近ごろ、巷にあふれる「SDGs」(エスディージーズ)という言葉。2021年の新語・流行語大賞にもノミネートされ、国内の認知度は5割を超えた。しかし、あやふやな理解のままで‟知っているつもり”の人も多いのではないだろうか。そこで今回は、一般社団法人「日本SDGs協会」に取材を依頼。同協会は企業・組織・教育機関・個人のパートナーとして、SDGsの理解や取り組みを支援している。学生局統括の奥村光貴さんに、SDGsのキホンを徹底的に聞いた。

【インタビュイー】

奥村 光貴(おくむら こうき)

1999年生まれ。2018年、京都大学工学部に入学。2019年、最先端の教育を学ぶためにデンマークへ留学。学校や街中で「Sustainable」(サステナブル)が当たり前に重視される環境に感銘を受ける。2020年、一般社団法人日本SDGs協会の学生局統括に就任。SDGsの周知活動などを行う。2021年より株式会社サイエンスクラブに参画し、科学教育と地域創生を結びつける事業を展開。2022年度からは京都大学大学院に進学予定。

‟持続可能”というキーワードが示唆する世界危機

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―そもそも「SDGs」とは何ですか?

2015年の国連サミットで加盟国が合意して採択された国際目標です。正式には「Sustainable Development Goals」、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。このような後戻りできない共通のコンセンサスを得たことで世界中の国・地域・組織、そして人々が協働してゴールに向かえます。

―法的拘束力のある条約ではなく、努力目標のようなものですか?

日本語のニュアンスとしては「目標」というより「指針」に近いですね。17のゴールの下に169のターゲット(解決すべき課題)があり、231(重複を除く)の指標指標が設定されています。

ただし、すべてのゴールの達成度がが数値化できるわけではありません。主体的に目標を設定し、2030年の期限からバックキャスティング(逆算思考)で行動計画を立てることが重要です。未来のあるべき姿を起点にして、今、何をするべきかを考えます。

―「持続可能」という日本語もピンときません。改めて、意味を教えてください。

「Sustainable」(サステナブル)の和訳です。原語には「維持できる」「耐えうる」という意味があります。裏を返すと、「このままでは地球や人類の繁栄が持続できない」というメッセージがこめられています。

たとえば、ある川に魚が生息していると仮定しましょう。地元の人が釣りをする程度であれば、生態系は崩れません。でも大規模な底引き網漁をしたら、魚が全滅しかねない。すると、元の状態に‟回復”できなくなります。これは河川のたとえ話ですが、このような問題が地球規模で起きているのです。

「SDGs≠エコ」。社会・経済・環境の3要素を包括

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―「SDGsはエコロジーの話」と認識している人もいます。でも環境分野だけの概念ではないんですよね?

そうですね。※17のゴールは「社会」「経済」「環境」の3側面に大別できます。これらを統合・調和させて、地球上の‟誰ひとり取り残さない”ことがSDGsの理念です。

たとえば、風力発電所はゴール7「エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」につながります。でも建設のために森を切り拓くと、ゴール15「陸の豊かさも守ろう」に反する。そういったトレードオフ(二律背反)に留意しながら、包括的に満たすことが求められます。

※17のゴールの詳細については、以下URLの記事をご参照ください。

>>【SDGsとは(持続可能な開発目標)】17の目標と世界の取り組みを紹介

―なぜ17個もゴールがあるのですか?

「17」という数字に深い意味はありません。さまざまな有識者が国連で話しあった結果、17の方向目標にまとまりました。「人類は数多くの共通課題を抱えている」というくらいの理解でかまわないでしょう。

―ゴールをめざす主体は国ですか?

いえ。国連の2030アジェンダには「国だけでなく、あらゆる組織と人が取り組む必要がある」という趣旨が記されています。ですから、国や他人まかせにせず、一人ひとりが当事者意識をもってほしいですね。

―SDGsが生まれた背景を教えてください。

SDGsの前身には「MDGs」(エムディージーズ)と呼ばれる国際目標があります。これは2000年の国連サミットで採択された「ミレニアム開発目標」。おもに開発途上国を対象として、児童の就学率の向上や栄養、健康など8つのゴールが掲げられました。

このMDGsは一定の効果をあげ、2015年に期限を迎えました。しかし、気候変動など地球規模の課題は残されたまま。そこで新たなゴールが追加され、すべての国を対象とするSDGsが生まれたのです。

もうひとつの源流には、国連の「環境と開発に関する世界委員会」があります。1987年、同委員会において「持続可能な開発※」という概念が提唱されました。その後、さまざまな国際会議での議論を経て、SDGsにつながります。したがって、経済成長を否定するような思想ではありません。

※持続可能な開発とは、「将来の世代の欲求を満たし、現在の世代の欲求も満足できる開発」のこと。

その商品が「地球にやさしい」ってホント?

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―SDGsが採択されたのは2015年ですよね。なぜ、最近になって見聞きする機会が増えたのでしょう?

※ESG投資:投資対象として企業の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に関し、工場のCO2排出量削減活動・ゼロエミッション、女性役員登用、情報開示・社外取締役など非財務情報の要素を考慮した投資。2006年国連アナン事務総長が責任投資原則(PRI)を投資家に呼び掛けた。

―若者がSDGsに取り組む場合、何から始めればいいですか?

ムリに特別な活動を始める必要はありません。まずは身近な商品の選び方などから、SDGsを意識してみてください。

たとえば、石けんを買う場合。ひと昔前に「地球にやさしい」というキャッチコピーの商品がありました。その理由は石油を使わず、植物性のパーム油を原料としているからです。しかし、パーム油の原産国では、大規模な農園をつくるために森林伐採が行われていました。生態系への悪影響、児童労働の問題なども起こっていたそうです。トレードオフが起きていたわけですね。

つまり、私たちの消費行動はリスクであり、可能性でもある。表面的な宣伝文句だけで判断せず、原料の調達や製造工程、流通、販売などのサプライチェーンまで思いを馳せることが大切です。SDGsという世界共通の指針を通して、日々の行動を見つめ直してほしいですね。