ケニアとデンマークで、両国の若者によるユニークな文化協力プロジェクトVijana Wetuが進められている。名前の意味はスワヒリ語で「私たちの青春」。参加者は、ケニア西部にあるビクトリア湖近辺で活動する若者たちと、デンマークの活動家たち。筆者は、デンマークのフリランドという小さなコミュニティで行われたイベントで、このグループの創設者トーヴ・バンに出会った。Vijana Wetuとは一体どんな活動なのだろうか。
ケニアとデンマークのユニークな文化的つながり
2014年のことだ。筆者はデンマークにあるフリランドという小さなコミュニティで開催されていたイベントに足を運んだ。ここは「オーガニック」と「クレイドル・トゥ・クレイドル(ゆりかごからゆりかごへ)」という2つの考え方を実践する場だ。住民たちは自然素材や再生資源を使った自宅を開放し、庭で収穫した有機食材で作ったごちそうをふるまってくれた。
すばらしい取り組みをしている家庭の数々をまわっていたところ、とある屋台にたどりついた。看板には「Kisumu(キスム)」と書かれている。キスムは、私が1986年にケニアで住んでいた町の近くにある都市の名前だ。屋台では、キスムの美味しい食べ物の数々が売られており、これを買うことでキスムの若者グループが支援を受けられる仕組みになっていた。親近感を覚えた筆者は、その屋台を出していた女性に、キスム周辺に住んでいたこと、そして当時一緒の学校に通っていたザンビアの友人に会いに近々行く予定だと伝えた。この時出会った女性がVijana Wetuの会長のトーヴ・バンだ。
フリランドにあるVijana Wetuの管理事務所 画像提供:イェスパー・バーググリーン
トーヴは副会長のトニー・トリフォリカムと共に、2011年冬にケニアを訪れ、ビクトリア湖沿岸に住む若者たちに出会った。それ以来、毎年デンマークからのゲストを連れ、若者たちに会いに行っている。トーヴは、1年のうち半分以上をキスムとアセンボ村で過ごし、2013年にはその経験を文化人類学の論文としてまとめている。内容は、この地域に住む若者のアーティスト活動やルオ族についてだ。
トーヴが会長を務めるVijana Wetuは、ビクトリア湖沿岸にあるアセンボ村で「バンダ川パーマカルチャーデモンストレーションセンター」を設立。ケニアとデンマークを拠点に活動している。彼らの活動の根底にあるのは、以下のようなパーマカルチャーの倫理とデザインの原則だ。
フィールドワークをするために集まったVijana Wetuのメンバー 画像提供:Vijana Wetu
パーマカルチャーとは?
パーマカルチャーとは、地球に負荷をかけずに自然と調和しながら暮らすためのデザイン手法である。
パーマカルチャーは以下の3つの側面からなる。
- 倫理的であること
- 自然のあるべき姿を理解すること
- デザインにも工夫を凝らすこと
パーマカルチャーでは、これら3つの側面を組み合わせながら、住宅・庭からコミュニティ、農園まで、あらゆる規模で再生可能なシステムを作ることができる。
Vijana Wetuは、アフリカの貧しい地域で、パーマカルチャーを実践しながら以下の使命をもって活動している。
・地産地消による安全な食糧の確保
・小規模な事業の支援と、それによる人々の暮らしの改善
協力に必要不可欠な約束事
Vijana Wetuのメンバーが協働する上で、パーマカルチャーは効果的な枠組みとなっている。この枠組みは、以下の3つの倫理原則と12の行動原則で構成されている。
倫理的原則
- 地球への配慮
- 人への配慮
- 公平に分かち合う
行動原則
- 観察し相互で協力する
- (自然)エネルギーを獲得し、蓄える
- 自然の恵みを得る
- 自立とフィードバックの活用
- 再生可能な資源やサービスを利用する
- 無駄を出さない
- 全体を設計してから、詳しい計画を練る
- 区別よりも統合を重視する
- 今できる小さなことからやる
- 多様性を生かし、尊重する
- 接点の活用と辺境の価値
- 変化に対して想像的に取り組む
トーヴは次のように説明する
「パーマカルチャーの倫理、12の原則、デザインコンセプトのおかげで、私たちは自分たちの定義づけや「バンダ川パーマカルチャーデモンストレーションセンター」の方向性を見出すことができました。パーマカルチャーは持続可能性を生み出します。貧困や災害からコミュニティを復興させる上でも最適のモデルとなります」
「パーマカルチャーではさまざまな栽培方法を提唱しています。例えば「食べ物の森」の仕組みでは、光合成によって大気中の二酸化炭素を取り込み、木や植物に炭素を貯蔵できます。また、グリーンバイオマス(環境負荷の少ない生物資源)、堆肥、マルチ(根覆い)を地面に敷き詰めることで、炭素を土の中に貯められます。大事なのは、掘ったり耕したりせずに、できるだけ放置することです」
「パーマカルチャー農法では、生きた土壌を育てます。バクテリアや菌類などの微生物や、ミミズや昆虫が暮らしやすいビオトープを作るのです。こうした生物の活動が、食料生産に必要な栄養素をもたらします。パーマカルチャーで作られた食料は、たいてい、従来の農法で作られたものよりもはるかに多くの栄養素を含んでいます。農薬や肥料は一切使っていません」
「これに加え、多種多様な食べられる植物を育てることで、気候変動によって生じる様々な問題への抵抗力が高まります。また、安定して食料を得られるようになるので、地域の食料安全保障のレベルも上がります。多くの人々に恩恵がもたらされるのです」
植物ではなく土を育てる
「大切なのは肥沃な土壌をつくること。土がなければ植物は生きられません。土壌を育て、デザインと機能性に沿った生態系を構築することは、私たちの基本理念の一つです。幸運なことに、地域に合わせた食料生産を目指し、自律的に維持される生態系の設計・構築が世界各地で進んでいます」
トーヴはさらに言う。
「作物の多様性は大切です。自然を観察し、そこから学びを得る。そして、自然のパターンや機能性をまねて、一年生植物や多年生植物、低木、つる植物を植える。そうして作られた生物多様性の豊かな環境が、害虫を食べる昆虫や鳥類を呼びよせ、よい循環が生まれます。その結果もたらされるパーマカルチャーの農園の収穫量は、従来の農法の約10倍です」
これは、持続可能な開発にも、私たち人間と地球の生き残りにも関わる重要な問題だ。「パーマカルチャーが将来の食料生産のための最善の方法であることは、今のところ、疑いようがない」とトーヴは主張する。このやり方なら自律的な生態系が構築される。そのうえ、いったん構築されれば、あとはわずかな手間で食料を生産できるようになるからだ。
バンダ川パーマカルチャープロジェクトでの天然薬物ワークショップの様子 画像提供:Vijana Wetu
パーマカルチャーはVijana Wetuのような団体の取り組みにより、最も急成長を遂げている世界的な運動の一つ。Vijana Wetuについては同団体HPをご覧ください(www.vijanawetu.com)。
著者について

1980年代初めにアフリカの農村部にある小学校に通う。この経験が世界観を大きく広げるきっかけとなった。その後、コンピュータプログラマーや実験技師になるための教育を受け、デンマークのオーフスにある法医学研究所でコンピュータや実験ロボットを使いながら働くように。
テクノロジーの進歩は、地球のすべての人類の繁栄に不可欠であるとの確信を持っている。一方で、世界をより良く変えるには、テクノロジーはスマート・クリーンであると同時に、持続可能で平等でなければならない、と考えている。
そんな問題意識から、クリーンエネルギーによる交通システム、エネルギー貧困などの課題についての執筆を続けている。Lifelike.dk.の創設者。
この記事は、CleanTechnicaのイェスパー・バーググリーンが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。