一緒にいてくれた方が安心です。通りをうろうろすればドラッグに手を染めたり、してはいけないことをしてしまったりするかもしれませんから」と母は言う。
「息子はいい子です。いつも私を手伝ってくれています」
今回の出来事で、シルバは地元で一躍有名人になった。
「毎日いろんな人が僕の写真を撮りに来て、あれこれ聞きたがります」とシルバは言う。
写真家のギマラエスは隣のパラ州に住んでいる。
彼は、スーパーマーケットで出たごみを運ぶ収集トラックの後をピニェイロの住民たちが走って追いかける動画を見て、この町のごみ捨て場で写真を撮ろうと思い至った。
家でポーズを取るシルバ— © AFP
「ただただ信じられない光景でした。たぶん50人くらいでトラックを追いかけていたと思います」と話すのは、動画を撮ったピニェイロの公選弁護人(訳注)ユーリコ・アルーダだ。
「ここのごみ捨て場は、世の終わりのような光景です。あちこちで火や煙が上がり、コンドルや犬がうろついています。これ以上の極貧状態はありません」
アルーダは、ごみを拾って生活する人々の権利を守るための協同組合を立ち上げた。クリスマスツリーを見つけたシルバの写真が、そうした人々の苦しい生活について知るきっかけになればと願っている。
地元の自治体は、ごみを拾って生活する人々に毎月100レアル(約2,000円)の生活保護費を支給することをすでに約束した。また2022年には、衛生基準を満たした合法のごみ集積場を作ることも決めている。
(訳注)貧困者が無料で法的支援を受けられるように、国が提供する公設の弁護士
オリジナル記事Christmas tree turns symbol of hope at Brazil dumpはDigital Journalに掲載されたものです。
この記事は、Digital JournalよりAFPで執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。