人類は、乳幼児死亡率の低減と妊産婦の健康改善において大きな進歩を遂げてきている。世界全体で見ると、1990年以来、本来死なずに済んだ子どもの死亡者数は50%以上減少し、妊産婦死亡率も45%減少している。だが、こうしたすばらしい進歩にもかかわらず、いまだに毎年600万人を超える子どもが5歳の誕生日を迎える前に命を落とし、毎日何百人という女性が妊娠中もしくは出産の合併症で死亡している。また、開発途上地域の農村部では、医療専門家が立ち会って出産するケースは56%にすぎない。

へき地の村に住む女性にとって難題のひとつが、基本的な救命物資へのアクセスだ。利用できる交通手段も使えるお金も限られているため、丸一日かけて市場まで歩いて行っても、買える物はほとんどない。一方、へき地で働く医療従事者や災害救助隊員も、費用がかさむ上に遅くて当てにならない交通手段に頼らざるを得ないのが現状だ。

そうした中で、とりわけ出産時に母親も子どもも生き延びる可能性を高めるにはどうすればよいだろうか? これが、トーマス・ローゾンとユージーン・マセヤがスタートアップ企業MamaBirdで答えを出そうとしている問題の一つだ。二人とも生粋の技術畑出身の男性。自分たちの技能を、社会課題の解決に貢献する持続可能なビジネスに生かそうという思いについて、ユージーンに話を聞いた。彼らは、安価で革新的な保健医療製品や、そのまま使える治療食、清潔な出産キットを、アフリカ農村部の保健医療センターにドローンで送り届けるとともに、医薬品や乳児用品を配送するドローンの使い方を女性に教えたいと考えている。


MamaBird founders

写真:Vodafone Institute

アフリカのへき地の村に住む女性や子どもにとって、医療上の重要な課題は? その課題を解決するための具体策は?

アフリカのへき地の村で最も深刻な医療上の課題の一つは、低コストで手頃な解決手段が「存在しない」ことではなく、そうした解決手段に「アクセスできない」ことです。農村部の住民には一年を通して利用できる道がありません。そのことが、女性や子どもにとって医療上の重大な障壁を生んでいます。トーマス(編集者注記:MamaBirdの共同創設者トーマス・ローゾン)は、初めてアフリカを訪れた時に村の女性たちの状況に衝撃を受けたそうです。一生を、ただひたすら子育てと家族の食事を作ることだけに縛られるなんて、想像できますか? 女性と子どもが利用できるリソースは非常に限られていました。交通手段はなく、行くところもないし、お金もない。一日中歩き続けて市場にたどり着いたところで、子どもを助けるために買えるものが、そこには何もありません。医療従事者や災害救助隊員も、へき地の住民のために働こうにも、オートバイや車、ヘリコプター、トラックといった費用がかさむうえに、遅くて当てにならない交通手段に頼らざるを得ないのです。

「私たちの会社では、業務上の要となる役職に女性を配置することが極めて重要です。男性だけでは、サービスの受け手である女性に関する明らかな問題を見落としてしまうからです」

私たちがこの問題を解決するために提案するのは、コスト効率の高い重量貨物用ハイブリッド式ドローンのネットワークです。保健医療センターから60km程も離れた村まで到達可能で、従来のドローンの10倍の荷物(飛行機の預け入れ荷物と同程度の大きさ)を運ぶことができます。これは健康や医療上の問題を抱えて助けを待つ女性や子どもにとっても、そのような女性や子どもに物資を届けようとしている団体にとっても、まさに革新的な技術です。

ドローンを使って保健医療物資を送り届けるというアイデアを思い付いたきっかけは?

私たちはユニセフの「提案募集」を見ていた同士で、オンラインで知り合いました。ユニセフでは、新生児のHIV感染を防ぐことを目的として、検査設備のないへき地から検査ができる保健医療センターまで乾燥血液スポット(DBS)試料を迅速に運び、検査結果を素早く送り届けるために、ドローンを使う事業の提案を募集していました。

二人ともドローンに関して自分たちが持つ技能を社会に役立てたいという思いが強かったので、その提案募集をきっかけに、ドローンを使ってほかにできることはないか考えるようになりました。調べれば調べるほど、へき地に住む女性が、命をつなぐための基本的な物資を入手するために、いくつもの障壁に阻まれていることが分かりました。とりわけ、出産時における母子のための物資が、です。

ドローンで具体的に「送り届ける」ものは何? 住民が物資の使い方を間違えないようにするためには?

私たちが送り届けようと計画している物資は、母親とその子どもが生き延びるために極めて重要な、安価で革新的な医療品です。具体的には、そのまま使える治療食や、高カロリーのパック入り栄養食を運びます。これらによって、生後1000日というその後の人生を決定づける重要な期間に、乳幼児の栄養不足を解消することができます。同じドローンで、清潔な出産キットも運べます。キットには石けんや、へその緒を切るのに用いる滅菌したカミソリの刃、鉗子、ガーゼ、ウェットタオルなどの、出産時に清潔を保つための基礎的な物資が入っています。これらの物資を農村部の保健医療センターに送り届けます。そこで医療従事者が母親や妊婦に対して処置を施し、指導を行うのです。

「女性のために開発された技術、女性の問題を解決する技術において、女性は最前線に立つことができる」とおっしゃっていますが、あなたの事業に女性が関わることは、どれくらい重要で、具体的な関わり方は?

女性が直面する問題を解決しようとするなら、その過程で女性がしっかりと関わるべきだと強く思っています。私たちの会社では、業務上の要となる役職に女性を配置することが極めて重要だと考えていますが、それは男性だけではサービスの受け手である女性に関する明らかな問題を見落としてしまうからです。当社の顧問やパートナーの半分以上は女性です。将来的には、従業員も男女バランス良く雇用したいと考えています。とは言うものの、当社が専門とする技術分野で働く女性が少ないことも実際で、そのことはよく分かっています。MamaBirdの価値ある使命が、有能な女性を引き付けることを願います。そして、MamaBirdの成功のためにはどれほど女性の力が必要かを伝えていきたいと思います。

送り届けた物資がもたらした(人と環境に対する)最も大きな影響は?

まだ試験段階なのでその点についてはお話できませんが、理論上は、同じ距離を行くトラックやバンに比べて、ドローンの方が効率的だと考えています。ドローンは直線距離を移動するので、飛行距離が短くなります。同じ距離を移動する場合、道路を走る車両の方がドローンよりもはるかに多くの燃料を使いますね。

環境や持続可能な開発における課題を解決するうえで、ハイテク技術が果たす役割とは?

難しい質問ですね。技術が環境にもたらす影響は、技術の改良とともに小さくなる傾向がありますが、改良と共に利用者数も増えるので、意図しない結果も生まれます。ドローンに関して言えば、私たちはこれまで高価で手の届かなかったものを利用できるようにし、開発の遅れた地域ではあまり見られない物資をそうした地域に届けます。ドローンが与えるであろう影響をすべて考慮に入れるのは難しいことです。ドローン配送によって、へき地だったところは以前ほど孤立した状態ではなくなります。住民の生活は改善され、きれいな水や電力、いろいろな設備がもっと必要になります。こうしたあらゆることによって、さらなる環境負荷がもたらされるでしょう。とはいえ、命を救う物資や基本的な生活必需品が入手できない状況に人々を置き去りにすることなどできるでしょうか? それは道義的に間違っています。環境負荷が高くなるからといって、電力やその他の文明の利器のない生活を人々に強いるべきでしょうか? 断固として「ノー」です! 私たちは、誰もが基本的な水準の物資を利用し、教育を受け、健康状態を保つことができるべきだと考えています。私たちにできることは、至るところに道路を建設しこれまで以上に大量の自動車やトラックを製造するといった環境負荷の高い解決策と比べて、カーボンフットプリントの低い技術を設計することです。


MamaBird drone

写真: MamaBird

ドローン配送に関する法律については特に気になるところですので詳しく聞かせてください。貴社の事業には、政府から特別な許可が必要ですか? もし将来的に他の国々でも配送事業を展開する場合、(ドローン飛行の規制という観点から)他国での展開はスムーズに進みそうですか?

はい、そのためにユニセフは2017年の初めにマラウイでドローン試験用の指定航路を設けました。この半径80キロメートルの区画で、ドローンの人道的利用に取り組む企業が使用事例の検証を行います。さらにユニセフは、マラウイ政府によるドローン規制の枠組み構築を支援し、当社のような新興スタートアップ企業を後押しする環境を整えています。

アフリカのその他の国々や他地域の国々は、おそらくドローン技術に対する理解不足のために、ドローンに対して否定的な姿勢をとっています。しかしマラウイでの試験と運用に成功すれば、いずれ、同様の解決策を展開することが可能な他の国々でも、ドローンを受け入れる姿勢が高まっていくだろうと思っています。

ハイテク事業の開発に関心がある女性に助言を三つ挙げるとしたら?

・ハイテク事業では、うまくいく解決策を考案することで、自分が正しいことを証明できます。ほとんどの技術屋は、考案者の性別を問わず、そうした解決策を尊重します。

・男女間の賃金格差は、他の分野よりも小さいです!

・自分が大切だと思う事業、自分にとっても他の人々にとっても重要な事業に取り組むことで、自分の望むインパクトをもたらすことができます。

最大のリミティングビリーフ(可能性を狭める固定観念)と最大のブレイクスルー(飛躍的な前進)は?

実際のところ、それほどブレイクスルーだとは思いませんが、しいて言えば、節目節目に設定した目標に沿って順調に進んでいるということでしょうか。スタートアップ企業としてやっていく上で絶対的なものは何もないと思っているので、十分に慎重さを持ちつつ楽観的に進めるようにしています。うまくいけばこの記事が発表されるころには、現在パートナーと取り組んでいる試験から確認した内容をもう少し詳しくお話できるでしょう。

リミティングビリーフの一つは、時として、世間はへき地の人々に関心がなく、当社が行っているのはしょせん慈善事業にすぎないという印象を受けることです。しかし、この取り組みを進める中で、数々のNGOや民間企業から、当社の配送サービスを利用できないかという問い合わせをいただいています。へき地は重要なのです。へき地は食料が生産される場であり、都市部に新たに加わる人口の大半はへき地からやって来ます。へき地とその他の地域を結ぶことに対する関心は高いのです。

この取り組みを進める中で、一番の支えになったものは何ですか?

大変なこともありますが、二人ともこの事業に強い思い入れがあり、私たちを応援してくれる強力な女性陣がいることが、私たちを前に進めてくれるのだと思います。

聞き手:アン―ソフィー・ガリゴウ

このインタビューはThe Beamウェブサイトでもご覧いただけます。

著者について

The BeamThe Beam Magazineは、現代的な視点でエネルギー転換を捉える季刊出版物。持続可能なエネルギーの未来を実現する世界各国の人々や企業、団体について、ドイツのベルリンから報告する。チームを率いるのは記者のアン―ソフィー・ガリゴウとデザイナーのディミトリス・ギカス。専門家や寄稿者のネットワークとともに、テクノロジーから芸術、政策からサステナビリティ、ベンチャーキャピタルからクリーン・テクノロジーのスタートアップ企業まで、さまざまな話題を取り上げる。私たちが語るのは、「エネルギー転換」という世界共通の関心事。The Beamはすでに欧州のほとんどの国のみならず、ニジェール、ケニヤ、ルワンダ、タンザニア、日本、チリ、米国でも流通している。でもまだ始まりにすぎない。今後の進展にご注目のうえ、FacebookTwitterInstagramMediumでフォローをお願いします。

この記事は、CleanTechnicaのThe Beamが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。