英国の公衆トイレは、以前のように気軽に使えなくなっている。そのため、外出時に急にトイレに行きたくなったら、今や一大事だ。
問題の原因は、国の緊縮財政による打撃を受けた地方議会にある。公衆トイレの提供は、法律で義務付けられていない。そのため、地元住民に対して法的な提供義務があるサービスを優先させ、公衆トイレに関する支出を減らしているのだ。
その結果、英国全土で公衆トイレが激減した。地方政府の調査官であるジャック・ショーが、オブザーバー(英国で日曜に発行されている新聞)と共有している「情報自由法」に基づき入手したデータを見ると、地方自治体が資金提供および管理する公衆トイレの数は、2015~16年の3154か所から、2020~21年には2556か所に減っている。すでに減少傾向にあったところに、過去6年でさらに19%も減少した。
公衆トイレの減少は、ホームレスや障害者、屋外労働者、病気のためにトイレを頻繁に利用する人など、多くの人々に深刻な問題を引き起こしていると、公衆衛生の関係者は警告してきた。
画像:英国にある最も古い公衆トイレのひとつ
英国の王立公衆衛生協会(RSPH)は2019年、トイレを想像させるタイトルの報告書『Taking the P ***』(訳注)を発表した。それによると、5人に1人が、近くに用を足せる施設がなければ外出を控えるつもりだという。「トイレが制約」になるという影響が出ているのだ。
RSPHの政策責任者ジョツナ・ヴォーラは昨年11月、この点を次のように強調した。「公衆トイレが減っているということは、健康と移動の不平等が生じているということです。このまま見過ごすわけにはいきません」
「健康の不平等の問題では、障害のある人やお年寄り、路上で生活する人など、すでに恵まれない境遇にある人々に負担が偏りがちです」
一方、閉鎖されたトイレから、見事なリノベーションも生まれている。たとえば、ロンドン南部クラパムの公衆トイレは、ワインバーになった。「ワインとシャルキュトリ(ハムやサラミなどの肉の加工品)」の店、略して「WC」だ。また、ロンドンの地下鉄駅にあり、オスカー・ワイルドやジョー・オートンもよく利用していたというトイレは、今ではナイトクラブになっている。
かつてのトイレが姿を変えて利用されている例は、ほかにもある。たとえば、ロンドン北部のケンティッシュ・タウンではカクテルバーに改装され、デボンではヌードルバーになった。ロンドン南部のキングストン・アポン・テムズ特別区とランベス特別区では、昔トイレだった場所がアートギャラリーにもなっている。
だが、独創的な事例のグランプリは、ウスターシャー州マルバーンの「シアター・オブ・スモール・コンビニエンス」で決まりだろう。世界最小の商業劇場として、2002年にはギネス世界記録に認定された。ビクトリア時代に男性用の公衆トイレだったその場所は、最大12人の観客を収容できる劇場に生まれ変わった。
そうした転用許可のほか、引き続きトイレとして利用できるようにしながらコストも削減させる手段の1つとして、地元の教区会や町議会、地域団体にトイレの所有権を移している議会もある。たとえば、ウェールズのポーイス議会は、56か所のトイレを別の組織に引き渡した。さらに5か所を閉鎖し、2か所のみを残している。
所有権を移せば公衆トイレをこれまでどおり開放できるかもしれないが、以前のようには管理が行き届かないかもしれない。そう話すのは、英国トイレ協会のマネージング・ディレクターを務めるレイモンド・マーティンだ。「地域団体や町議会、教区会がトイレの運営にあてられるのは、年間30~80万円ほどです」
「だから、チャリティマラソンのようなことをやるしかないんです。そうして、運営資金を地元で調達しています。大体それでうまくいって、トイレを閉鎖せずに済んでいます。それでも開いている時間は短縮されますし、清掃のための資金もわずかです」
「公衆トイレを残そうと、多くの組織が非常に素晴らしい取り組みを行っています。でも、資金集めに四苦八苦しているケースがほとんどです」
場当たり的な地域施策だけでは、閉鎖によって生じる不平等に対処できないと、RSPHのジョツナ・ヴォーラは警告する。「平等に利用できるようにするためには、適切な財源を確保し、法のもとに適切な措置をとるしかありません」
(訳注)Taking the pissで「ばかにしている」の意。Pissは「小便」を意味するため、不快を与えないよう伏字にされることが多い。
この記事は、The Guardianよりチャミンダ・ジャイアネティが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。