IDから性別欄をなくそうとする国があれば、男性優位の根深い国で声を上げることを始めたばかりの人たちもいます。国や地域によって違う、世界のジェンダーとダイバーシティ。様々な取り組みの最前線から、話題のフェムテック・プロダクトまでを紹介します。今回は、アジア圏から、タイ、台湾、韓国、パキスタン、インドの事例をピックアップ。
【タイ】
LGBTQ+Welcoming Destinations
ジェンダーニュートラルな、観光立国のツーリズム。
「人は人、自分は自分」と多様なジェンダーに寛容なタイでは、日本よりも性的指向がオープンと言われる。女性同士、男性同士などで楽しめる、旅の提案もたくさん。写真提供:タイ国政府観光庁
「家族にLGBTQ+をカミングアウトされた場合、受け入れるか」。6年前の世論調査で、すでに約8割がイエスと答えていたタイ。ニューハーフショーやトランスジェンダーに特化した美人コンテストに加えて、大手企業がプロモーションのひとつとしてジェンダー問題を提起する動画をつくるなど日常的にLGBTQ+に触れる機会は多い。近年はトランスジェンダーを公表する国会議員の選出、シビル・パートナーシップ※法案の承認などが話題に上っているが、今注目したいのは国として「LGBTQ+フレンドリー/ツーリズム」を提唱していること。
※シビル・パートナーシップとは、結婚に似た「法的に承認されたパートナーシップ」のこと。
タイ国政府観光庁(TAT)が旗振り役となり、世界に向けて東南アジア初となるLGBTQ+に特化したシンポジウムを開催し、各地のホテルやサービス施設と連動したプロジェクトを展開。同性同士のウェディングプランも提供されるなど、観光立国タイの新たな一面が見えつつある。発信するメッセージは「Open to the New Shades(新しい色合いへのいざない)」。法整備という課題はあるが、性別はもちろん国籍や肌の色といった違いにかかわらず、すべての人を受け入れる土壌がタイにはある。
【台湾】
PROJECT UNI-FORM
性別に関係なく着たくなる、POPな制服!
11のコレクションからなり、ジェンダーを超えてそれぞれが「個人」として好きな物を選び、自由にスタイリングし、自分らしさを表現できる。オンラインで購入も可能。
台湾はアジアで初めて、同性婚の合法化をするなど、ジェンダーにおいて革新的な存在である。なかでも2020年秋、「VOGUEファッション・ウィーク」で発表された、デザイナー、アンガス・チャンによる〈PROJECT UNI-FORM〉はセンセーショナルだった。
ジェンダーの固定観念を崩そうと、台北のとある高校の生徒たちが行った、1日異性の制服を着て過ごすというイベントからインスピレーションを受けたチャンの制服は、瞬く間に台湾中の学生を魅了。
賛同した多くの学校が、この制服をベースに各々にカスタマイズしたデザインを発表することでレスポンスし、プロジェクトの精神を共有。まだ実用化はしていないが、既成の概念に身を委ねるのではなく、生徒も先生も皆で考える、ポジティブな発信となった。そこには着てみたい! と思わせるPOPなデザインがある。
【韓国】
Purplay
女性映画専門の動画配信プラットフォーム。
会員2万人のうち9割が20~40代女性。1作品500~4000ウォン。
「女性映画を気軽に視聴できる場所を作りたい」という思いから、2017年に誕生した動画配信サービス〈Purplay〉。映画『はちどり』のキム・ボラ、『私たちの生涯最高の瞬間』のイム・スンレ、ドラマ『保健教師アン・ウニョン』の演出家でもあるイ・ギョンミら有名女性監督の初期作品を始め、ほかでは見られない短編やアニメなど300本以上の女性映画を保有。
創業者のチョ・イルチ氏は、韓国クィア映画祭の前事務局長。
ジャンルやテーマ別の分類はもちろん、監督・脚本・主演のいずれかが女性の「F等級」、すべてが女性の「トリプルF等級」など、ジェンダー&ダイバーシティ指数を元にコンテンツをキュレーションする。ウェブマガジン配信や女性映画上映会などの開催にも積極的で、2021年3月にはOTT(オーバー・ザ・トップ)企業としては初の社会的企業に認定された。
【パキスタン】
Arranged!
望まないお見合い結婚を体験できるボードゲーム。
ゲームを通して自国の問題に取り組む。現在、別のゲームも考案中だ。
南アジアでは早くに結婚を強いられることで、女性が勉学やキャリアを積めず、男女格差が生まれてしまう一因に。アメリカの大学で学んだデザイナー、ナシャラ・バルガンワラも同様に、勉学を続けることを反対されていた。そんな自身の経験から考案したボードゲーム〈Arranged!〉は、プレーヤーが見合い結婚を成立させようとする仲人から様々な理由で逃れるという、ユニークな作品。
2017年にクラウドファンディングで資金を募ると、世界中から注文が集まった。収益の一部は自国の学童教育へ寄付し、女の子に教育を届けるための資金に。世界にこうした現状を伝え、また、その境遇にある女性たちに、自身の選択肢や意見に自信を持つように、との彼女の願いが込められている。
【タイ】
Sarin by Sarin
男性も履ける、ハイヒールブランド。
タイのLGBTQ+コミュニティで存在感を強める、元人気ボーイズバンド出身のクーアンも愛用。「憧れだったヒールが毎日履けてうれしい!」とコメント。
ニュートラルをテーマに掲げて〈Sarin by Sarin〉を立ち上げたのは、長身かつ足が大きいため理想の一足に出合えなかったサリン姉妹。「服にはフリーサイズやオーバーサイズがあるのに、なぜハイヒールにはないのか」。そんな悩みを抱え、自ら作り手に回ったハイヒールのサイズは男性でも履けることを意識した25.5cm以上。
ヒールのほかにサンダルなどもあり、オンライン注文・国外発送も可能。
国産にこだわり、ほとんどの素材をタイで調達。高品質な牛革を用いて高級感を演出しつつ、従来より重い負荷に耐えられるようにヒールには鉄芯を取り入れて、華やかさと安定感を同居させた。
また、人によって異なる足幅の調整が利くようストラップにはゴム素材も導入。色みは、どんな肌にも合うベーシックなものをチョイス。今後はさらにジェンダーに悩む人たちの声を取り入れ、一人ひとりの要望に応えたオーダーメイドも実施予定。
www.instagram.com/sarinbysarin
【インド】
SIROHI
女性職人の雇用で経済的独立を促し、男女格差解消に挑むブランド。
北インドの農村地域には、女性による素晴らしい織りの伝統技術が残っている。そこに注目し、女性たちの雇用機会を増やし、男女格差解消への取り組みを行っているブランドが〈SIROHI〉だ。
〈SIROHI〉の人々。経済的に独立している自信が、笑顔に表れている。
もともとこの地域の女性は働くことに抵抗があり、当初はたった1人だけが作業に参加していたが、次第にその数は増え、現在では200人以上の職人が働く。それまで夫に依存していた彼女らは、ここで働くことにより経済的にも独立し、男性と肩を並べた生活を送れるように。
シグニチャーのチャーパイ。
織物に使用する素材は、コットンやジュート繊維などの天然素材から、アップサイクルされたプラスチックごみ、ハギレなど、サステナブルを徹底し、CO2排出量も削減。インターナショナルな需要にも応えうるデザイン、モダンと伝統技術を融合した製品は、どれも美しく、欲しくなるものばかり。
チャーパイに寄りかかるのが、創設者のガウリ・ゴパル・アグラワル。
なかでもシグニチャー商品で、インドでは欠かせない、チャーパイと呼ばれるデイベッドは人気。
そのほかバッグなどの小物もあり、それぞれの商品に製作時間やCO2削減量が記載されているのも面白い。伝統技術を継承しながら、多角的に問題にアプローチしている。
●情報は、FRaU2021年8月号『FRaU SDGs』発売時点のものです。
Text:Misato Yamagata,Yumiko Nakanishi,Reiko Fujita Edit:Asuka Ochi